06 千代、迷う
数十分後、私は見たような見てないような区画を彷徨っていました。
「ここ、前にも通ったような? あうぅっ、よく分かりませんっ!」
見慣れない廊下なのか見慣れた廊下なのか全く区別がつきません。
困りました。
ウロウロしてると、私の脱走に気が付いた人達が慌てている声がしてきます。
「お客様が、逃げたぞっ!」
「何だとっ! それは本当かっ!?」
「まだ屋敷の中にいるはずだ!」
「探し出せっ!」
そして、どたばた。
時間が経つごとに状況が厳しくなってきています。
(とにかく、じっとしてたら捕まるだけだよね。動かないとっ)
どこに行けば良いのか分からないし、ここがどこかも分からないけど、ここから離れなきゃだめな気がします。
再び全力疾走。
でもどこかへ走り出そうとした私を、誰かが引き留めました。
襟首を掴まれて、「おい、そっちは逆方向だぞ」急停止。
「くぎゅぅ」く、苦しい。
なんて、はしたない。
ニワトリを絞め殺したような声が、乙女の口から出てしまいました。
行き倒れている時点で、普通の乙女かどうか怪しいですけどっ。
それはおいといて。
声をかけてきたその人は、この屋敷のお客さんだったみたいです。
ちょっと意地悪だけど裏口に案内してくれました。
金髪に青い目の、するどい目つきの男性です。
体格はエフさんよりちょっとしっかりしてて、背も高いです。
後、顔がイケメン。
結構私の好みかも。
見た目、かっこいいですっ。
「平民か? 逃げてる所を見ると、まんまと騙されたクチか。あいつは生粋の変人だ。ころっと騙されてついてく方が悪い」
「あうう」
「お前が望むなら、やり返してやろうか? 火あぶりでも磔でも水攻めでも、大抵の事はできるぞ」
ひいいっ。
お客さんの言葉に私は思わず震え上がってしまいました。
(とととっ、とんでもありませんよっ!そんな事したら死んじゃいます!)
私は相手の身分も考えずに背中をぽかぽか。
「普通の人間は、火であぶったり、水で責めたり、磔にしたりすると死んじゃうんですよっ!」
エフさんのお客さんであるなら、それ相応に裕福な人なんでしょうけど、すっかり失念していました。
(何言ってるんですかねっ、このお客さんっ!!)
エフさんも危ない人なら、この人も危ない人だったみたいです。
類は友を呼ぶようです。
「私が悪いので高い授業料だと思っておきます。ひどい事をされたわけではないので、美味しいお食事と柔らかいベッドありがとうございましたと伝えておいてください」
「ほう、変なやつだな」
とんでもない思考をしているイケメンさんは、意外そうな顔になりました。
とりあえず、「せっかくの俺の厚意と親切心を無駄にしやがってーっ!」と怒るような人ではなかったみたいで、ほっとします。
お客さんに先導された私はそのまま、裏口から自慢の逃げ足の速さを駆使して逃げていきました。
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