おふろ
ほぅ…… と少女は、熱い吐息を漏らす。
少女は肩までお湯に浸かっていた。彼女はお湯をすくって顔にかけた。それから全身の力を抜くと、自然と顔が上を向いた。
ラズリーは大きな浴槽に漂う。
魔法の小屋の中は、外から見たときよりも広く感じた。上から見ると、正方形の4分の3が浴室で、残りの空間がトイレ、といった間取りだった。
(まさか、おふろに入れるとはなぁ……)
ラズリーは髪をお湯に広げて、そんなことを思う。
浴室は思いのほか綺麗だった。あのバームという男は、この魔法の小屋を丁寧に使っているのだろう、そう感じさせた。
木の板張りの壁は温かみを感じさせて、少女により一層のやすらぎを与える。
ラズリーは自らの運の良さを感じていた。そして同時に、家族や村の人たちのことを思って、暗い気持ちになる。
とぷん、と湯船の中に顔を沈めると、あの惨劇がコマ切れの映像となって頭の中に蘇ってきた。
――暴走するアウロクスの群れ。薄暗い雨の森からやって来て、村の畑を踏み潰し、家屋を壊し、さらには村の人たちも容赦なく轢いていく。
赤黒い映像を思い出して、お湯の中の少女は眉間にシワを寄せた。食いしばった口から空気の泡が溢れ出す。
ラズリーは運が良かった。
母親に頼まれて、近くの森で薬草やキノコを探していたのだ。
彼女の母親は治癒の魔法を得意としており、たまに村の人たちを診察したりすることがあった。その薬草探しにより、ラズリーはアウロクスによる襲撃から逃れることができたのだ。
だが彼女の両親、それから妹はそうではなかった。
アウロクスの群れの第1陣が通過し、森から急いで駆け戻るも、自分の家と思わしき場所には瓦礫の山しかなかった。
そこから先のことを、ラズリーはよく覚えていない。
濡れたような意識の中で村の外まで歩き、行く当てもなく山道を歩いていたら、細長い部屋のような車内で目を覚ました。
そして今、なぜかお風呂に入っている。
「……ぷはぁっ」
ラズリーはお湯の中から顔を出す。息を長く止めていたので、苦しげに酸素を求める。
彼女の髪から滴がぽたぽたと落ちて、湯船に波紋を作る。滴は止めどなく波紋を描いた。
少女のあごから
無くなってしまった故郷、それから家族のことを思うと、ラズリーは涙が止まらなかった。
湯船に浸かりながら、少女が泣いている。
体の表面は温かいはずなのに、ラズリーの内側は堪らなく寒かったのだ。
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