第15話 アリアドネの糸と迷宮の攻略
アリアドネの糸。
英雄テセウス。彼が住むアテナイはクレタとの戦争に負け、毎年男女7人づつの生贄を送る習慣があった。
計14人の生贄。 それはミノタウロスに捧げられる供物であった。
そのアテナイの王子であるテセウスは、迷宮に入り込みミノタウロスを倒すことになるのだが、アリアドネの糸は迷宮脱失のために必要なアイテムだった。
アリアドネは女性の名前であり、テセウスに恋をした少女である。
さらに言えばクレタ王の娘……つまり姫さまであった。
彼女はテセウスがミノタウロスを倒すと信じ、帰還のための道しるべとして渡したのが糸……アリアドネの糸である。
つまり、ミノタウロスを倒して迷宮から脱出するためには必要な不可欠な物である。
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倒れたミノタウロス。 巨大な巨大なそいつは、もう動くことはない。
ただ横たわり、死骸は時間と共に朽ち果てていくだけだ。
真の安全地帯であるアリアドネの糸を手に入れたリュックたちは、その身に糸を巻き付かせる。
もはや白線など関係ない。 糸を身につけているだけで第二、第三のミノタウロス出現を防げるのだから……
そして、近くに見えて意外と遠い出口にたどり着いた。
その扉、最後の最後に罠が仕掛けられている可能性も踏まえ、慎重に慎重に……
しかし、拍子抜けするほど、何事もなく出口は開かれリュックたちは外に出た。
前回同様にファンファーレが鳴り響く。そして、現れたのは老婆だ。
「皆様、おめでとうございます」と笑みとセリフも前回と同じだった。
「今回の皆様は、願いの分担を利用しました。今回、叶えられる願いはありません。それでは7日後に塔でお会いしましょう」
老婆は姿を消した。 前回と比べると少しだけ拍子抜けするような感じだった。
やがて、転送魔法が始まりリュックたちの姿も消えていく。
そうなってくると徐々に実感が湧いてくる。 なんの? 老兵ダッカ―ドの死を実感してきたのだ。
前回と合わせて、実質2日だけ会っただけの仲間。
リュックたちはダッカ―ドがどのような人物だったのか? 正確に知る由もない。
しかし、共に死線を潜り抜けた仲間である。
短い時間であれ、共に飯を食べて、共に寝て、共に戦った……
そして、彼の願いも知った。
だから……リュックは一滴の涙を床に落として塔から消えた。
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『さてさて、今回もMVPはリュックかのう?』
『いやいや、トドメをさしたカイトも評価してよかろう』
『なるほど、しかし現状ではリュックが一歩リードしている感じになるじゃろう』
『然り、然り……じゃが、次も攻略できるかのう?』
『できるじゃろう。もはや、英雄のたまご。運命は彼を選んだ』
『奴隷は終わらすかのう? この遊戯を?』
『終わらすさ。そのための英雄じゃ』
『ならば、その日が訪れん事を祝おう』
『『『祝おう』』』
たった1人のはずの老婆から複数の声が同時に発せられた。
笑みを浮かべる老婆は狂人のように見える。
――――果たしてそうだろうか? 老婆の形をしただけで、複数の人間がそこにいるのではないか?
しかし、もしもそれが事実であるならば、それを理解できる者こそ、本物の狂人に違いない。
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