第34話 詩冬のこだわり
食事が終わったのち、柚香と卯月を自分の部屋に戻した。
台所で食器を洗いながら、ふと思った――。
卯月は日用品なんて持ってきてないはず。歯ブラシや着替えのTシャツとかも。
ちょうどそこへ天井から柚香が現れた。
詩冬の頭のてっぺんに、ふわりと着地する。
「詩冬。歯ブラシやTシャツだったら、郵便局の隣にできた新しい店で売ってたでしょ? この時間でも大丈夫。あそこってコンビニみたいに二十四時間営業だったから」
「わっ、柚香! お前、どうしてオレの考えてることがわかったんだよ。テ、テレパシーでも使えるのか?」
驚愕する詩冬の頭上に足を置いたまま屈んだ。
詩冬の顔を逆さまに覗き込む。
「詩冬のようすを見にきただけよ。あたしは守護霊さまなのでね。それよりあんたさあ……。いい加減に独り言する癖をやめたらどう? 霊のいないところでも普通に詩冬が声出して喋っているの、もう何度聞いたことかしらね」
「ええっ!? オレ……声、さっき出していたのか」
目を丸くする詩冬に、柚香はゆっくりと首肯した。
「うん、しっかりと。さっきの独り言、本当に自覚なかったみたいね?」
詩冬としては、死にたいほどショックだった。
自分ではまったく気づかなかったのだ。
「さあさあ、ハズカシイ詩冬くん、さっさとあの店に行ってきたまえ」
柚香に言われたとおり、郵便局の隣の店まで行くことにした。
それにしても……。
「人を匿うってカネかかるなあ」
「あたりまえ。特に女の子はね。洋服に、おしゃれ品、身だしなみ品などなど」
いちいち偉そうだな。
「聞こえたっ」と柚香。
詩冬は舌を打ち鳴らし、卯月を呼びに階段をあがっていった。部屋の戸をノックする。どうして自分の部屋なのにノックしなければならないのか――そんな不満や疑問を抱きながら。
開けた戸の向こうに、卯月の姿があった。
詩冬を横目でじろりと見る。
その排他的なオーラ……なんとかならないものだろうか。
「あ、いや、なんでもない」
結局、発したのはその一言のみ。
そのまま戸を閉め、そろりと階段をおりていく。
階下では柚香が待っていた。
「詩冬、何やってるの?」
「いや、ちょっとさあ。結局、買出しに誘えなかった……」
「何それ」
柚香が呆れ顔する。
詩冬は一人で玄関に向かった。
靴を履いているところへ、柚香が脇にすうっと立つ。
「あたしもついて行こうっと」
詩冬は柚香の顔を見て思った――。
こいつ、タカる気満々だな?
これから向かう店は日常品ばかりではなく、しっかり食料品も売っているのだ。
自称『守護霊さま』とともに外へ出る。
まだ夜の十時半だというのに、路上の通行人はまばらだった。
そして歩くこと十二分、郵便局の隣の店に到着した。
店内に客は一人もいなかった。店員が一人でレジに立っているだけだ。
詩冬はカゴを持ち、日用品をカゴの中へ放り込んでいった。
柚香も詩冬のカゴに商品を放り込む。
「てか、柚香。勝手にマンゴーケーキ入れるんじゃねえ」
「いいじゃない。細かいことはさっ。それよりカゴの中をチェックさせてみて」
そう言ってカゴの中の商品を確認する。
「うん、パジャマもちゃんも入ってる。でも下着がまだねぇ」
「やっぱり、それ、きょう必要か?」
「あたりまえじゃない」と棚から下着類を取り、詩冬の持つカゴに入れた。
「おい、バカ。入れるな!」
「何言ってるの? 必需品よっ」
詩冬が商品を棚に返す。
「黒い下着なんて、渡せるわけねえだろ!」
と額に汗を垂らしながら柚香に言った。
水色のものに替え、カゴに入れ直す。
「あっ、色? ふうん。詩冬って下着の色にこだわりがあったのね」
「ち・が・う!」
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