ーただ、笑顔が見たかったー
数年前の遊園地。
観覧車、メリーゴーランド、ジェットコースター、ティーカップ、お化け屋敷、サーカス、巨大迷路・・・その他にもたくさんあった。
K市の遊園地。今や、ただの廃墟。
眩しいくらいの照明。反射してキラキラと輝くカラフルな衣装。歓声を上げ、拍手してくれるお客さん達。とても楽しい
私は鏡。サーカスやショーで扱われる仕掛け鏡。色々できるから、
私は来てくれたお客さん達の笑顔を見るのが嬉しくて楽しかった。私が見る人達はみんな、心から幸せそうな嬉しそうな顔をしていた。それがたまらなく満足感というか、幸せな気持ちでいっぱいだった。私は幸せな時がずっと続いてほしいと望んだ。けども、形あるものはいつか壊れる。
サーカスの最中ゾウが1頭、私にぶつかってしまってひびが入った。視界が歪んだ。お客さんの数人はそれに気づいて私を指さして見ていた。あぁ、お願い。見ないで。どうか、そんな悲しそうな心配な顔をしないで。そう思ってたら後ろから仲間がやってきて私の前に立って踊って見せた。続けて玉乗りのピエロ姿をした仲間達が出てきて・・・ひびが入った私が見えないようにした。私はとても優しい仲間達だと思って嬉しかった。
終わった後に仲間達は言う。
「ついに壊れてしまったかぁ・・・。ずいぶん長いこと世話になったもんなぁ。」
「飛び散っては無かったんだから、まだ騒動にはならなかったよな。」
「本当にすまん!!俺のとこのゾウがふらついちまって・・・。」
「あのゾウも歳だ。仕方ない。誰も責めはしなしさ。」
「・・・そう考えるとこの遊園地自体、何十年たっただろうな。」
私は一番最初にこの遊園地に来た。だから知ってる。遊園地の『お父さん』は4回も変わった。それでも変わらず私達は大きな遊園地としてお客さん達を笑顔にしてきた。夢の世界のような場所にして笑顔に、幸せな気持ちにしてきた。それが私が生まれて来た意味だから。だから、これからもずっと笑顔を見続けられる。それが私にとっての幸せだから。けど、終わりは案外あっさりだった。
何十年と経って次の『お父さん』となる人がいなくなってしまった。だからもう私達は動けない。仲間達が頑張ってやっても、『お父さん』がいないとやっぱりできないって。そしてお客さん達は来なくなった。お片づけをしていた仲間達はみんな笑ってなかった。灰色とか、黒い服ばっかり着てて二度と踊ってくれることは無かった。笑顔が見れなくなった。それでも私は見たかった。私は見たいと望み続けた。笑顔に、笑顔に、笑顔が・・・。
私の幸せが・・・。
真っ暗な部屋。ぼうっとしていたら眩しい光が入って来た。次に男の人と女の人の声が聞こえて来た。仲間達とは違う声だったからちょっとびっくりした。私は使われなくなってから大きな布を被せられていたから、隙間からちょっとだけ見えた。懐中電灯を持った全身真っ黒の人達。見たことない顔。その顔は笑ってた。でも何か違う。なんだかこう・・・怪しそうな笑顔。
「もうすぐで廃業だろう?だったらなんか金目の物がないか探そうぜ。」
「この箱の中身はっと・・・。お、部品かぁ。まだ使ってないやつっぽいな。いい値で売れるぜ。」
「ラッキー!これ衣装で着けた宝石じゃないの?いいもん使っちゃって~。宝の持ち腐れってやつね!」
この人達は、悪い人だ。私の仲間の物を盗んでいた。私達からこれ以上何を奪おうと言うんだ。私は怒った。少しだけ見える視界を利用して、鏡に映る泥棒さんの姿を真似っこした。
『――ここから出て行ってください。もう何も奪わないで。』
「・・・なんか言った?」
「い、いやなにも・・・」
「え?」
『出て行って!さもなくば、あなた達をここに閉じ込めますよ!』
鏡から真似っこした姿を抜き出した。目の前のある布を掴み、引っ張って視界を広げた。そこに見える鉄骨を動かした。テントを動かした。出入口を塞いだ。泥棒さん達は腰を抜かしてびっくりしていた。だって、自分たちと同じ姿の『私』がいるから。できればこんなひどいことはしたくないけども、これ以上奪われる方が何よりも嫌だった。
「何なのよこれぇ!!??」
「こ、この化け物がぁ!!」
「いやいや、俺だよ?!」
「ちょっと!!間違ってアタシのこと殴ろうとするのやめてくれない?!!」
