騎竜隊舎_4

「騎竜隊は、どこもかしこも大忙しだな……」


 バームは受付カウンターに目を向ける。


 受付の向こうでは電話が鳴りやまず、書類を抱えた事務員たちが右往左往に走っていた。


 それからバームは遠写鏡に目を戻す。モニターの映像は上空の男性アナウンサーから切り替わり、村を遠巻きから撮影する地上からの映像となっていた。


遠写ヴィズ》の魔法にズームの効果が付与され、瓦礫の山をかき分ける騎竜隊員たちのオレンジ色の姿を捉える。ヘルメットをかぶった騎竜隊員たちは一様に疲労困憊の雰囲気を纏い、それでも黙々と生存者を探していた。


『ムダなのに』


 バームが視界の端に映った立体映像を見ると、そのように書かれていた。


「ムダ…… 無駄? なにがだ?」


 男は少女の顔を見る。ラズリーは遠写鏡や周囲の人々を、ぼーっと眺めていた。いや、眺めているのか定かではない。彼女の目は人々や映像の間を抜け、虚空を向いていた。


『わたし、見たのよ。あの場所にいたの』


 少女の指は機械的に、バームの質問に答える。


『あの村で、生き残った人はいないよ』


 少女の感情が抜け落ちてしまった顔をバームは見た。その表情が徐々に湿り気を帯びて崩れる。幼い目からは涙がぽろぽろと溢れ始めた。


『バーム。わたし、分かっちゃった』


 泣きながら少女が文字を紡いでいくのを、バームは息を飲んで見守る。


『わたしの家族は死んだわ』


 それは幼い少女が受け止めるには、あまりにも辛い現実だった。


 受け止め切れなかった悲しみが、涙や鼻水となって少女の顔を濡らす。


 バームはラズリーにかける言葉を探して、目を左右に泳がす。しかし、口下手なバームには彼女の心を救う一言が見つけられない。


 ただ、男の硬く毛深い両手が、上下から少女の両手を包んだ。


 魔法のステッカーが投影していた立体映像のモニターが、少女の手のひらにくるまれて、青い光を散らしながら消えていく。同時にラズリーが書き出した文字も砕けて消えた。


 少女は俯いて泣いている。バームは少女の手を握っているが、声をかけられない。


 突然、遠写鏡から注意を引くための音が鳴った。それは速報を伝える音だった。

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