第9話 魑魅魍魎の跋扈する森②


 魔物狩りは順調だった。


 これまで二体のペロタを屠り、二体の短足ガエルの魔物を殺した。

 合計四体だ。あと一体で若き日の店長たちに並ぶ。


 どうせなら、そろそろ違った種類の魔物にも出てきてほしい。

 同じような相手ばかりではつまらない。むろん強すぎるヤツは勘弁だが。


 オレはやはり囮として、一人で川辺を歩かされた。


 無風のはずなのに草がごそごそと揺れる。

 何かがそこにいるのは間違いない。

 さては魔物だな。


 さあ、出てこい。

 そこに向けて小石を蹴ってやった。



 ガサっと音がした。

 出た! 魔物だ。


 しかしまたペロタだった。

 ちょっとガッカリだ。


 ぺロタは小さなジャンプでオレから距離をとった。

 草の茂みからこっちをじっと見ている。襲ってこないのか?


 そのときだった――。


 ペロタの背後に忍び寄る物体があった。

 四足の魔物だ。その姿はオオアリクイに似ている。


 ただしその顔はオオアリクイよりもさらに細長い。

 まるでヤツメウナギのようでもあり、グロテスクにさえ感じられた。


 とても細長い口が伸びる。小さかった口は大きく広がった。

 そして何も気づかないペロタを、背後から一気に呑み込んだ。


 呑み込んだ口先が膨れあがる。

 その膨らみは喉の方へと移動し、やがて消えた。

 魔物を捕食する魔物だったとは。


 新たなターゲットはそいつだ。

 ここからオレたちの総攻撃が始まった。


 まずはリーチの長い金属棒で、突き、叩く。

 弱ってきたら鎌の出番だ。

 そしてマウンが大型ナイフでとどめを刺した。


 このオオアリクイ“もどき”も呆気なかった。

 もしかしてオレたちって、結構強いのかもしれない……なんて。


 倒した魔物はこれで五体。若かりし店長たちの記録と並んだ。

 もちろんこれで満足なんてしない。目標はあくまでも十体。

 皆、まだ続けるつもりなのだ。


 しかし魔物はなかなか現れてくれなくなった。

 これでは目標を達成できない。


 そこで決を採ることになった。

 もっと森の奥へ入っていくべきか否か――。 


 結果、五対三の多数決で、奥へ進んでみることになった。

 ちなみにオレも『奥に進む』派だった。



 しばらく歩いていると、大きな白い川が流れていた。

 そこを横切り、森の奥へと進む。


 するとどうだろう。たちまち魔物が現れたではないか。

 だがペロタだった……。ちょっと残念だ。


 といっても今度のペロタは特大だ。いままでの三、四倍の大きさはある。

 しかもそれが三体も同時に現れてくれたのだ。


 脚力を活かし、体当たりしてきた。

 ひらりとかわす。どんなもんだい。


 だが相手はこれまでのペロタとは違い、空振りしても自滅するようなマヌケではなかった。きちんと足から着地している。


 草むらに隠れていたオレの仲間たちも出てきた。皆でペロタのジャンプ攻撃をかわしている。しかし防戦一方では倒せない。そろそろ攻撃方法を考えなくては。

 では素早い敵を相手に、どう攻撃を仕掛けるべきか?


 問題はあの脚力だ。接近すること自体が難しい。オオアリクイ“もどき”がやっていたように、無音で背後に忍び寄るしかないのか? いいや、とてもじゃないがオレたちには無理だ。


 そんなとき――。


 一体のペロタがマウンに狙いを定めていた。

 長い足に力を溜め込み、襲いかかろうとしている。


 マウンが大型ナイフを構える。

 その刃先を相手に向けている。



 ペロタが跳んだ。



 そしてペロタが死んだ。

 といってもマウンが何かをしたわけではない。

 彼は大型ナイフを構えたまま微動だにしなかった。


 ペロタが突進していった先に、ちょうど構えた大型ナイフがあっただけだ。

 つまり自ら刺さりにきてくれたのだ。


 やはりペロタは馬鹿だった。


 それを見ていた仲間たちも、武器を相手にまっすぐ向けた。そしてペロタが自ら突っ込んでくるのを、ひたすら待つのだった。

 だが武器のないオレは、逃げに徹するしかない。



「よっしゃ!」



 タフマルコの声だった。ペロタを鎌で刺し殺したのだ。

 残るペロタは一体のみ。


 最後のペロタは大きなジャンプで、カカワテというヤツに襲いかかっていった。

 カカワテは身をかわした……ように思えたが、かわしきれていなかった。


 まともに喰らったわけではないが、ペロタが腕を掠っていったらしい。


 そのペロタが着地したところは、ちょうどオレの足元近くだった。

 間髪いれずにトーキック。


 ペロタは飛ばされていった。

 大樹の幹に当たって弾んだところを、マウンが大型ナイフでうまく突き刺した。


 三体のペロタは全滅した。

 オレたちの倒した魔物は合計八体。これで店長たちの記録を抜いたことになる。


 心配なのはカカワテのケガだ。

 結構な出血をしている。


 彼に応急手当を施したのはオレだ。


 なぜなら応急手当の仕方を知る者が他にいなかったからだ。そのうえ誰も薬草さえ所持していないのだという。なんとも呆れたものだ。


 皆、オレに感心している。

 奇妙な気分だ。オレの故郷ならば誰だってこのくらいはできるのに。


 だいたい遠出の際には、薬草くらい持つものではないのか。

 棒やナイフを持つより大切なことだろ?

 オレにはちょっとしたカルチャーショックだった。



 さて、森の中から引き返すこととなった。


 目標には達していないが、ケガ人が出ては仕方ない。八体倒せただけでも、じゅうぶん自慢できるし、胸を張れる。それに森の奥での長居は危険だと思ったのだ。


 大きな白い川まで戻ってきた。

 川を渡りかけたそのとき、どこからかヒトの声が聞こえてきた。


「コラ! お前たち」


 憤怒の形相で睨む初老の女がいた。

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