泥棒さん達は見分けがつかないみたいだった。だから間違えて一緒に来ていた人を殴っていた。そして『私』が殴られた。バールで殴られてしまったから頭からバリって音がして、顔にひびが入った。そのままひびは全身にいって、ボロボロに砕け散った。続けて残りもみんな叩かれちゃって砕けてしまった。泥棒さん達は顔を青くして出られないこのステージで1夜を明かした。
朝になって仲間達がきたら、びっくりしていた。中には寝ている泥棒さんが3人いるから。すぐさま泥棒さん達は謝罪して警察さんと一緒に行った。けども、布が取られて鏡の破片が散らばっているステージを呆然と見ていた。ダメなことをしてしまっただろうか。私は申し訳ない気持ちになった。
それ以降、仲間達は来ることが無かった。
その一方遊園地の外ではこんな噂があった。
『遊園地にある大きな鏡には幽霊が映る。その幽霊はドッペルゲンガーにもなるし、死んでしまった家族とか知り合いが出てくるってさ。』
(なんて身勝手なのかしら)
本当にもう、誰も来ない。私は独りぼっちになった。ただ埃をかぶった大きな鏡。私ってこんなにも無力だったんだ。寂しいし、悲しいし、何より誰にも頼れなくて誰も私を見てくれないのが辛かった。私の思いつく疑問には私しか返事を返してくれない。
・・・あれ、私ってこんな願いだったっけ。確か私は、笑顔が見たいだけだ。笑顔にしたいだけだ。・・・けども、笑顔にするはずのお客さん達はもう来ない。仲間すら来ない。誰も来ない。
・・・なら呼べばいいじゃない。
でも呼ぶってどうしたらいいの。私は無力で何もできないよ。
私はここに一番長くいる。だからこの遊園地のすべてを知っている。
全てを知ってるからってここから動ける訳じゃないよ。だって私はただの鏡だし。
・・・ってよ。
何?
・・・お願い事があるってよ。
お願い事?
お客さん達はみんな遊園地に来るのは何のため?
それは、夢のようなこの場所でいっぱい遊んで楽しんで笑顔になってもらって・・・。
そう、だからもう一度そうすればいい。夢をこの場所でもう一度作ればいい。
出来ないよ。仲間達はもういないんだ。
私だけでもできる。思うばかりでやろうとしないのはただの粗大ごみ。
・・・分かった。でも夢って?
その人の願いよ。
願い。・・・願い、夢。夢で願いを見せる?
そう、そして願いを叶える。そうすれば、願いが叶うのだからお客さんはまた笑顔になってくれる。だって、願い(夢)が叶っているのだから。嬉しいはず。
そっか。なら、私の願いを叶えるにはまず・・・。
願いを叶える。
ぼーっとしていたら、目の前に明るい光があった。それは懐中電灯で何か月ぶりの人の姿だった。見えるのは小さな女の子。私は女の子の顔をじっと見つめた。
「・・・幽霊でもいい。ママ、帰ってきて・・・。」
女の子は小さくそう言った。この子はママに会いたいのだろう。ママに会うことが願いなのかな・・・。少し聞いてみることにした。姿を借りて。
『・・・ママに会いたいの?』
「・・・鏡さん、おしゃべりできるの?」
『できるよ。』
「・・・鏡さん、私ね、ママが死んじゃったの。」
『・・・・・。』
「ママが死んじゃって、パパはずっと泣いているの。私まで悲しいの。」
『そっかそっか・・・。』
「だから、鏡さん、お願い。ママに会わせて。元のパパに戻して。」
『うーん・・・。2個もお願いはできないよ。』
「・・・それじゃぁ、ママ。」
『会いたいの?』
「うん。」
『幽霊でもいいの?』
「・・・うん。」
『・・・でも幽霊だと触れないし、消えちゃうよ。』
「そうなの?」
『うん。』
「それじゃ・・・、夢でもいい。ママに会ってぎゅーってしてもらってパパと一緒にここで、遊園地で遊ぶ。」
『それならずっと居れるね。』
「うん。」
『でもね、その願いを叶えるには代わりにあなたからもらわなきゃいけない。』
「何を?」
『あなたの大事なもの。』
「・・・・。」
『それを無くしてでも見たいなら、いいよ。』
「・・・分かった。無くしてもいい。もう無いから。無くすものはないよ。」
『分かった。』
(あなたの願いを叶えましょう。)
『代償は、あなたの体よ。その体を私に頂戴な。』
女の子は気を失った。そして灰色のモヤモヤが体から出て大きくなって、外に出て行った。その灰色のモヤモヤ・・・霧はよく見ると仲間達が見えた。そっか、この霧の中なら仲間達もいるから絶対に楽しいね。そして、私は残された体を私の中に引きずり込んだ。
