第29話 決着!?放たれたギガファイア

 リュックとカイトの闘争。


 そこには見えざるルールが存在していた。


 塔から両者に供給される力の奪い合い。


 願いを叶えるシステム。 英雄を生み出すシステム。


 その2つが塔の存在意義。 


 だからこそ、『願い』と『英雄誕生』という概念に従った方に強い力が配給されるのだった。


 カイトの願いは―――


 『正しいことを突き進められる意思の強さ』


 その願いは大きく捻じ曲げられた。


 英雄として相応しい願いを悪を許さぬ正義心。


 それは狂気に転換され――――


 正しい事を突き進める意思の強さ。


 それは、意識ある限り突き進む不死身の肉体にされ――――


 カイトは狂戦士の英雄として完成形とされた。



 その一方でリュックはどうだろう?


 リュックの願いは――――


 『誰にも憐れられない強さ』


 それは弱者から生まれる英雄の理想形。弱き者たちの希望である。


 それ以降の願いも母親を、愛する者を救うための願いと解釈され、塔をリュックに力を施した。


 だからこそ、リュックには精神面で塔から強い影響は受けなかった。


 『正義心』『勇気』『狂気』etc.etc.


 感情や人格に影響を与えてしまえば『弱者』というリュックが持つ英雄としての性質が失われてしまうからだ。


 さて――――


 塔が持つ英雄を生み出す力。


 その使いどころが、この戦いの勝敗を決めるルールというのではあれば、勝敗の天秤はカイトに傾いていると言わざる得ない。


 しかし、リュックはそのルールに欠片に触れた。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「ギガファイア!」


 現れたのは太陽の如く巨大な球体である。炎によって成形された球体。


 それをカイトへ叩きこむようにリュックは放つ。


 だが、比べると小型と言える通常の攻撃魔法『ファイア』と比べると、明らかに遅い。


 余裕をもってカイトは避け――――「カイトおぉ!」


 できなかった。なぜなら、球体を発射させた本体であるリュックが素早く前に――――そのまま、カイトの体を掴む。


 「うおぉぉぉぉぉぉリュックがががが!?」


 野獣の如く咆哮。爛々と光る紅眼と表情で怒りを表現するカイトだったが……


 投げの一閃。


 迫りくる巨大な炎の塊に向けてカイトを投げ込む。 


 断末魔を思わせる雄たけび。それも徐々に小さくなり、肉が……人間が焼ける音が小さく聞こえる。


 この時、両膝から崩れ落ちたリュックの心に飛来した物は後悔。


 殺し合い。 それしかできなかった。


 「……もう少し、ほんのもう少しだけでも僕が強ければ、他の選択肢があったのかもしれない」


 体が泥に沈められたように鈍い。


 勝利の余韻など皆無。 呆けたように視線は宙を向く。


 もはや――――××なんてできる精神状態ではなくなっていた。


 しかし、は待ってなどくれない。


 熱によって揺らめき、蜃気楼のようにゆらゆらと…… 黒い影がリュックに向かって歩いている。


 ……戦いは、まだ終わらない。



 


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