14の天使と迷宮の作り手

第16話 冒険者のお仕事とは?

 冒険者とは何か?


 ギルドと言われる仕事斡旋所がある。


 そこで請け負う仕事は、村を襲う魔物退治の仕事。あるいは迷宮でしか採取できない素材集め。危険な護衛任務。


 しかし、冒険者はギルドから請け負う仕事だけで生活しているわけではない。


 なんせ冒険者だ。 その名の通り、冒険をするのは本能のようなものだ。


 誰も退治できない魔物がいると知れば挑み、宝の地図を手に入れれば旅にでる。


 今回のリュックは、そういう類の冒険で巻き込まれた。


 巻き込まれた? 何に?


 ――――戦争にだ。


 戦争。


 この時代、人類と人類の争いは極端に少ない。


 では、何と戦争するのか? 当然、人類対魔物だ。


 城。


 そして、魔物を侵入を防ぐために作られた城壁。


 しかし、壁の高さなど無意味だと言わんばかりに声がする。

 

 「GAHAHAHAHA……愚かなニンゲンども。もはや貴様らに逃げ場はなし、大人しく降伏せよ」


 そう聞こえてくるのは空高く。 降伏勧告を促す魔物がいる。


 その魔物は亜人系ではない。 飛竜ワイバーンだ。


 人語は話せるのは高い知性を有した特別種だろうか?


 なるほど、魔物の軍勢を率いて人と戦う大将には相応しい個体だ。


 「……答えぬか。ならば降伏の時間は終わりだ。やれ!」


 飛竜のかけ声に反応して地面から急上昇した2匹の飛竜。


 その開かれた顎から、赤い炎が見えている。


 竜の息ブレスだ。


 口から放たれる炎が混じった灼熱の息。 人は、それを受けて生きる術を持たない。 

 

 しかし、竜の息が放たれる直前、2匹の飛竜の口内に何かが投げ入れられた。


 それはフラスコに入った水だ。無論、ただの水ではない。


 強い可燃性を持ち、空気に触れれば、たちまち気化して広がる。


 つまり、火が灯れば爆弾に変化する水だ。


 当然ながら――――爆音。


「GUGAGAAAAAAAAAAAAA」と頭部を吹き飛ばされても辛うじて断末魔を上げる猶予は許されたようだ。


 大将の飛竜は、何が起きたのか? と呆けるのも一瞬の事だった。


「オノレ、オノレ……ニンゲンどもが! 進め!」


 飛竜の号令を受け、地上ではオークとゴブリンで編成された軍隊が動き出す。


 人と魔族の戦争が本格的に始まる。 そんな場所にリュックはいた。


 いたというよりも……


 「凄い精度だな冒険者! まさか、この距離で飛竜の口に投げ込んじまうとは思わなかったぜ!」


 と、周囲の兵士に讃えられていた。


「あっ、はい、どうもどうも」と照れた様子で城壁から下を覗く。


 黒く地面を覆うような魔族の軍勢。 


 ゴブリンが7。 オークが2。 残る1は……あの飛竜ように特別種。特殊な個体だろう。


 総数はいくらか? 万と言うことはないだろう。


 おそらく先兵としての軍。5000……いや、もう少し少ない。


 敵は、おそらく知らないのだろう。 屈強な城を落とすのに敵の10倍は数がいるということを。


 「放て!」と号令と共に矢が放たれる。 


 いや、矢だけではなく投石。それにグツグツに煮込まれた油が落とされる。


 ゴブリンやオークでは、防ぐ手段がない。 直接、城壁を上る数は減り、狙いは城門へ集中する。


 だが、城門には彼らがいる。


「抜刀!」とかけ声と共に剣を煌めかせ、駆けていく狂気の集団。


 彼らは僅か200人で構成された部隊ではあるが……その全員が冒険者。


 それも前衛のみの構成だ。


 ゴブリンやオークが大量にいたとしても、歯牙にもかけない精鋭部隊だ。


 ここが勝敗の分かれ目と見たのだろう。大将である飛竜が精鋭部隊に狙いを定めて襲い掛かる。


 いや、飛竜だけではない。敵勢力の1割を占める特別種が集合していく。


 精鋭部隊を落とせば勝てると判断……だが、それは魔族側だけではなく、人類側の作戦でもあった。


 敵の精鋭である特別種。中でも大将である飛竜を落とせば、魔物に勝ち筋は消える。


まさか、冒険者の精鋭部隊が大将を引き付けるための囮とは、飛竜も最後まで気づかなかっただろう。


そして――――


城壁の上。 心もとない壁に立ち、戦場を見下ろすのはリュック。


彼に与えられた新の役割は大物食いジャイアントキリング


リュックが持つ魔法の精度の飛距離は――――狙撃にこそ、本領を発揮する。


そして――――


「ファイア」


放たれた魔法の弾丸は、低空で飛行して冒険者たちを蹴散らしている飛竜の眼球を正確に射抜いた。


「GAGAGAGAAAAAAAAGAGAGA!?!?」とバランスを崩し、地面に叩きつけられた飛竜。


 「いけ! 地面に落ちた飛竜なんぞ! ただの雑魚よ!」


 しかし、飛竜の体は鋼鉄に等しい強度を持つ鱗に覆われている。


 剣を切り裂く事は難しい。 さらに飛竜の口内に熱が灯る。


 至近距離。自身に集まりくる冒険者たちを一網打尽にしようと――――


 竜の息ブレス


 だが、それは放つことは叶わなかった。


 大きく、大きく開かれた顎。その先には、灼熱の息を放とう天然油を貯蔵された飛竜の内部。


 「ファイア!」


 既に、そこに向かって正確無比の一撃が放たれていた。



 それは炎上という以外の表現がなかった。


 飛竜は眩しいほどに全身を焼かれ、地面を転がるように暴れ狂う。


 やがて、その力も失い動きを止め――――


 勝鬨。


 勝利を示す鬨の声があがった。



 


 

 

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