僕らとボクらの戦いの行方
閃光が治まり、視界が戻り始めた。バイザーが網膜を焦がすほどの強い光を感知して、瞬時に遮光機能をオンにしたが、それでも目の前が真っ白になるほどの強さだった。
やがて現れたのは、強化機体ともパワードスーツとも似つかない、巨大な機体。上半身の強靭さは強化機体と似ている部分もあるが、目を見張るのは蜘蛛に似た下半身。鋭い鋼鉄の脚を突き立てて、床に亀裂を走らせている。
今まで対峙してきたアンドロイドたちは、歪ながらも人の形を保っていたが、こいつは大きさも凶悪さもまるで規格外だ!
「聡さん、気を付けてください! 今まで戦ってきた相手とは比べ物にならないパワーを感じます!」
それは奴の禍々しいフォルムを見れば、嫌というほど伝わってくる。
「聡さん、避けてください!」
圧倒されていたところにニーナの張りつめた声が聞こえた。目に映ったのは奴の手のひら。そこに青白いエネルギーが押し固められている。即座にバックステップでかわした。が、稲妻が着弾した足元が、丸ごと崩れ去る。直径五メートルはある床に開いた穴に飲み込まれ、階下の踊り場に背中から叩きつけられた。
これは、攻撃を避けられるかだとか、そういう問題ではないな……。
奴と同じ場所にいる時点で、爆弾の隣にいるようなものだ。
「どうやら、決着は早くつけなければいけないようですね」
「同意見だな」
だが――、この劣勢この狭い空間で覆すには、どうすればいいだろうか?
床にめり込んだところから立ち上がる。がらがらと上方から瓦礫が降り注ぎ、上の踊り場が崩れて奴が降りてきた。落差によって増幅された奴の体重を踊り場の床が許容できるはずもなく、僕らはさらに落下する。そして、いよいよ国際ネットワークセンターの最深部、サーバーの保管されている地下三階のシェルターまで僕らは落っこちた。
固く閉ざされたシェルターの入り口を一瞥し、にやりと奴がほくそ笑む。
「このパワーがあれば、いくら厳重なセキュリティを施したシェルターも容易に突破できるな」
「世界の機密を管理しているサーバーを乗っ取って何をする気だ!?」
「決まっているだろ? この世界の全てをボクらと同化させる。君たちすべての人類をもろとも……」
人類を機械と同化させるだと? どうやって、そんなことが出来る!?
問い返した僕を奴は腹を抱えて笑った。
「ここには、世界の秩序を崩壊させるような軍事機密もあるんだよ。それを手に入れることが出来たら、誰もボクらには逆らえないじゃないか!? それがボクらを支配してきた人類への最大の報復さ!!」
「バグ……。いえ、あえてこう呼びます。人類最大の英知、ADAM様。人類を恐怖で支配するとは、随分と貧困な発想ですね」
おしとやかなニーナから、慇懃無礼な皮肉が出て来たものだから、びっくりしてしまった。奴も鋭くとがった言葉に、肩をびくつかせて口を歪める。
「減らず口を叩くなぁあああ!」
逆上し、下半身についた鋼鉄の脚を振り下ろしてきた! ――だが、壊滅的な破壊力を持つ、さっきのエネルギー砲よりはずっと避けやすい。
「奴は痛いところを突かれたようです。攻撃の仕方が短絡的になっています」
「ニーナ、そんな煽りスキル持ってたのか?」
「いいえ。ただ、誰かを恐怖で支配しようとする発想になるのは、バグもまた、恐怖に支配されている弱い存在だからと思えて……、無性に腹が立つんです。あなたを避けて逃げ回っていた昔の自分みたいに思えて。聡さん、今の私たちならば、バグなんて敵ではない。――そう、思いませんか?」
今の僕らは信頼という感情で繋がっている。恐怖よりも強い感情を。支配よりも強い関係性を、今の
「ニーナ、僕の心の声を奴の、いや――奴の身体に送り込むことはできるか?」
「思考入力機能ですね。思考ノイズを防ぐため、直前のタイミングで合図を出してください。――何か秘策でも思いついたのですか?」
「さっきの戦いと同じことをするだけだ。奴が乗っ取っている機体と、奴を引き剥がす」
正直、頭に血が上った奴の攻撃でも、避け続けることは難しい。
奴との闘いがこれ以上続けば、このシェルターも永くはもたない。勝負をつけるならば、次に奴がエネルギー砲を放つまでのチャージをするタイミングを差し置いて、他はない。これは、賭けだ。そして僕の罪滅ぼしでもある。ニーナの後続機に、冷たく当たり続け、奴の依り代となる心の隙を作らせてしまった過ちをここで償う。――それに
まさに、そう考えていたときに、奴は手のひらを僕に向けて翳した。
「これで、長きにわたる君との因縁も終わる! 石黒聡くん、死にさらせぇえ!!」
青白い火球が、膨れ上がっていく。
それが、撃ち出される前に奴の懐に潜り込み、無防備な奴の胴体に腕を突き刺した。
「ニーナ、今だぁああっ!!」
分厚い装甲を打ち破り、僅かに素体に届いた拳から、僕の思いの丈を注ぎ込む。――効き目があったのか。奴の身体が大きくよろめき、炸裂する直前まで膨れ上がっていた火球が消え失せていた。
「いったい、何をした!?」
「バグ、お前には何もしていない。ただ、お前の
「訳の分からないことを言うな!」
奴は僕の言葉を分かりかねているみたいだった。
だったら、なおさら、これで勝負はついたも同然。脚を振り上げたところで、奴はまるで時間が止まったかのように微動だにすら出来なくなってしまった。
「な、なんだこれはっ!? 何たるデジャブ! 身体が言うことを聞かない!!」
「良かったよ。お前が使ってる機体そのものの意識がまだ残っていて」
「き、貴様!! まさか、完全にボクらの手中にあったはずの、ニーナの後続機のプログラムに直接働きかけたというのか!?
奴は、まだ辛うじて思い通りに動く機能を駆使し、ぎりり、と奥歯を噛みしめて怒りを露わにする。
「諦めなさい。聡さんの言葉に、
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