正に、急転直下な出来事の連続。変身したり失神したり、慌ただく去った時間の後の下校中。生徒があまりいない頃合いをみて、ひっそりと家路につく二人がいた。

 「なぁ杏、ちょっと気になってることがあるんだけどさ」

 緊張したりするとGに変身してしまう。嘘の様なことだが、それは現実だ。そして、気になることもある。

 「うん? どうしたの、改まって」

 聞きたいこと。それは、他でもないGに変身するということについてだ。

 「その……俺らが、結婚して子供が生まれたらさ、その生まれた子に例の変身しちまうってのが遺伝、するんだよな?」

 言い始めに、聞くことを一瞬だけ躊躇ちゅうちょした。まだ高校二年でもある男が結婚について語っていて、ましてやその相手が付き合っている彼女なのだ。

 「……」

 そして、それは杏も同じだった。顔を真っ赤にし、うつむいている。変身するのをこらえているのだろうか。

 「ごご、ごめん! 何か変なこと聞いちまってそのー、あははは」

 「だ、大丈、夫。うん、大丈夫」

 どうみても、大丈夫そうではない。

 「……さっきの遺伝するって話しね、確かにそう。女性限定なんだけどね」

 「え、そうなの? 男には遺伝しないの?」

 「うん、そうなの」

 「それってその、マジなやーつですか」

 「マジなやーつ、です」

 初耳学だった。

 「へぇ~。で、杏は親から何か言われたの、それについて」

 「うーんとね、虫に変身する。とだけ言われたかな。あ、後は二十歳を過ぎれば治るってことくらい?」

 虫に変身する。それがよりによって害虫でありGであったことについて、優人は触れずに黙った。

 「んじゃ、親は何に変身を?」

 「えーっと、お母さんは確かアゲハチョウ。おばあちゃんは、てんとう虫だって言ってたよ」

 (マジ、か。くそ、なんも言えねぇ!)

 こんなにも悲しすぎることはないだろう。無視とひとくくりにしても、愛される愛されないの違いはある。よりにもよって、そんなに極端なことになるのかと、優人は静かにあわれんでいた。

 「とりあえずまぁ、良き家庭を作っていこうぜ杏」

 どうしてだろう。隣を歩いていたはずの杏はいない。どうしてだろう。優人の身体に、酷い悪寒おかんが走る。身に覚えのある、とても嫌な感覚だ。下部に、つま先に何かがいた。そう、何かが。

 「……い゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 一日で何度失神するのだろうか。何度叫んだろうか。だがしかし、何年経ってもGに慣れることはきっと来ないだろうことは、今この時で確証された。

 優人と杏の、少し不思議な淡い青春ラブコメディ。ふつつかながらも長く続いていくことは、揺るがないだろう。

 

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