第17話 第三層と2人の子供

 祝杯……は抑えめだ。


 過去には、魔物たちを追い払い祝杯をあげていた時、撤退したと思われた魔物たちが戻ってきてた戦いがある。 後世ではいう酩酊戦争だ。

 

 そのため、戦争直後の祝杯はグラス1杯のみだと軍法で定められている。


 ……とは言え、食は別だ。


 「これ使うか?」と兵士の声。


 見れば、巨大な鍋が置いてる。 城壁を登ってくる魔物に油をかけるのに使っていた鍋だ。


 兵士たちの視線は地面に落ちた敵の大将。飛竜を見ている。


「た、食べるのか? あれを?」と思わずリュックは声に出した。


「う~ん、流石に真っ黒だからな……」


「それに竜の息ブレスを再現するために腑分けするって、えれぇ学者さまが言ってたわ」


「そんな事よりも、うまいのか? 飛竜?」


「蛇みたいなもんじゃろ!」


「じゃ、血抜きして、骨も取らねばならんだろ。もうまる焼けで無理だわ」


「……まる焼けなら、そのまま食べれねぇ?」


「「「それだ!」」」


本当に食べる雰囲気になっているのでリュックは、その場から離れた。


しかし――――


「おっ! そこにいるのは功労者さまじゃねぇか」と別グループにつかまった。


「むむっ!」と警戒するリュック。 しかし、調理されているものは飛竜ではないようだった。


 「これ、何の肉ですか?」と調理していた男に聞いた。


 「へぇ、豚や牛ですよ」


 「普通だ!」 


 「うちは畜産農家なんだが、いよいよ戦争が始まるってことで避難したんだ。これは兵士さんたちへの差し入れですだ」


 そういうと男は、ぶっとい肉の塊に衣をつけると油を熱した鍋に入れる。


 肉が揚がる音がする。とんかつだ!?


 「でも、こんなに太い肉を揚げるのに中までしっかりと熱が通るんですか?」


 「そいつは大丈夫だ。 高温の油と低温の油を2つ用意している。高温で衣の中に肉汁を閉じ込め、低温で中までじっくりと火を通すって寸法よ」


 完成したとんかつに、野菜や果実の汁に調味料を加えて作られたソースをかける。


 それを「どうぞ」と木皿を進められた。


 リュックはゴクリと喉を鳴らして、口へ進める。


 サクサクとした歯ごたえと共にソースの甘みが口内に広がり、遅れてやってくる肉の旨味。


 カラっとした衣によって閉じ込められていた大量の肉汁が溢れ出す。


 疲労した肉体に活力を取り戻そうとする肉の力。 酷使された筋肉を回復させていく高たんぱく質。

 

 急務として体に必要な栄養を必要以上に補給。 枯渇していたエネルギーを取り戻す動き。それを肉体は、脳は……いや、舌はうまいと感じてしまう。


「ふぅ……」と安らぎを表現するようにため息を1つ。


 食により、生きている事を実感するリュックだった。


 

 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 「おやおや、今回は戦争に巻き込まれたって聞いて不参加って思っていたけど、よく間に合ったもんだね」


いつもの週1の夜。 例の場所で、例の老婆とリュックはあった。


会話もそこそこに「では開こうか」と例の呪文。


『呪うかえ? 自身の境遇を呪うかえ? 受け入れるが身の丈に合う幸せ。 それでも抗うかえ? 抗えば、汝に試練を与えん』


扉は現れた。3回目となるとリュックも慣れた様子で扉を潜る。


一度、意識は途絶え、再び目を覚ますといつも通りの個室。


そこにいたカイトに「やあ」と片手をあげて挨拶。 カイトも「やあ」と返す。


「それじゃ、行こうか」とカイトも慣れたものだ。


部屋の外を確認する。すこし予想外な展開。


部屋の外には2人の子供がいた。


10歳よりも下の年齢だろうか? 男女のペア。 よく似ている。もしかしたら兄弟かもしれない。


流れるような銀髪。 色素が薄く、白い肌に青い目。


それらが、どこか病弱なイメージを持ってしまう。


儚さ……というものなのだろうか? どこか作り物のような美しさを見出してしまう。


「……いやいや、こんな場所に子供なんておかしいだろう」


リュックが、そう結論付けるのに少しの時間が必要なほどだった。


どこか怯えている2人にできるだけ朗らかな笑みを浮かべて、


「君たち、名前は?」


「アダム」と男の子。


「イブ」と女の子。


「それは良い名前だね」


「「そうなの?」」と2人は示し合わせたかのようなタイミングで声を重ねた。


「うん、僕たち人間の最初の男の子と女の子の名前だよ」


「そうなんだ」 「初めて聞いた」


「僕の名前はリュックっていうんだ」


「ん~ 変な名前」


「あははは……よく言われるよ」


少しだけ、打ち解けてきた感じがした。 


「この子達……どうするんだ? リュック?」とカイト。


「どうも、こうも……この子達も、この遊戯の参加者なんだろ。ほっておくわけにはいかないよ」


「いや、そういうことじゃない」とカイトはリュックの腕を掴むと引き寄せ、耳元に口を近づける。


「いいか? この子供たちは3層までたどり着いているんだ。ただの子供のはずがないだろ」


リュックは、その意味に気付いた。 自分たちが体験したような遊戯を攻略して、この場所にたどり着いた? 年端のいかないこの子達が?


改めて、アダムとイブを見る。


しかし、2人はキョトンと無防備な感じで見返してくるだけ。


何か秘密があるのか? けれども、見た目ではわからない。


そんな不安要素の中……遊戯が始まる。 



 

 

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