第24話 ゴブリンの主との戦闘
このダンジョンの主。
ゴブリンと呼ぶにはグロテスクな存在がいた。
小柄なリュックではあるが、それを差し引いても見上げるほどに巨大な肉体。
ただ、巨大なゴブリンというだけではない。
下半身はケンタウロスのように四足。 半人半馬……いや上半身がゴブリンの時点で正確には半人半馬ではないけれども……
背中には、何かが蠢いている。よくよく見ると、それが触手ということがわかる。
タコやイカのような触手で、触れた者を吸い付けるように吸盤が見えている。
突然変異的ゴブリン……いや、待て。 それって本当にゴブリンか?
そんな感想をリュックは抱いたが、当然ながらゴブリンは待ってくれない。
威嚇するような咆哮。 四本足のヒザを深く折り曲げ、いつでも飛び掛かってくる体勢。
リュック早くも後悔。
なぜ、自分は、わざわざ出入口を蹴り倒して乱入したのだろうか?
しかし、そんな反省は後回しにするべきだろう。 なぜなぜなら、ゴブリンのボスは、既に飛び掛かってきている。
馬のような下半身の跳躍力。 リュックの遥か頭上まで飛び上がり、飛び蹴りというよりも落下攻撃。
地面を転がるようにリュックは回避していた。
だがゴブリンの主の攻撃は止まらない。 丸太のように太い腕を振り上げると―――
振り下ろす。
リュックはそのまま地面を転がり続け、紙一重の回避。
だが、止まらない。 ゴブリンの主の追撃。
振り下ろす。 振り下ろす。 振り下ろす……
「――――ッ!?」といずれ避けきれなくなるとリュックは判断すると
「ファイア!」
回転の最中に腕を突き出し、炎魔法を浴びせた。
「GOGOBOBOBO!?」を顔面を焼かれたゴブリンの主は悲鳴のような声を上げる。
その声で「あっ、本当にゴブリンだったんだ」とリュックは場違いな感想を抱いた。
いつの間にか、落としていたナイフを拾い上げ、構える。
ゴブリンの主へ向かい戦闘の意志を見せつける。 魔物が行う威嚇と同じ、人間が見せる威圧である。
それを受けてゴブリンの主は咆哮。
「GAGAGOGOGOGAAAAAAAAAA!!」
そして、攻撃。 だが、しかし――――
その攻撃をリュックは知覚する事もできなかった。
破壊音と共に、リュックの真横の足場に亀裂が生じた。
「なにが!?」と驚く半面、リュックは冷静に分析していた。
おそらくは、あの触手。 タコやイカのように吸盤のある触手を鞭のように撓らせて攻撃してきたのだ。
攻撃が外れたのは炎魔法で顔を焼かれたため視力にも影響が出ているのだろう。
しかし、ゴブリンの主の触手は2本。
「えぇい!くそ!」と覚悟を決めたリュックは前に飛び出す。
遠距離戦は不利。
リュックの魔法も遠距離戦に無類の強さを発揮する。だが、この場所は開かれた空間。
遮蔽もない空間で遠距離攻撃の撃ち合いは不利との判断だった。
ゴブリンの主。その表情からは――――
(愚かな人間め。この我に接近戦を挑むとは愚か!愚か!愚か!)
表情からゴブリンの感情を読み取るなんて嫌なコミュニケーション能力だ。
苦笑をしながらも接近戦。
ゴブリンの主が繰り出す、強烈な前蹴り。 当たれば一撃骨折コース。
それを前に出ながら、回避。 真横に通り抜ける攻撃の足にナイフを通すリュック。
ゴブリンの主は痛みに引かず、腕を振り回して攻撃を続ける。
避けるリュック。 避けると同時にナイフで斬撃を与えることも忘れない。
さらに触手攻撃。 接近戦では鞭のように高速化できないのだろうが、それでも体に絡みつけて拘束を狙ってくる。
「この……次から次へと!」
魔力で強化されたリュックの一振りは、その触手を切断してみせた。
ゴブリンの主から痛みの表情が見えないのは、触手に痛覚がないからか?
敵から攻撃手段を1つ奪ったという安堵感。
しかし、その安堵感は、すぐに「はぁ?」と驚きに変化。
切断したはずの触手が再生を始まった。
(くっくっくっ……だから、愚かだと言ったのだ人間よ)
そう語りかけてくるゴブリンの主の表情。 満面の笑みだった。
「コイツ!」とリュックは、体内に魔力の張り巡らせ、さらなる加速を開始した。
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