シナリオ名『Are you happy?』

まっちゃぁぁ

ーただ、護りたいー

数十年前、FHが”賢者の石”を手に入れた。

その適合者を探すべく事件やらも起こしていたが、起こし過ぎていしまいUGNに見つかる。その際の戦闘で1人の子供が巻き込まれた。


コンビニで肉まんとアイスとコーラを買って歩きながら肉まんを食べていた。うめぇ。やっぱりアツアツの状態で喰わなきゃ。

そんな風に考えて肉まんを頬張っていた子供。角を曲がろうとしたときに走ってきた男性とぶつかった。持っていたコンビニ袋は地面に落ちて中にあったコーラが踏まれた。そのため男性は勢いよく転んだ。男性は思いもよらない出来事に後頭部を打ち付けていた。

この野郎と、怒りが浮かぶ前にまじかよ、大丈夫か?と心配する感情が浮かんだ。男性は冷や汗をかいているようにも思えた。顔が怯えているような必死な顔だった。男性は何を思ったか、ぶつかった子供を抱きかかえ向こうから走ってくる人達に見せつけるかのように叫んだ。

「おい!この子供がどうかなってもいいかぁ?!」

男性は笑っていた。向こうから走ってきた男3人に女1人はその状況に一度止まる他なかった。普通の子供となれば、一瞬で殺せてしまうから。

子供はびっくりして強盗のおっさんなのかとでも思った。でもおっさんはナイフとか武器は何も持ってなかった。つか、目の前に来た4人もなんだ?普通の服で、警官でもなさそうなのになんで”あんな変な武器”っぽいの持ってるんだ?子供は状況を飲み込めず、自分の命が危険だということも分からなかった。

じりじりと距離を詰め、一気に近寄ってきたのは銃を持った女だった。すぐさま子供を持った男性は足で向けられた銃口を蹴り飛ばした。大きく鳴った銃声。銃弾は建物の壁に当たった。それに合わせるかのように剣を持った男性が斬りかかってきた。子供は斬りかかってくることだけは確実に死ぬ予感がした。もがいた。結果、腕をかすっておっさんが血を噴出した。目の前で人が斬られているのは初めてだ。いつもテレビの中だと思った。こんな、こんなにも痛々しく、紅いのは・・・。

そのせいなのか、なんか胸の辺りが痛くなった。痛くて、熱くて、・・・腕が変形していた。見た時はビビった。けども使い方がなぜかは知らないが分かっていた。頭の中で爪の鋭い赤い腕を思った。腕はその通りに爪の鋭い赤い腕になった。子供はその腕で自分を抱えているおっさんを殴った。さすがに引っ掻くのは気が引けた。


その後、子供は無事に保護され、男性も捕まえられたが肝心の所持していたと思われる『賢者の石』が見つからなかった。探し回ったらなんと子供が持っていた。しかも体の中。

子供は目の前で見た出来事に生存本能が働いた。その結果覚醒。同時に持っていた賢者の石に反応。適合者となってしまった。


子供はすべてを教えられた。親である母親にもすべて話され、事を受け入れた。母親は無事でよかったとだけいい、子供を抱いた。人ならざる者となってもこの子は私の子だと言い切った。子供は未だ浮いている気分だった。


子供、鷺楼さぎろう しょうはキュマイラ・エグザイルとして覚醒。力の使い方を学ぶためしばらくUGNの世話になった。その際に同い年の女の子が先輩として教えた。その子は大墓おおはか 依里いり。生まれながらのオーヴァードで優秀なチルドレンだった。翔はライバル心を燃やした。今の今まで聞いてた話では自分がレアな物だと思ってた。自分の上はいないのだと思った。だが、こうやって自分よりも強くて周りに尊敬されているやつは・・・しかも女・・・。

主人公になった気分で、何としても上になりたかった。


翔が依里と訓練している裏ではUGNとFHの戦闘が繰り返された。賢者の石をもつ子供が出てきたと出回ってFHはそれを狙った。UGNは意地でもと思い、護り続けた。それは依里もだ。連絡や学校でも常に隣に居続けやるべき任務を全うした。だが、翔はそんなこと理解するのは遅く、依里に対ししつこいと突き放していた。依里は普通が分からなかった。それに対して無情に受け入れた。できる限り視界に入らない程度に監視、保護をすることにした。変な感情があったがどんな風に言って良いのか分からず、飲み込んだ。


