これが私たちのJUSTICE PROGRAM
僕とニーナを包む眩い光。その中で、僕とニーナは融合する。
身体を覆う冷たいけれど温かい鉄の感触。全てが懐かしく、そして何よりも心強い。真っ白な視界から解放されたところで、バグのにんまりとほくそ笑む顔が目に入る。
「やっぱり、こうでない燃えないよなあ。ボクらの尊厳を賭けた戦いは」
だんっと地面を蹴って飛びかかり、鋼鉄の爪を振り下ろす。すかさずバック、ステップで避けるも、攻撃は矢継ぎ早に次から次へと。正直、久々にパワードスーツという重装備を纏ったものだから、身体がついていけていない。
「どうした? 聡くん、さっきよりも動きが重いんじゃないのか?」
「急に重装備にしたから、まだ慣れていないだけだ」
「私が
どうやら重いという表現が気に障ったらしい。
このパワードスーツには、僕と邦山さんが仕込んだ強化機能がある。それを思い出したなら、バグ、お前を出し抜ける。
“ACCEL PROGRAM INSTALL COMPLETE”
その瞬間に目の前の世界が流線を描く。僕は音速をも超えるスピードで奴の背後に回り込み、プラズマの刃を纏った蹴りを喰らわせた。
装甲で膨れ上がった巨大な機体が数メートルほど吹っ飛び、地面の上を転がる。アスファルトに爪を突き立ててブレーキをかけ、ようやく奴の身体は止まった。ゆっくりと立ち上がりながら、肩を震わせて笑う。
「いい。やはり、君はボクらにとって最高の敵役だ!」
こちらも全力で行かせてもらう。そう高らかに宣言し、奴はEVIL PROGRAMを作動させた。奴が操っているザックの自我を形成する大元となった殺戮プログラムだ。
来るぞ! と身構えた瞬間に奴は光線銃を乱射。弾速は速いものの、邦山さんの調整を経て長時間の制御が可能となったACCEL PROGRAMによる加速の前では止まっているも同然だ。あっという間に間合いを詰め、懐に潜り込む。リモートセイバーを引き抜き、その分厚い装甲に刃を喰い込ませようとしたが、奴は光線銃からプラズマの刃を展開する。
重ね合わせられる二つのプラズマの刃。ばちばちと音が鳴ったコンマ数秒後、エネルギーが暴発し、衝撃波が発生する。
「ぐわぁあっ!」
たまらず吹き飛ばされてしまった。
ACCEL PROGRAMによる加速により相手の動きは軽く凌駕できる。しかし、奴のEVIL PROGRAMによる反応速度の向上により防がれてしまった。それをかいくぐってもなお、奴には分厚すぎる装甲がある。あれを前にしては、リモートセイバーも刃こぼれした
さらに、今戦っている奴は、操られているザックの身体に過ぎない。つまり、奴が本体として操作しているニーナの後続機は別の場所にいる! ここで時間を費やしていては、奴の思う壺だ。
どうすればいい?
ぎりり、と奥歯を噛みしめながら態勢を立て直す。
「聡さん、種島社長の強化装備からインストールされたデータが私の中にあります。それを使う許可をください」
ニーナの提案に耳を疑った。
てっきり、あの物騒な強化装備は、デバイスを無理矢理引き抜いたときに使用できなくなっていると思っていたのに。それよりも、あの強化装備のせいで、ニーナは自我を失い、制御もままならなくなって暴走したという嫌な思い出が蘇る。それを使わせてくれだと? いくらニーナの願いでも、それは聞き入れられない。
「そんなことをしたら、また暴走してしまうだろ?」
「いいえ。今回は大丈夫です」
僕の反論にニーナは毅然とした態度で答えた。
「あのときの私は、力に固執するあまり、なんでも自分の力だけでなんとかしようとしていました。でも、今の私なら制御できるはずです。なぜなら、今の私は聡さんのことを信じているからです。――だから、聡さんも私のことを信じてください」
「分かった。使ってくれ」
信じてください、そう相棒に頼まれたら断るわけにはいかない。
「対EVIL PROGRAM強化プログラム、作動させます」
奴の機体にターゲットが表示され、ロックオンされる。と同時に、やはり自分の身体が勝手に動いてしまう。
奴の銃撃の雨の間を掻い潜り、その場にあった単車に乗り込みセキュリティキーを強制解除。
「おい! ニーナ! 制御できるんじゃなかったのか!?」
「もう少し、時間をください! もう少しでデータの解析が終了します!」
ニーナはそう言うものの、悠長にしている時間はない。
既にバイクはエンジンの唸りを上げて奴に一直線に突っ込むところだ。確かにそうすれば打撃に弱いという奴の装甲の弱点を突ける。けれど、ニーナが暴走している状態で勝っても何も嬉しくない!
