第20話 物語と天使像の正体
イカロスの物語。 それは文字通り墜落の物語。
因果応報と言い切るには、いささか理不尽ではあるが……
彼の父親、ダイダロスはミノス王の命令によってミノタウロスを封じ込める迷宮を作った人物である。
英雄テセウスがミノタウロス退治に乗り出した際に、ミノス王の娘であるアリアドネはテセウスに恋をしてしまう。
そんな彼女は迷宮の製作者であるダイダロスに、迷宮からの脱出法を訪ねる。
彼は、糸を差し出す。
「これを体に巻き付けて進みなさい。そうすれば帰り道の道しるべになるだろう」
これが有名なアリアドネの糸の話。
そして、この話はミノタウロスが討伐された後にも続きがある。
ミノタウロスは、怪物に変貌したとはいえミノス王の息子である。
それが隷属させて国の王子が倒した?
しかも、ミノタウロスを倒す手助けをしたのが自分の娘?
ふざけるな!とミノス王は激怒した。 その、とばっちりを受けたのがダイダロスだ。
その罪と罰により、ダイダロスは息子イカロスと共に高い塔に幽閉されてしまった。
しかし、この親子……こともあろうに脱獄を誓うのだ。
何も道具のない牢獄の塔、彼らが利用したのは蝋だ。
熱により溶けたロウソクから垂れる蝋を集め、固め直して羽を作る。
この時、父ダイダロスは息子イカロスに――――
「この羽は熱に弱い。決して太陽に近づかずに低空飛行で風に乗って飛ぶのだ!」
「わかったぞ!父上!」
しかし、このイカロス……
人が空を飛ぶという偉業に魅了させたのか…… それとも、ただの阿呆なのか?
父との約束を忘れ、高く高く天空を目指して飛び上がっていったのだ。
まだ、神話の時代である。現在とは、まるで違う理の世界。
空を高く昇れば、そこは天界であり、地を深く掘り進めば、そこは冥界。
太陽は絶対零度と放射線が飛び交う宇宙に存在している……わけではない。
ただ、空高い天空の世界に太陽は漂っている。 そんな神秘に片足を突っ込んでいる時代である。
空高きにある太陽に向かい――――否。 太陽に対して戦いを挑むようにイカロスは向かって行く。
なぜか? もしかしたら、人は太陽すら屈服させたい。そんな欲望があったのかもしれない。
強きものには挑まざる得ない。そんな人間が持つ戦闘民族としての本能。
太陽とイカロスの戦い。それは激戦を極め、最後には手にした武器である蝋の翼すら焼き落され――――
それでも翼を失っても、なお高く高く――――
ただ高みを目指してイカロスは――――
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
14体の天使像はイカロスを模した物。ならば、その弱点は太陽。
周囲に浮かぶ9つの球体。
つまりは、太陽、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星を現している。
だったら、太陽に天使像をぶつけてやれば……あれ? ってリュックの思考は、そこで停止した。
「……どれが太陽だ?」
見上げると9つの球体。それらに区別がつかない。
どれが1つ輪でもついていたら土星だとわかり、そこから太陽の位置を割り出せるのだが……
規則正しく並んでいる球体のどこを見渡しても輪もなく、大きさも同じだ。
どうする? どうすればいい? 太陽の位置がわからない。
しかし、そんな時である。
地上で暴れ狂う天使像と戦い続けているカイトが声を張り上がる。
「何を悩んでいるのか知らないが、わからないなら俺たちを使え!」
その声はリュックは
「あぁ、その通りだったよ」と笑った。それから、
「カイト、それからアダムとイブ! その天使像を球体にぶつけるんだ。どこでも構わない!」
「やれやれ」とカイトは天使像から振り落とされた剣を受けず、一瞬で間合いを詰めると手首を掴み、剣を止める。
続けて、自身の剣を投げ捨てると空いた手で天使像の首を絞めるように掴み――――
一気に投げ飛ばす。
その高さは設置されている球体の位置までだ。
球体に激突した天使像は、そのまま地面に墜落していった。どうやら、外れのようだ。
「次はあれ以外を狙ってくれ」
「ハイハイ」と魔力噴射で飛んで戦っているアダムは、近くに飛んでいる天使像の羽を掴む。そのまま、振り回すような動作で天使像を球体へ激突させた。
それをイブも「キャハハ!」と続ける。
アダムはともかく、イブがどうやって飛んでいるのかはわからない。
魔力以外の力のようだが……
そして、ついにその時が来た。
一体の天使像が球体に衝突した瞬間だった。
「HOUNUUUUUUUUUUUUUGAAAAAAAAAAAA!??!」
と断末魔を残して消滅したのだ。
「そこだ! みんな、あの球体に天使像をぶつけろ!」
リュックの雄たけびと共に、この階層の遊戯は決した。
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