時間は流れて翔は高校生になった。覚醒時は小学生。それに比べたら理解も早く、力も十分に使えるようになって前線に立つようになった。もう自分で自分を護れる翔はFHに狙われなくなった。依里は翔の監視のために同じ学校に行っていたが長い時間の末、普通を理解。表情も柔らかくなって怒るときには怒る。泣くときには泣くという何とも人らしい人になった。気持ちの理解や日常のありがたみを分かってきた。

二人は話の通じる幼馴染となった。


依里は翔に日常の話を山ほどされ、好きだというゲームをたくさん一緒にやった。RPGなら協力して、対戦だったら勝つまで、好きな物を共有していた。依里はゲームにドはまりした。依里のシンドロームはブラム=ストーカー・オルクス・ノイマンだったこともあり頭がよくゲームのバグを見つけては翔に自慢して大人しく運営に通知を入れていた。いつしか依里の方がゲーム好きになっていた。翔はやれやれと思いつつ、お菓子をつまんで一緒にやっていた。


二人は相棒として数々の任務をこなした。好成績を叩き出し、他UGN関係者を驚かせた。翔はUGNエージェントに、依里はUGN支部長まで上り詰めた。

保護対象だった翔は今や、護る側になった。護れるようになって、依里や世話になった人たちに恩返しをしてきた。依里は経験上、失うことへの恐怖感はありつつ任務は全うするとできる限りすべての人が救える判断をしてきた。別れも告げて来た。自分が前線に出ることは少なくなり情報網を扱うことが多くなった。つまりは私服がジャージになった。

翔は外に出ろと言った。依里は出てるよと言った。出てねぇじゃんと翔が突っ込むと、従者が出てるよと言う依里。このめんどくさがりがと言って翔は依里の頭をわしゃわしゃした。


ある時、FHとの大きな戦闘があった。これにはさすがの依里も前線に立たなくてはと動いた。翔はその隣で護り続けた。だが、相手も総戦力を使っているのか押されていっていしまい致命傷を受ける者も多くなっていった。

依里が倒れた。半獣化している翔はすぐさま依里を支えるが、力なくピクリとも動かない様子に頭が働かなくなっていった。判断が鈍くなった。挙句には暴走した。


依里が、殺された。殺された。死んでしまった。だって動いてねぇ。俺は護ってきたはずだ。護りきってきたはずだ。俺は護れたはずだ。死んでしまったらそれは・・・。

『お前らのせいだ』衝動:破壊

暴走した翔は大きな赤い獣となった。目の前にいる敵をすべて薙ぎ払った。胸の辺りには赤い石があった。攻撃してくる敵は驚いた。皮膚が、体があまりにも堅い。攻撃が通用しなかった。赤い鱗とも言える体に、鋭く地面を抉る爪、恐怖感を煽る雄叫び、視界の外から攻撃してくる尾。FHは全滅した。

それでも暴走は収まりきらない。衝動任せになって理性が吹っ飛んでしまった翔は周りにある物全てを壊し始めた。それに動揺し、人々は逃げ惑う。UGNも動こうとするがFHの戦闘で残った戦力などない。他支部に助けを呼ぶ時間もない。動くことはできなかった。


理性が戻ってきた。どっと疲れが出てくる体は限界を迎えていた。倒れ込むと思いのほか大きな音がした。なぜだと思って手を見た。そこには血まみれの獣の手があった。少し驚いて周りを見た。周りは何もなかった。地平線すら見える。建物が、瓦礫の山が、人々が、全ていない。灰色の異世界のようだった。


壊してしまったのか。壊してしまった。全て俺の手で。俺の血まみれの手で。護るものを、護りたかったものを、日常を、全て。

『・・・なんでだ・・・なんで・・・』

『なんで壊しちまったああアアア”ア”ア”ア”■■■■アァ”■■■■■ア”ァアア”!!■!!』

ただ聞こえるのは化け物の叫び声。


「全く、そうですね。」

女の声が聞こえた。

「あなたがすべて壊してしまった。護るべきもの全て。」

言われなくなって分かってる。理解している。

「・・・戻したいですか?」

・・・んなもん、戻せるわけがねぇよ。壊しちまったもんは元に戻らねぇ。嫌でも分かってる。分かってる。

「あなたが犠牲となって、戻してみませんか?」

は・・・?

