2-4 バカでかい帝都を5周回れと奇書が無茶振りする - 帝都の商人キャラル -
「わぁ……強い、もうやっつけちゃった……」
数値上では以前の3割増しほど俺は強くなっている。そのほんの少しのパワーアップが相手を圧倒していた。
人間の成長には限界がある。それを簡単に乗り越えられるところが、このジラントの書の凄まじさだろうか。
「こいつらもこいつらだが、アンタもアンタだな……さすがに無謀だ」
「同じにしないでよ! あ、でも助けてくれてありがとっ、言われてみれば命の危機だったかも……わー恐い」
「かもな。あまり説教がましいことは言わん、とにかく無事で良かった」
「私キャラル、キャラル・ヘズ、お兄さんは?」
しかしどうしたものかな、この場でこの悪党を埋めるわけにもいかん。
そもそも死の断罪を与えるに相応しいだけの悪かどうかもわからん。
「シンザだ。偽名だがな」
「いきなり偽名ってないっしょ。じゃシンザさんの本名は?」
「いやそれよりこっちに来い。早く」
「わっ、ちょっと馴れ馴れしいよっ! あ……」
明るいがのんきだな。
成敗した悪党どもがヨロヨロと立ち上がりだしたので、背中の後ろにキャラル・ヘズをかばった。
「てめぇら覚えてろよ……ヒャマール様を敵に回して、この帝都で商売できると思ってんじゃねぇぞ!」
「シンザッ、その名前覚えたからな! あ、ああ兄貴がなァッ! 覚えてろこの野郎ッ!」
不謹慎だが感動した。こんなにベタベタの逃げ台詞を吐いてくれるとは、まるで異界の本のようではないか。
悪党どもはスコップで殴られた頭を抱えて、キャラル・ヘズの店から立ち去っていった。
「シンザって強いね! 正義の味方みたいでカッコ良かった!」
「いやそうでもないな。どちらかというと負けっぱなしだ」
「嘘っ、シンザより強い人とか、それこの世にいるのっ!?」
「そりゃいるさ。どうあがいたって勝てない相手が知り合いだけでざっと2名はいる」
キャラル・ヘズは17の俺より若く見えた。
だというのに店を経営しているのだ、むしろ俺よりもずっと賢く敏腕なのだろう。
お礼にお茶をご馳走したいと彼女に店の奥に案内されると、少し足を休ませながら少し話すことになった。
黒く渋いが美味い茶だった。彼女が言うには西方の舶来品だそうだ。
「追い払った俺が言うのも変かもしれん。だが、やつらの要求を飲んだらどうだ」
「えっ、それはやだ。シンザの提案でも無理」
「だがこのままでは殺されるぞ。ヒャマールは皇族と繋がりがある。その気になれば法律などひっくり返せる」
「わかってるよ! でももう後に引けないの。お兄ちゃん、あいつらにやられちゃったから……私が戦うの!」
さっきのチンピラが言っていたな。兄を殺されてもなお折れないのか。
立派だがやはり無謀だ。それと同時に痛感する、皇帝家の腐敗はここまで酷かったのかと。
「茶の不味くなる話は止めておくか……。だが最後に1つ教えてくれ、ヒャマールの背後に誰がいるかアンタ知っているか?」
「そんなのこっちの業界じゃ有名だよ。皇帝陛下の弟のモラク様、ヒャマールはそいつと繋がって好き放題してる。はぁっ、もう信じらんないよねー……」
「アイツか……。いや、同感だ、信じられん愚行だな」
叔父上が金の亡者なのは知っている。しかしここまで道を踏み外しているとは思いもしなかった。
ゲオルグ兄上が知ったらこう言うだろう。この皇帝家の恥さらしが、と。
◇
◆
◇
兄上に、叶うならば皇帝にこの話を伝えておこうと決めて、俺はキャラルの経営するヘズ商会を出た。
そこから先は残りの3/4の周回だ。気持ちを切り替えて帝都を楽しく散策した。
女性ばかりの甘味屋で甘いマフィンを買い食いした。
甘みと酸味、爽やかな風味のあるアップルジュースを飲み干して、スジ肉の煮込み料理も食った。気づけば夜だ。
「おい、アイツ……」
「なにあの人、光ってるわよ……?」
「逃げたぞ!」
気づけば俺は北門にたどり着き、目標を達成すると同時にギルドでも有名なホタルさんになった。
おかげで疲れている身体を引きずって、闇夜の路地裏に逃げ込むことになったよ。
ジラントよ、この前はすぐに引き下がったが、やはり辛抱ならん……。
どうにかしてくれ、頼む……。
ところで書を開く寸前に不思議な感覚が走った。
光が衰退してゆくにつれて、みるみる身体の疲労が抜けていってそれが開放感になったのだ。
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- 探索 -
【帝都を5周しろ】(達成)
・達成報酬 VIT+50(受け取り済み)
・『貴様なりの帝都5周、我もスープパスタが食いたくなった』
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- 目次 -
【Name】アシュレイ
【Lv】6→6
【Exp】515→555
【STR】17→17
【VIT】33→83
【DEX】26→26
【AGI】17→17
『喜べ、貴様は今日よりタフな男だ』
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例の書を開けば納得だ、体力の指標VITが+50されていた。
つまりスタミナが2.5倍近く跳ね上がったために、それだけ肉体が疲労に強くなったのだ。
体力とは全ての行動に必要となる基礎中の基礎、この資本を得た意味は大きい。
いやところがだ。それはいいのだが、さらなる無茶振りが書に追加されていることに、俺は気づいた。
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- 探索 -
【帝都をもう10周しろ】
・達成報酬 VIT+100
・『走ってもいいぞ、足腰を壊さん範囲でな』
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- 事業 -
【ヘズ商会の経営を立て直せ】
・達成報酬 DEX+50
・『せいぜいやれることからやって見せろ』
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前者はともかくだ、商売なんぞわかるはずもない。
これまた無茶が過ぎると、俺は汗でベタベタの顔をおおって困惑した。
しかもキャラル・ヘズは厄介な敵を持っている。果たして俺の手助け程度でどうにかなるものなのだろうか……。
ただ1つわかっていることがある。このチャレンジは達成に時間制限がある。
対処が遅れれば、あの明るいキャラル・ヘズをこの世から消されてしまう。つまり達成不能になることが決まっていた。
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【邪竜の書】
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- 冒険 -
【冒険者ギルドで仕事を3つ達成しろ】
・達成報酬 EXP450/???
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- 探索 -
【帝都をもう10周しろ】
・達成報酬 VIT+100
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- 事業 -
【ヘズ商会の経営を立て直せ】
・達成報酬 DEX+50
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- 粛正 -
【悪党を1人埋めろ】
・達成報酬 EXP200/スコップLV+1
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- 投資 -
【合計1万クラウン使え】 518 / 10000
・達成報酬 EXP1000/出会いの予感
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