なろう系世界の裏側
世界は闇に包まれていた。
数年前復活した凶悪なる魔王による暗雲により、
動物が突如狂暴な魔物と化し多くの街が襲われたのだ。
民による決死の攻防も空しく数多くの命が犠牲になり、荒廃していく世界。
人々は一点の光明も見いだせずにいた。
そんな中、とある魔術都市に住む魔術師が驚くべき研究が成功した。
『召喚魔法』
魔法が一般的なこの世界ではあるが、召喚魔法は成功例がなかった。
幻獣や伝説の勇者が現れると、太古の伝記に残る程度である。
しかし、魔術師の懸命な研究の結果、召喚魔法の解明に成功したのだ。
魔術師が大きな錬成陣の中心で最後の文字を床に書いた。
『この世界に希望は残っておらぬ…。異世界の民よ、世界を救いたまえ!』
その瞬間、錬成陣に稲妻が走り、中心より光の柱が暗闇の空へ突き抜けた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
『あれ…ここはどこだ…?』
男は気づいたら見知らぬ森の中に立っていた。
『家でアニメ見てたはずなのにどうなってるんだよ。家に居すぎておかしくなったかな。』
三〇歳中盤にも関わらず仕事はしておらず自宅でアニメ鑑賞がメイン。
つまるところ、ニートである。
しかもいきなり召喚されたため、パジャマに裸足と情けない姿だ。
状況をつかめぬまましばらく茫然としていると、
魔術師が2人の召使いと共に馬に乗りやってきた。
『勇者様、お待ちしておりました。』
馬を降り、魔術師は深々と頭を下げ歓迎の言葉を男に送った。
『えっ、どういうこと…?』
男は状況を全く呑み込めていない。魔術師は続けて説明した。
『この世界はあなたが生きていた世界とは別な世界。ただこの世界は魔王の手により崩壊してしまいます。そこであなたの力で魔王を倒してほしいのです。』
説明を聞いて、なんと男は満面の笑みを浮かべていた。
『これ異世界転生じゃん‼俺勇者ってこと⁉すげぇ‼』
大喜びで軽くジャンプしながら、小太りの体を揺らしていた。
『装備品は用意してあります。こちらの剣、盾、鎧、兜をお持ちください。』
魔術師が用意したのはしっかり鋼製の装備一式だった。
『最初から鋼の装備とか最強かよ…!』
男は感動をしながら召使いに装備をしてもらった。
普通に考えたら世界を救う勇者なのだから、
いい装備をもらうのが普通かもしれないが。
『それでは勇者様、世界を救って下さい。お願い致します。』
魔術師と召使いは深々と頭を下げて、男に旅立ちのあいさつをした。
『おう、任せとけ!絶対世界救ってくるからよ!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~
召喚された森を旅立ち、茂みの中を進んでいく。
男はもらった剣を振り回して、鼻歌を歌いながら道を進んでいた。
『ガサッ』
右側前方の茂みより音がした。とっさに剣を構えて様子を伺う。
すると、スライムらしき魔物が三体目の前に姿を現した。
『なんだ、スライムか…。』
かなりビビっていたが、招待が分かった途端緊張を解いた。
『よーし経験値稼ぎだ。倒させて頂くぜ!』
男は剣を振りかぶり、スライムに向かって切りかかった。
しかし、斬撃は惜しくもスライムの横をかすめた。
『なにっ、避けただと…ぐはっ⁉』
背中にハンマーで殴られたような激痛が走った。スライムの体当たりである。
しかも三匹いるので、残りの二体も次々体当たりをしかけてきた。
おまけに攻撃の手はやまなくリンチ状態である。
『ちょっと…待って…俺のターン…』
男はあっけなく死んでしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
『おかしいな…勇者様スライム如きで死んでしまったぞ。』
木陰からスライムとの戦い、もといリンチをみていた魔術師はぼそっと言った。
『魔術師様、これで召喚した勇者様126人目です。今回は剣術も取得しておりませんでしたよ。いい加減諦めましょう。』
そう、召喚された勇者の能力は強化されていない。普通のおっさんなのである。
おまけにレベルというシステムも存在しない。現実的な異世界なのであった。
魔術師は悔しそうに馬にまたがり、召使いとともに都市へ戻った。
『くそっ、民を待たせるわけにはいかない。召喚を続けるぞ。』
『えー、もう無理ですって。私たちの魔法で世界救う方がまだ現実的ですよ。』
『魔王怖いから嫌だ。勇者にやらせる。』
こうしてまた次の勇者が召喚されるのであった。
あなたの知っているお話の勇者が召喚されるのはもう少し先のお話…
了
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