第26話 闘技場での最終決戦

塔への入り口。 


普段と違って老婆がいない。 しかし、塔への入り口は開いている。


リュックは、警戒しながらも進んだ。


いつもなら、塔へ入った直後には意識が失られ、部屋で目を覚ます。


そして、カイトが起こしてくれた。


しかし、今回はそれがない。


リュックは、ただ階段を下りていく。


階段を挟んで左右には観客席が広がっている。


その観客席に座っているのは老婆だ。 1人、2人ではない。


目に見える限り、同じ顔の老婆が座っている。 見える限り、その数は数万人だ。


数万人も同じ顔の老婆が座って、こちらを見つめている風景は悪夢のようなものだった。


リュックは、気持ち悪さを覚えながらも階段の先に視線を移す。


平らな広場。 足元は砂地。 


それで、リュックも理解した。ここは闘技場だ。


死の遊戯を繰り広げた塔の最上階。 


きっと、そこにたどり着ける者は2人だけなのだろう。


勝者は1人だけ。


そして、リュックを待ち迎えるように闘技場の中心には人が立っている。


その剣を地面に刺し、柄を両手で抑えて体重をかけている。


うっすらと開いていた瞳がリュックを捉えた。


「待っていたぞ。リュック」


「あぁ、待たせたね。カイト」


「俺の目は赤く染まっているか?」


「……うん」


「そうか。もうすぐ俺の意識はなくなる。もう誰の物かわからない価値観で人を殺すだけの存在になる」


「……うん、わかっている」


「だから、ここでお前の手で打ち取ってくれ」


それだけを言い終えた。それは遺言。もう、カイトの意識、精神、存在は……


咆哮


獣じみたそれが戦いの合図になり、カイトは飛び出してきた。


振り下ろされた剣をリュックはナイフで受け止めた。


斬撃の重さ。


体がバラバラになりそうな一撃。体内で関節という関節がギシギシと悲鳴を上げている。


リュックは前蹴りでカイトを蹴り剥がす。


後方に飛ばされたカイトは、一瞬で体勢を直すと体当たり。


剣技に的を絞っていたリュックにとって意表をつかれた攻撃。


小柄な体が浮き上がる。空中で無防備になった瞬間にカイトは追撃。


横薙ぎの一撃を避ける手段をリュックは持たない。


金属音が鳴り響いた。


カイトの一撃を受けたナイフは砕け散り、刀身だった部分は宙を舞う。


そのまま剣撃はリュックの胴に吸い込まれた。


次に舞うのはリュックの鮮血だ。


強烈な一撃。 複数人を並べ、胴を切断しても足りる一撃だったはず……


それでも、リュックの胴は切断されず、生存を許された。


衣服の下には薄いながらも金属製の胴台と言われる防具。


――――さらには鎖帷子。


金属の衣服。その重さから、およせ実戦的ではないと意見もある防具ではあるが……


それがリュックの命を紡いだ。


(2合……たった2合の攻防で、このダメージか)


リュックは自虐的に笑い、距離を取る。


それに何を思うか、カイトは追おうとはしない。


その隙に背負った荷物を降ろす。


内部には数々の道具。 武器も、防具も、怪しげな薬品の数々……


それをこの戦いでリュックは解禁する。



  




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