第28話 確かで僅かな勝機

 合計3回。


 カイトに叩きこんだ爆撃の数である。


 加えて心臓は槍で貫いている。


 だが、カイトは死ぬどころか、より獰猛さを増している。


 あり得ない……ということはない。


 この塔の力によって、人ならざる力を引き出されているのだ。


 けれども、それはリュックも同じではないのか?


 リュックの力を欲した願い。


 そして、英雄を生み出すという重要な任務を帯びた塔の力。


 少なくともリュックには、大量の魔力が塔から供給されている感覚はある。


 ならば……英雄を生み出す天秤は、カイトに大きく傾いているのだ。


 リュックよりもカイトこそ英雄に相応しい。


 塔という英雄量産システムは、そう判断してカイトに魔力を多く送っている。


 それだけの話。 だが……リュックにとっては納得できない話である。


 「なぜ?」と彼はつぶやく。 それはカイトに向けた呟きではない。


 では、誰に? 


 塔に…… あるいは塔を作った神々に……


 「カイトの願いは正しい事を行うための力じゃなかったのか! これが! 本人の意思も、人としての尊厳も奪って、これが正しいのか? 正義なのか!」


 咆哮の如く、リュックの叫び。


 吐き出された気迫は、もはや神の領域に至ったカイトの動きすら威圧する。


 裂帛の気合。


 一瞬の隙をリュックは逃さない。


 手にした武器は長剣。 動きを止めたカイトの首へ横薙ぎの一撃を見舞う。


 しかし、金属音。


 リュックの一振りをカイトは剣で防いだ……わけではない。


 むしろ、カイトは動かなかった。


 確かに、リュックの剣はカイトの首筋に届いていた。


 だが、カイトの首は金属音がするほどの硬質化していたのだ。


 剣で首を跳ね飛ばそうとしても、斬れぬ首。


 槍で心臓を貫いても動き続ける肉体。


 幾度となく爆薬を受けても、復元の如く回復力。


 それを誰が人間と呼ぶだろうか?


 だが、それでも……リュックは諦めない。


 「――――ッ! それでも僕は――――」


 塔から受けた魔力供給を一撃に込める。

 

 「ファイア!」

 

 超至近距離での炎魔法。


 しかし、その威力はリュックが利用してきた爆薬よりも劣り……


 ――――否。劣るはずだ!


 では、なぜだ?


 なぜ、カイトは片手で顔を守り、明らかにダメージを受けている?


「……塔の力だからか?」


 それを口にした直後、リュックとカイトは同時に動いた。


 距離を取り、魔法を放ちたいリュック。


 距離を縮め、接近戦で仕留めたいカイト。


 逃げるリュック。


 追うカイト。


 本来、有利なのは追う方。


 背後を気にしながら逃げなければならないからだ。


 だが、逃げる方が必ずしも逃げるだけとは限らない。


 間合いを詰めたカイトは、リュックの背を狙って剣を振り下ろそうとする。


 だが――――


 「ファイア!」


 直前で反転したリュックの魔法がカイトに直撃する。


 人が受けて生き延びるほど、ぬるい火力ではないのだが、カイト相手には足止めにしかならない。


 けど―――



 「足止めだけで十分だ。


 ――――ギガファイア!」 


  

 

  



   

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