「私もこのような結末、望んでないのよ。願いの叶ったその先が見たいというのに、願いを持つ人が誰もいないわ。」

・・・そりゃ、俺が壊しちまったからな。

「だから、合理的な契約よ。あなたが壊してしまったのだからあなたが犠牲となってこの結末を変える。どうかしら?」


『契約』という今を変える力。本当ならするべきでじゃねぇ。けど、もう何もかも壊して無くしちまった。もう俺に、今の俺に無くすものはねぇよ。

大事な相棒も、恩人も、母親も、友人たちも・・・日常を。

『・・・してくれ。俺は護り続けたいんだ。無くした今でも。』

ただ、護りたい。それだけの俺のわがままだ。


「分かりました。では『あなたの願いを叶えてあげましょう』。」


すっと体が軽くなった気がした。あたりが真っ白になった。気づけばそこはFHとの戦闘前線。隣では依里が戦ってる。目の前のFHの人間に爪を立てていた。

時間が戻った。

俺は知ってる。このまま戦い続ければ依里が死ぬと、俺がすべて壊すと。だから、俺は依里の腕を引いてできるだけ逃げに徹した。依里は反対した。もがいた。戦わなければいけないと、戦わなければ救えないと。・・・救えなかったんだよ。頼むからもう言わないでくれ。

俺は依里の頭を気絶するぎりぎりの衝撃を与えた。依里は言葉を最後まで言わずにぐったりとした。俺は依里を抱えて支部まで運んだ。その間にもFHは襲ってくる。俺は襲ってきた奴らを全て薙ぎ払った。なぜか知らないが、力は大きかった。


依里を支部に置き去りにした。俺はFHとの戦闘に戻った。そこで分かったんだ。俺はもうすでにジャーム化していた。なんだ、依里が死ぬ前に俺が死ぬべきものになってたのか。俺は死んでもいい気でFHを全滅させた。だが、なぜか分からない。理性が吹っ飛ばないのが。全滅させた後、支部に戻ることなく俺は市外の廃墟を探してそこに隠れた。まずはあのガキを探して話を付けようと。あいつは言っていない。俺の願いがどう叶ったのか、俺はどんな代償を払ったのか。


数日探して、廃墟となった遊園地で見つけた。全身真っ黒のガキ。

契約で得たのは『時間の巻き戻し』。

代償は『ジャームとして生き続けること』。

俺は戸惑った。『生き続ける』ってなんだよ。ガキは答えた。そのままの意味だと。ジャームとして今を生きて居なければ代償が払われなくなって契約破棄。あの何も無い結末に戻る。そして私が死ねば契約が全て解除。これもまた元に戻る。そんな契約だと、ガキは続けた。

「護り『続けたい』と言ったので、生き『続けて』くださいね?」

俺は何を間違えた?ただ俺の望んだことを答えたのに。

だが、間違ってない。俺は自分を犠牲にしてもいいと言った。言ったんだ。思ったんだ。だからこいつは・・・このクソガキは『時間が戻った俺』から代償を払わせたんだ。何もかもまだ失っていない俺から奪ったんだ。

ガキは笑った。その歪んだ顔で。殴ってやりたいと思ったが、手が出せない。出したら殺しちまうからだ。殺したら・・・・。


俺は遊園地にいることにした。灰色の霧が常に広がるこの霧の中で。

俺はガキに聞いた。

「・・・この霧はなんだ。」

「さぁ、なんでしょう。」

「普通の霧はこんな濃くねぇし、こんな『夢』なんか見ねぇよ。」

「そうでしたか。」

「・・・何も言わねぇってのは、言いたくねぇっつうことでいいな。」

「えぇ、いいですよ。言っても聞きたくないと言われると思うので。」

「・・・・クソガキが。」

「ふふっ、では代償をしっかり払っててくださいね。『ギルテ』さん?」

「その名前は捨てた。」

「あら。」

「今は『ティエル』だ。」

「そうでしたか。では、『ティエル』さん。」


「あなたの願いの末路、見せてくださいね。」

全身真っ黒の赤目の少女は霧の中に消えた。

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