目覚めると……
少女は小刻みの振動に目を覚ました。ガタガタと揺れる感覚には覚えがある。
(……車だ)
少女は、車に乗っていると感じた。
(でも、いつの間に?)
最初は、父の運転する車に乗っているのだと思った。南の町に行く途中で、自分は眠ってしまったのだと…… だから、あんなに怖い夢を見たのだと。
アウロクスの群れによって、自分の村が潰されてしまう悪夢。
あの恐怖と雨の冷たさは、あまりにもリアルだった。体が今でも濡れているかのように冷たい。
ハッ、と少女は目を覚ます。
(あれは夢なんかじゃない!)
上半身を起こした彼女は、自分が革張りのソファーで寝ていたことを知る。体の上には大きめのバスタオルが掛けられていた。
見知らぬ光景が、彼女に次々と情報を与えてくる。
少女は細長い部屋の中にいた。
天井の高さや床の幅から、コンテナの中みたい…… そう思った。
少女が横たわるソファーの他にも、机や洋服かけといった家具が置いてある。洋服かけに吊るされている服は、どれも男ものの服だった。
壁の高い所には空調設備もあって、それのおかげでこの細長い空間が暖かいのだと知った。
そして部屋全体が小刻みに揺れている。ブロロロロ…… と車のエンジンのような音がする。
「よぉ、起きたか?」
突然の声に身をすくめ、少女は声の出どころを探す。
座り心地の良さそうな椅子の背が見えた。その椅子に座る誰かの後頭部が見えた。
ところどころに白髪が混ざっていて、若いようには見えなかった。
四角い頭と先ほどの低い声を合わせて、その人物は男だと少女は判断する。
それからふと、男の前を黒い線が横切ったような気がした。
よくよく見ると、それはどうやらワイパーのようである。広いフロントガラスが雨を防ぎ、定期的に動くワイパーが雨の雫を拭い取っていた。
少女のいるこの空間は、どうやら車の中であるらしい。
細長い部屋が移動しているような奇妙な感覚に、少女は目を見開いた。
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