気付くと、私の前にはあの女の子がいた。黒髪の女の子。けども黒い布を被っていて、赤い目をしていた。こっちに振り向くとニコッと笑った。久しぶりに見た人の顔。笑顔。けどもあの嬉しい感じは一切出てこなかった。むしろ、気持ち悪さが出て来た。だって、だって。
——その子は『私』だったから。
「・・・清々しい気分ね。『私』。」
『なんで、なんで・・・。』
「何でって、あなたが望んだことよ。」
『違う!こんな、こんな形なんかじゃない!』
「そう。本来はこんな形じゃないかもしれないけども・・・そう決めつけて動くとでも思った?」
『・・・。』
「言ったはずよ。思ったはずよ。そのままじゃただの粗大ごみってね。」
『そんなこと・・・分かってる。分かってるよ!』
「それでも望むのがどれだけ無謀か!!」
『・・・っ。』
「あなたのその頭の中はどれだけ花畑かしら?!願ってばっかり!望んでばかっり!思うだけでは何もできないって分かりきってるでしょう?!それを分かっているのに何もしようと、動こうと決めないのはあなたは恐れているからよ!!笑顔にするはずの人から軽蔑を受けること・・・!!笑顔でもなんでもない、嫌悪の顔!自分が見捨てられることへの恐怖よ!!」
『・・・怖い、よ。怖くて仕方ないよ!あの時初めて姿を借りた!正しいことを、やらなきゃいけないと思ったんだよ!けども、・・・けども、それっきり仲間達は来なくなった。会いに来てくれなかった。・・・捨てられてしまった。』
「あなたはそんな恐怖に縛られているから、動けないのよ。・・・だから私が動く。」
『・・・何をするのっ!何もしないで!!』
「私は願いを叶える。私の願いの為に。幸せの末路を見るために。あなたは笑顔を見たいと望んだ。だから私はそれを見る。それを作る。それが望んだことだから。・・・願いの叶った末路を見る。」
『やめてよ!もう、そんな風に・・・人から奪わないでよ!』
「奪わなければそんな大きな願いが叶うはずもないでしょう?!話聞いてたの?!この屑粗大ごみが!!」
『そんな叶えてはいけない願いなんか叶えちゃいけないんだよ!』
「それ以外のどこに願いがあると?!この体の少女もそうよ!あれだけ頭の中は母親のことでいっぱい!それ以外にどんな願いを持っていたっていうの?!」
『そ、そんなの・・・』
「・・・少女にとって願いなんてこれしかなかったのよ。だから叶えた。何も間違えてなんかない。」
『・・・・。』
「私はこれから願いを叶え続ける。叶え続けて、その末路を見る。私達の願いだったのだから。よっぽど動いている私の方が正しいわよ。」
『・・・ダメだよ。』
「口答えるするくらいなら、あなたの力でどうにかして見なさい。・・・あ、ほどんと私が持って行ったんだったわ。」
『・・・・。』
鏡である私は、ある女の子の願いを叶えた。
得たのは、一生見れる夢。代償は体。体はもう一人の私が持っていき、女の子は霧になって夢を見続けた。それは今でも遊園地に散らばっている。
その次も、ある男性の願いを叶えた。
得たのは自分の息子。代償に体を馬に変えた。音を操るメリーゴーランドの馬。その姿となった。
次は、女の子と男の子の願いを叶えた。
得たのは自由。代償に理性を無くした。2人はピエロの姿で笑い続けていた。
次、次、次・・・。私は何回も続けた。そして末路を見続けた。全員、清々しいくらいの笑顔だったわよ。
そして、あの男の願いを叶えた。
全てを壊してしまった男。護るはずだったものを壊してしまった男。
いや、もはや化け物か。・・・いや、化け物ほど人らしい哀れな願いを持つ者はいるだろうか。この男の願いは叶えるに値する。そして、叶えないとこれ以上叶える人がいないわ。だって全部壊したから。
得たのは時間の巻き戻し。代償に
私はこれからも願いを叶え続ける。人よりももっと強欲に願いを持つ者を見つけた。それは化け物だ。化け物ほど叶え甲斐のある者はいない。化け物ほど幸せを望み、叶えられない、届かない願いを持つ者はいない。
私があなたを幸せにしてあげます。だから、私の願いも叶えてくださいね。
シナリオ名『Are you happy?』 まっちゃぁぁ @mattyaaa
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