第18話 塔の天使と9つの球体

 「どうやら全員お集まりのようですな」と老婆が出現した。


 「待て、この子たちも参加者なのか? 本当に?」とリュックは間髪入れずにアダムとイブについて問いただした。


 「そうです、そうです。彼らがここにいる時点で遊戯の参加者としての証拠でございますよ」


 老婆の視線から逃げるようにアダムとイブはリュックの背後に隠れた。


 「でも、こんな幼いのに……」と言ったリュックもそれ以上の言葉が続けなかった。


 それを老婆はどう思ったのか? 


「それじゃ遊戯ゲームを始めるよ! 新たな遊戯デスゲームは謎解きだよ」


いつも通り遊戯開始の宣言を行うと姿を消した。 そして、いつも通り老婆の歌声。


 

『紡がれよ、紡がれよ、物語は紡ぐよ 


まだ迷宮の主は生きている さあ、羽をもつ子供に望みを繋げ 主は塔の中でただ見てるだけ


 子供が球体に落とされる前に―――― さて、主はだれだ?』


歌が終わり。それと同時に地面がせり上がってくる。


現れたのは9つの球体。 それと――――


「天使?」とリュックは声を漏らした。


その後ろで「きれい」とイブが目を輝かしている。


出現したのは14体の天使像。 それぞれ、手には剣を持ち――――


リュックたちに切りかかってきた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「ファイア!」と急接近してくる天使像に魔法を放つリュック。


直撃を受けたはずの天使像は減速すらしない。


「だったら!」と二撃目。 しかし、狙いはその背中に生えた羽だ。


 羽に衝撃を受けた事でバランスを崩して天使像は墜落した。 


 しかし、まだ1体目。 敵の数は残り13体……いや、違う。 墜落した天使像が修復を開始している。


 「させない!」とカイトが飛び出し、天使像の首を跳ね飛ばす。


 だが、コロコロと転がる頭部を追いかけて、天使像は走り出した。


 それで旋回している残り13体の天使像たちは、それを笑っているようだった。


 「こいつら不死身か?」とリュック。


 「あぁ、いつも通りに不死身のモンスターが相手だ」


 答えたカイトは、どこか自嘲気味に笑いながら答えた。


 「いつも通り……だったら歌がヒントになっている?」


 「……だろうな。俺が天使を近づけさせない。その間に歌の謎を解いてくれ!」


 頭を元の位置に戻した天使像がこちらに向かってくる。 その顔は激怒そのもの。


 だが、カウンターを言わんばかりにカイトは飛び蹴りを放ち、吹き飛ばす。


 その間にリュックは老婆の歌を思い出す。



『紡がれよ、紡がれよ、物語は紡ぐよ 


 まだ迷宮の主は生きている さあ、羽をもつ子供に望みを繋げ 主は塔の中でただ見てるだけ


 子供が球体に落とされる前に―――― さて、主はだれだ?』



さらにリュックは思考を加速させる。

 


迷宮の主? 紡がれる物語? 


だったら、前回の続き?  ミノタウロスの話の続きと言うことか?


 羽をもつ子供? 14体の天使はミノタウロスに生贄に捧げられた14人と一致している。


 でも……球体? ミノタウロスの話に球体なんて出てきたのか? 

 

 しかし――――


「お兄さん!前!」


 アダムとイブの声で気づいた。 目前に天使像が迫っていた。


 なぜ? カイトが足止めしているはずじゃ? 


 いや、違う。こいつは2体目・・・だ!


 振るわれた剣戟をギリギリで躱し、向かい合う。


 「ファイア!」と至近距離の魔法発射。


 まともに炎を浴びた天使像は黒焦げになって地面に倒れる。


 だが……止まらない。 顔をあげて煤を払うような動作。


 「やっぱりダメージが復元している。まずい!」


 リュックは焦る。 上空で旋回している天使像たち。 


 合計で14体。 今も煤まみれになった仲間を見て笑っている。


 「こいつらが一斉に攻撃してくる可能性があるのか……」


 もしかしたら、なにか攻撃条件というものがあるのかもしれない。


 そうリュックは考える。しかし、2匹目が攻撃を仕掛けてきた時、攻撃条件になるような行動をした記憶はない。


 おそらく……完全ランダム。


 まさしく天使の気まぐれのように、いつ、どのタイミングで、どの天使が攻撃を仕掛けてくるのかわから……


 「ん? あれ? こいつら……男だ」


 リュックは天使像のある部分に注目した。 その箇所を見る限り、天使像は少年を模して造られている。


 ミノタウロスの生贄は男女14人と決まっている。


 ならば、この天使像は生贄を現しているものではない……けど、それは……どういう事だ?


 わからない。 答えが出てこない。


 思考の奥深く、まるで迷宮に迷い込んだように、くるくると単語が回っていく。


 ミノタウロス 迷宮の主 羽をもつ子供 球体


 わからない……でも、確か……


 何かが過った。 この問題の根本に至る何か……


 しかし「リュック!」とカイトの声で現実に呼び戻される。


 新たな天使が接近している。今度は2体同時攻撃。


 どちらを打ち落として、どちらかの攻撃を回避する。


 瞬時、脳裏には生存の選択肢が浮かび上がる。


 ならば、先行している天使に向かって炎の魔弾を撃ち込み。


 2体目の攻撃を回避――――いや、速度を落とした!


 確実にリュックを葬り去るために足を地面に着地させた。


 これでリュックの選択肢はなくなった。


 天使は、魔法を放つよりも速く剣を振るだろう。 あるいは、避けようするリュックの行動に合わせて剣を振るう。


目前で斬りかかるタイミングを今か今かと計っている天使。


完全な剣の距離。 ただ、当てることを念頭に振るう剣を避ける事は限りなく不可能だ。


そして、その時は――――



こなかった。 


 



  

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