07 千代、再び行き倒れる



 それから数日後。


 ぱぱっとシーンを飛ばしていきますよっ。


 何せ、変わった事がなにもないので、描写する事もないんですよね。


 さてさて、今の私ですがーー。


 なんとっ、

 威勢よく飛び出したはいいものの。

 結局、また行き倒れてしまいましたっ!


 だって、お金持ってないですし、この世界でのコネがないので保護してくれる人いませんし、文字も読めないので求人票分かりませんし。だから仕事にありつけませんし。むしろそういう斡旋所がどこかも知りません。


(かろうじて言葉が通じますけど、焼け石に水ですっ)


 あうう。

 お腹がすいてきました。


 ふらふら歩いては、ばったり。むくりと起き上がって、ふらふら。ばったり。


 それの繰り返し。


 ぐーきゅるるる。


(もうそろそろ何かを食べないと、死んじゃいますっ!)


 ああっ、道を行きかう人がおいしそうなカボチャに見えてきました。


 食べたいです。むしょうにかぶりつきたいです。


 もう今の私が見ているのが現実の光景なのか、幻なのか、はたまた夢なのか。判断できなくなってきました。

 そんな頃。

 誰かにぶつかってしまいます。


「腹が空いているようだな」


 その誰かが、お菓子を差し出してきました。

 甘い匂いが、空腹を刺激してさらにぐーきゅるる。


(まさか、これ食べていいんですかっ!)


 私の視線は食べ物にくぎ付け。


 だから、差し出してくれた相手の正体に気が付きませんでした。


「お前にやる。存分に食えばい「いただきますっ!」」


 最後のセリフまで待ってられません。


 むしゃむしゃむしゃ。


 味なんて気にしてられませんっ!

 とにかくお腹の中にご飯を、栄養を、食べ物をいれなくちゃ。


(ありがとうございます。ごめんなさい。でもすんごく美味しいですっ)


 夢中で歩奪っていると、笑い声が聞こえてきます。


「くくっ、いい食べっぷりだな。これなら期待ができそうだ。お前は俺が拾ってやる」


 そこで、はっとなってぶつかった相手を凝視。

 その声、聞いた事があるような。


 ど、ど、ど、どうりでっ!


「俺が命の恩人だ、だからお前は絶対服従だ。俺のところで死ぬまでこき使ってやるから、必死で働けよ!」


 見覚えがある顔で、聞き覚えのある声してるわけですっ!


(エフさんのお屋敷で助けてくれた、目つきの悪いイケメンさんじゃないですか!?)


 私はすぐに回れ右してダッシュしようとしますが、盛大にすっ転びます。


 すってーん!


「きゃうっ、い、いたいですぅ~!」


 ずっと空腹でふらふら歩いていたのだけなので、自慢の駆け足も駄目だったみたいです。


 影が差して視線を上げれば、そこには嫌らしくニタリと笑ったイケメンさんが。


(ひえぇぇぇぇっ!)


 この人、全身からドエスオーラが出ちゃってますよっ。


「今日から俺がお前の主人だ。よ・ろ・し・く。新人メイド」


 こんな行き倒れ一歩手前の状況で、断れる人が果たしているでしょうか。


「あ、あうう、あうううう」


 私は涙目で、がくがく震えるしかありません。


 どうやら私、またとんでもない人に拾われてしまったみたいですっ!


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