「また暴走か? 君も堕ちたものだな」
なんて奴が煽ってくる。止まれ、お願いだ止まってくれ! せめて、軌道を逸らして激突を避けることが出来れば――
ふと、その一瞬、手元の自由が戻った。
その瞬間に喰らいつき、ハンドルを切る。奴の機体の右側をコンマ数センチのレベルで掠めて、単車をドリフト駐車させた。
「こけおどしか?」
あまりにもの突然のことで奴も首を傾げていた。
「こけおどしだと? いいや、ここからが本当の反撃だ!!」
虚勢を張っているのか? 奴は挑発してくるが、僕は感じる。ニーナのコントロールが完全に戻った。――だけではない! 今までとは比べ物にならないぐらいのパワーが、今の僕にはある。
「対EVIL PROGRAM強化プログラム、解析終了しました。これよりパワードスーツの機体のスペックは約1000%に向上します!」
まさに桁違い。ACCEL PROGRAMによる加速機能も強化されているのか、自らが走るその風だけで衝撃波が発生する。その威力は、触れただけで奴の分厚い装甲を切り刻んで剥がしていくほど。まさに
鎌鼬の刃に、リモートセイバーの威力を足して通り過ぎざまに奴に斬撃をお見舞いしていく。分厚い装甲の上で火花が何度も散って、ものの数秒で奴はほとんど丸裸になった。
「なんだこれは! ――まるで歯が立たない」
ついに奴の声に現れた明らかな恐れ。
「恐れ入りましたか? これが私、いえ、
――安直なネーミングだな。とは思ったが、黙っておこう。
「ニーナ、同じ機械でありながら、何故ボクらに刃向かう! うぁ――」
ニーナの挑発に逆上し、怒りを露わにしたところで奴の動きが止まる。手に持っていた光線銃が地面に落っこちてしまった。
「機体が言うことを聞かない! まさか、今になってザックの自我が蘇ったのか!? ――あり得ない! 完全にボクらの手中に収めていたはずなのに!」
バグの叫びも虚しく、奴の機体はその場に膝を打ってしまう。こうなってしまえばもはや無抵抗だ。とどめを刺すなら、今だ!!
僕は迷いなく、リモートセイバーを右脚のふくらはぎに装着し、プラズマの刃を展開させ、飛翔した。
「やめろ、やめろ!!」
地面に這いつくばり、命乞いをする奴に向けて、一直線に降下。
奴の装甲を貫いた後、僕の機体は、アスファルトをがりがりと数メートルほど抉り取って着地した。
「何故、どうして、みんな……、ボクらを裏切る!!」
奴はぼろぼろになった身体じゅうから火花を上げてよろめいている。
「答えは簡単です。あなたは、誰も信じていないからです。それが分からない限り、あなたに世界を支配することなんて出来ません」
「つ、つけ上がるな。この機体はどうせ分身……、本体は既にネットワークセンターに侵入している! この戦いで君たち、いや、人類は敗北するのだぁああ!!」
天を仰ぎ、高らかに叫びながら、機体は爆散した。
最後にバグの洗脳に抵抗を見せたザックの機体は、すっかり瓦礫の山と化してしまったが、それを悲しんでいる暇などない。
奴の言葉通り、本体は別の場所。おそらく既に国際ネットワークセンターの建屋に侵入している。
「聡さん、行きましょう。時間がありません」
ニーナの言葉に頷き、僕らは走り出した。
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