少女と崩壊する村_2

 気が付けば少女は、村の外れまで来ていた。


 木の板を組んだだけの簡易な柵が、ぐるりと村を囲んでいた。柵のすぐ外は森になっていて、その森の中に続く山道がうっすらと見える。


 少女はひたいを腕で拭った。濡れたかみが肌にぴったりとくっついていた。それが雨によるものか、それとも自分の汗によるものなのか、少女には分からない。


 服も肌に貼り付いて気持ち悪い。少女の白いワンピースは、土や泥にまみれて汚れていた。けれど、少女は自分の格好を気にする余裕もない。


 村を振り返る……

 惨劇だった。


 鎧のような皮膚を持つ、《アウロクス》の群れ。


 その第2陣が、半壊していた村をさらに踏み潰していくところだった。


 数十、数百という巨体が、木や石の壁をものともせずに砕いていく。人などはもはや、柔らかい肉の塊にすぎない。


 黒い影が宙に飛ぶのを見た。鋭い角に貫かれるのを見た。


「ああ……っ、ああああ……っ!!」


 少女の口から恐怖が漏れる。彼女の故郷が、魔獣の群れにかれていく。


 彼女はまだ、自分の家族を見つけられていなかった。


 ドドドドという轟音と泥水に沈んでいく村を、少女はただ見ていることしかできなかった。

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