生き残った女の子

 どのくらいの時間が経ったのか。辺りはひっそりと静まり返っていた。


 木の幹に額を預けていた少女は、ゆっくりと顔を上げる。


 すべてが夢であればいいと思っていた。


 しかし、少女の目の前には、潰れた集落が一面に広がっている。


 村の名残なごりと言えそうなものは、ところどころに建っている、半壊した石造りの壁ぐらいだ。


 少女はその光景に声も出せず、ただ下唇を噛んでいた。


 涙が出そうになって瞳が潤む。けれど彼女は目頭を押さえて、ぐっと涙をこらえた。彼女は村に背を向けて、おぼつかない足取りで歩いていく。


 少女は村と外の世界を繋ぐ、唯一の道に出た。


 道は円形の村に接するようなかたちで南北に伸びている。


 少女がこの道を使うのは、家族と一緒に、南にある大きな町へ出かけるときだけだった。


 彼女はそのことを覚えていたのかもしれない。故郷を失った少女の足は、自然と南へと向かうことを選んだ。


 人のいるほうに行けば、きっと誰かが助けてくれる……


 そんな考えが、幼子の頭の中にあったのかもしれない。


 山道を歩いていると、木々の隙間から未だに煙をくすぶらせている村が見えた。少女はそれを視界に入れないようにして、うつむきながら歩いていく。


 雨はまるで霧のように、弱々しく降り続ける。


 皮膚は冷たいのに、体の芯のほうが熱いことに少女は気が付いた。それから頭が少しぼうっとしていることにも。


 まぶたが重く、吐く息も熱い。足が機械的に動き、路面の水たまりをピチャピチャと踏みつける。


 薄暗い山道を歩く少女は、背後に何かの音を聞いたような気がした。


 振り返ると、真っ直ぐ伸びる道の先から、がこちらに向かってやって来るのが見えた。


……彼女はそのあと、自分がどうしたのかを知らない。

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