世にも奇妙なおまけ

 Gに変身してしまう同級生・五藤杏を彼女に持つのは、山口優人。彼ら二人には、それぞれ苦手なことがある。とはいうものの、既に分かりきっていることでもあるが。

 例えば杏の場合、プレッシャーのかかる場面に遭遇そうぐうするとGに変身する。つまり、緊張が苦手。シャイということだ。それは、とある日のことである。

 「委員長、これ次のホームルームまでに全員に配っておいてくれ。頼んだぞ」

 「はい、分かりました」

 クラス委員を任された杏。ましてや委員長。責務をまっとうしなければならない場面は、色々多く出てくる。だが、それに比例して後悔も出てくるのだ。その理由は明白だ。

 (やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばい!)

 心臓のバクバクが止まらない。先生から渡されたプリントを配る。ただそれだけの行為だというのに。だったら、最初から委員長になんてならなければ良かった。その様な至極当然の意見が出てくるだろうが、クラス世論におされる形で、彼女はしぶしぶ委員長となった。

 (予鈴まで大体3分強。効率良くいかないと。まず各列の先頭の子に配ってもらう様頼む。あ、いやでも休み時間だからあまり人がいない。だったら自分で……それだと時間が足りなくなる。どどど、どうしよう、どうしたら? どうするのが正解なの!?)

 焦る時は、こうして脳内リピートが続く。そしておしとやかさをかもし出す普段とは真逆で、かなりお喋りになる。こういう所は、優人に似ている所でもある。

 「五藤さん、それ配るの?」

 そしてもう一つの類似点がある。

 「あ、うん。先生から頼まれちゃって」

 「そうなんだ。んじゃ、アタシ手伝うよ」

 「何々~プリント配んの? なら俺も手伝うぜ!」

 こうして、続々と杏の周りに人が集まる。結局の所人が集まり過ぎてしまい、少々混雑をしてしまったが、それは彼女がしたわれているという何よりの証拠だろう。


 一方優人はというと、苦手なものは基本的にないが、彼は夏が好きではない。単純に、気温が高いから。蒸し暑いから。ということではない。確かに一理ある。それも、嫌いという感情の要因でもある。だが、訳は他にもある。

 「あ゛ぁぁぁ出たぁぁぁ!」

 夏の季節、とある生き物が活発に生存する。それは昆虫だ。

 (セミ、なんでセミが窓に……これだから夏は!)

 優人の住む家の窓に現れたセミ。彼は夏が嫌いというよりも、虫があまり得意ではないのだ。触るのはやはり無理があるが、見る分には別段問題はない。でも夏には、多くの虫達が鳴き声をあげ、いたる所に生を成す。ましてやセミはそれを象徴し、代表する虫。鳥とまではいかないが、空を行き交い距離も近い。だから苦手なのだ。

 (でも、窓閉めといて正解だった。エアコン着いてるし、わざわざ外の空気を入れる必要もない。カーテンさえ閉めておけば、大丈夫だ!)

 そうして優人は、職人のごときスピードで自分の部屋のカーテンを閉める。その手捌きは、一流そのもの。相も変わらず、脳内では饒舌だ。

 「さてと、視界からなくしたことだし、キンキンに冷えたアイスでも食べるとするか」

 そうしてリビングに行こうと、ゆっくりと部屋の扉を開けた。

 「え?」

 扉の下にいるそれは、なじみがあった。とてもなじみがある。見たことがある。たまにだが、道路の溝に出たり入ったりする所を偶然にも見かけたりしたりする時もある。羽が生えている。全身は黒い。セミではない。だがこれだけは確定している。

 「……ご、ゴキブリはマジ無理なんだって―――!」

 それが変身した姿であっても、天然ものであっても、ゴキブリの嫌いさは何にも変えることのできないものだった(※ちなみに失神しかけたが、部屋に常備してあるゴキブリスプレーを使い、何とか窮地きゅうちを脱した)。

 彼のちょっとした気苦労は、これからも続いていく。かもしれない。

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