第21話 唐突に行われた狂乱の犯行
「これで終わりだ!」
カイトは、最後に残った天使像に向かって駆け出す。
その気迫に恐怖を感じたのか? 天使像は背を向けて逃走を計る。
だが、既に手遅れ。 背後から迫るカイトは、そのまま後頭部を掴み――――
太陽を現す球体まで投げ飛ばした。
これで14体全ての天使像……イカロスが消滅した。
「やれやれ」とアダムとイブが地上に着地した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
アダムとイブの兄妹。
彼と彼女の願いは1つになる事。
精神的に……とか、肉体的に……とか、そういう意味ではない。
幼い頃から2人は2人でいること違和感があった。
だから2人の願いは完全な1になる事。
アダムとイブと言う人物を1人の人間に融合させ、過去の記憶も2人の歴史も塗り替える。
それは、もしかしたら2人が両親から虐待を受けていた事が関係しているかもしれない。
虐待が始まったきっかけは、2人が生まれる前の話だ。
2人の母親が、生命を宿した頃に町で呼び止められたそうだ。
呼び止めた人物は占い師。 よく町の隅で用意した椅子に座り、占いで小銭を稼いでいる老婆だ。
しかし、この老婆に占い師として実力が皆無というわけでないようだ。
そうでないと、2人の母親が足を止めるわけがない。
母に宿る生命が男女の双子だと言い当ててみせたそうだ。
それから、こう続けた。
「古くから双子は厄災の象徴だよ」
きっと、この老婆……双子に何らかの恨みがあったのだろう。
面白半分の戯言だったらしい。
母親も馬鹿馬鹿しいと思った。……この時は。
しかし、不思議なもので、人間うまくいかない時の原因を自分以外に求めるものらしい。
父親が失職したのは、お前らのせいだよ。
うちが貧乏なのは、お前らのせいだよ。
昨日、財布を落としたのは、お前らのせいだよ。
どんなに些細な出来事、どんなに些細な失敗でも2人が原因にされた。
理不尽。ただ、圧倒的な理不尽。
しかし、母親にとっては、双子が厄災の象徴。
不運を運んでくる疫病神なのだから、このくらい言ってもいい。当然の権利だ。 むしろ、私はコイツ等の被害者なのだ。
そう思っていた。 彼女が2人の殺される直前まで……
実の母親を肉塊に変えたアダムとイブは、その足で別の場所に向かった。
以前から居場所を探していた占い師の家。あの老婆の家だ。
自分たちを厄災だと言い当てた占い師の老婆とは、どのような人物だろうか?
そんな期待もあったが、実際に会ってみると期待外れだった。
どうやら老婆は自分の死を占う事もできなかったようだ。
こうして厄災の象徴から外れた2人は自由を手に入れた。
しかし、それでも……
もしも自分たちが双子じゃなかったら……
そんな事を考える日もあった。だからこそ、望んだ。
2人の未完成ではなく、1人の人間として人生を歩み直したい。
しかし、そんな2人の願いは叶うことはなかった。
なぜなら――――
現在――――
「え?」とアダムは呆けた顔を見せた。
突如として胸に芽生えた異常な熱量。 それから体の熱を吸い込んでいく冷たい何か…… その何かが金属であり、剣だと知ってもアダムは自分の身に起きた事が理解できなかった。
背後から、何者かが剣で刺した。
その事実を理解するよりも早く、アダムは事切れていたからだ。
一体、何が起きたのか?
半身を失った事を理解しきれないイブにも凶行は及んだ。
さっきまでアダムが握っていた彼のナイフ。 それを拾い上げたソイツはイブの胸に向かって投擲。
ナイフを突き立てられたイブは、自身の身に起きた出来事を理解する間も与えられず、倒れた。
おそらくは即死。
この場に残された生存者は、リュックとその人物だけ。
つまり、突然の凶行に及んだ人物とは
カイトだった。
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