騎竜隊舎_2

「思ったよりも人が多いな……」


 待合室に並べられたソファーに腰かけ、バームは辺りを見回した。隊舎の中には、それなりに人影があった。人口密度により、待合室の気温や湿度が上がっているようにすら感じる。


 バームは手にした紙きれを見て、疲れたように息を吐いた。バームが手のひらに丸めたのは、3桁の整理番号が書かれた正方形の紙だ。


『待つの?』


 彼の隣からラズリーが、手のひらの上に展開された立体映像の文字を見せてくる。


「ん? ああ多分、一時間くらい…… かな」


 バームの返答を聞いて、少女の唇が不満げにとがる。彼も少女の気持ちを理解して、ゆっくりと頷いた。


「きっと、アレのせいだろう」


 どれ? とラズリーは首を傾げる。


遠写鏡ヴィジョン……」とバームは、待合室の中央に設置された薄いモニターを指さした。


 ラズリーはモニターに映る映像を見た。少女は息を飲んで、動きを止める。遠写鏡には、ラズリーにとって見覚えのある光景が広がっていた。


 ただし、いつもとは視点が違う。


 上空から、彼女の故郷や周辺の森、それから山脈、曲がりくねった川などが撮影されていた。


 空を飛ぶエイのような巨大生物――《グランドレイズ》の上に、男性アナウンサーが立っている。


 コートをはためかせ、上空の風に声をかき消されないように喉に短い杖を当てていた。拡声の魔法を自らに施しているようだ。


『私は今、《スピラ村》の上空に来ております! この村は昨日……』

「おいラズリー、大丈夫か?」


 映像を見て、少女は凍りついたように固まってしまう。


『ご覧下さい! アウロクスの群れが通過していった跡がはっきりと分かります』


 魔獣が木々を薙ぎ倒し踏み潰していった経路は、森に幾筋もの白いキズを残していた。それはまるで小動物が緑のキャンバスを気まぐれに引っ掻いたようにも見える。


 そしてその引っ掻きキズは、森にぽっかりと広がる集落へと続いていた。元々、そこに何かが建っていたのだろうと思わせる石材や木材などが、まるで暴風にかき混ぜられたかのように散らばっていた。


『えー、今も、周辺の町から集まった騎竜隊員によって懸命な捜索活動が続けられています…… しかし現在までスピラ村の住人、および村に滞在していた方の生存は確認されておらず……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る