体育祭
この話を書きながら、前の職場のことを思い出していました。
私の係も多忙でしたが、もう一つの係は尋常ではなく多忙な状況でした。産休に入った職員さんがいて、その代替がつかなかったこともあったと思います。
その大変な係にAさんという男性職員さんがいました。
Aさんは中堅でしたが、初めてその係に配属されて、一生懸命仕事を覚えようとされていました。初めてだからミスもあるし、一度では覚えられなくて度たび尋ねることもあります。
けれどとにかく多忙だったので周囲も余裕が無くて、年下の職員から「前も教えましたよね」と言われてしまったりしていました。
Aさんの隣はその係の古株で、とても優秀な男性職員でした。その人は係全体をフォローしていて、ご自身のことを「面倒見がいい」と思っていたと思います。
けれど、優秀で無理を厭わないその人は、周囲にも自分と同じものを要求してしまうところがありました。どうやったら出来るようになるか、より、どうして出来ないのかを責めてしまうところがありました。隣ですから、Aさんは頻繁にそうしたことを言われていただろうと思います。
Aさんは頑張り続けました。Aさんの時間外勤務はどんどん増えました。
そして、一番の繁忙期に、突然職場に来ることができなくなりました。
結局、Aさんは数か月間休職し、通院もしました。本当はもう少し休養が必要だと言われていたようですが、諸事情により職場復帰することになりました。
隣の係は、Aさんが抜けたために大変な混乱に陥り、尋常ではない時間外勤務を重ねていました。そこにはもう、Aさんの居場所はありませんでした。
Aさんは私の係で復帰することになり、私の隣に急遽Aさんの席が用意されました。
当時、私は初めて課の庶務を任されていました。通常業務に加えて、大量の照会文書や謎の支出システム、面倒なパソコン入れ替え作業、年末調整等に追われる日々。庶務の経験があるAさんが、私の補佐をしてくれることになったのです。
自分がいっぱいいっぱいで、何をどう振っていいか分からない私に対し、Aさんは「これは僕がやります」と自分から仕事を引き受けてくれました。私のミスも優しく指摘し、どうすればよいか教えてくれました。Aさんは自作の庶務ファイルを確認しながら、丁寧に仕事をされていました。Aさんに、私はずいぶん助けて頂きました。
Aさんは、インプットに時間がかかるタイプの方だったのかもしれません。けれど、彼のペースでじっくり積み上げていけば、隣の係でもこんな風に皆を優しくフォローしてくれていたのだろうと思います。
結局本人の希望で、Aさんは一年で別の職場に異動しました。最後の挨拶で皆に「ご迷惑おかけしました」と頭を下げたAさん。どんな想いだったろうかと思います。
そもそも、隣の係がそんなに多忙ならなぜ人員要求をしないのかとか、業務量を見直せないかとか、いろいろ問題はあるのですが。
私たちは一人ひとり違い、それぞれのペースがあります。育児や介護、自分の体調、諸事情により思うように働けなくなることだってあります。
その中で画一的に仕事をこなすことを求められたら、無理がくるだろうなと思うのです。
個人的には、例えばマタハラは、妊娠した職員が休んでもフォローできる体制が無いことで、負担がかかる周囲の職員からの悲鳴として現れるところもあるのではないかと思います。
私自身、要領悪くてそそっかしくて、周囲のフォローなしには働けないし、こどもの発熱等で仕事を休むこともよくあります。今まで周囲がいい方ばかりで、恵まれてきたけれど。
もしAさんみたいな状況に置かれたら、もっと早く潰れただろうと思います。
うまく言えませんが、穴をあけないように皆頑張れ、ということではなくて、「穴があくことだってあるよね」というのを前提とした柔軟な在り方が求められるような気がするのです。綺麗ごとかもしれませんが。
時々、Aさんのことを思い出します。
彼のペースで、健やかに過ごされているといいなぁと思います。
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