第4話 キミの名はノーチェ


 二番手の魔剣士候補がソロラー・ラーゴ副局長から名を呼ばれた。大きく一歩前に出る。小さな聖山の天辺を見あげ、祈るように両手を合わせた。魔剣を呼び始める。むろん声には出していないが。


 するといくつかの光が現れ、それぞれ美しい剣の形を為していった。

 ラーゴ副局長は魔剣を数え、「十三本」と告げた。彼をさがらせる。


 ちなみに、一番手のタフマルコの呼びかけに応じた魔剣は九本。

 いまの彼に応えた魔剣は十三本。


 二人が羨ましかった。

 魔剣よ、ぜひオレのときにも応じてくれ。


 だが気になることもある。


 一番手のときにも二番手のときにも、同じ位置で同じ色に輝きながら、同じ形を為した魔剣が一つだけあったのだ。すなわち同一の魔剣が、両者の呼びかけに応じたことになる。だとすると三日後の本番で、一番手がその魔剣を選んだ場合、二番手の選択肢が一つ消えることになる……。


 つまり剣が重複しかぶった場合は早い者勝ち。それって誕生日の遅いオレには、とてつもなく不利ではないか。下手をすればオレに順番が回ってきたときには、もう剣が一本も残っていない可能性だってあるってことだ。



   ◇



 次の者に順番が回ってきた。三番手は背の低い女だった。

 彼女は前方に足を踏みだしていき、すがるように合掌した。

 光が剣の形を為す。彼女の顔に安堵の色が見られた。


 ラーゴ副局長は彼女に「十一本」と告げた。

 小さな彼女の大きな瞳が潤んだ。



   ◇



 そして四番手。


「ハコネロ、前へ」


 名を呼ばれて一歩前に出る者がいた。


 彼の顔を確認する。

 さっきオレの隣に立っていたヤツではないか。

 名をハコネロというらしい。


 ハコネロはプトレハース聖山を見据える前に、『青い宝石のペンダントの彼女』に熱い視線を送るのだった。こんなときに何やってんだ……。


 とにかく彼に気合が入ったようだ。

 勇ましそうに胸を張り、合掌した。


 光が現れ、剣の形を為す。


 ラーゴ副局長に告げられた本数は七だった。

 これまでの四人の中で、最低ということになる。


 一番手だったタフマルコがニヤリとする。

 応じてくれた剣の本数において、自分が最低ではなくなったからか。

 だとしたら大人げない。


 ハコネロはショックが隠しきれていなかった。

 ただ残念そうに視線を落としている。


 だが彼は誕生日が早いため、たとえ七本すべての魔剣が他者と重複しよかぶろうとも、決して取り損ねることはない。順番の遅いオレにとっては羨ましいかぎりだ。



   ◇



 やがて九人目に順番が回ってきた。

 太った男が魔剣を呼ぶ。


 聖山の随所に光が現れた。それらが剣を形づくる。

 オレたちの誰もが目を見張った。


 ラーゴ副局長の口にした本数はなんと六十九。

 彼は魔剣に愛されやすい男だということか。


 こんなときには普通、歓声くらいあがるものかもしれない。しかしいくら本番ではないとはいえ、やはり厳かな式の予行なのだ。声を発するような者はさすがにいなかった。皆、ただ彼に羨望の眼差しを送るのみだった。



   ◇



 九番手の彼と対照的だったのは、十七番手の者だ。

 呼びかけに応えた魔剣はたったの二本。

 もしかすると二本とも、これまでの誰かと被っているかもしれない。

 そう考えると、彼は本番で魔剣を取り損ねる可能性が高そうだ。


 情けなさそうな顔をする十七番手の魔剣士候補。

 だがこれは他人事ではない。オレのときはどうなんだろう……。

 順番が回ってくるのが怖くなった。



   ◇



 そして三十六人目。


「ノーチェ、前へ」


 前に出る者がいた。

 青い宝石のペンダントを吊りさげた彼女だった。

 名前をノーチェというらしい。その名をしっかり記憶させてもらった。


 不安そうに聖山の天辺を見あげている。

 さてさて、オレの運命の人の結果はどうなのだろう……なんて。


「二十二本だ。さがれ」


 結構な本数ではないか。

 三十六番目という順番を考慮しても、魔剣を取り損ねることはまずなかろう。

 魔剣士になれるのは、ほぼ決まったようなものだ。おめでとう、ノーチェ。


 彼女の視線はある人物に送られるのだった。

 その相手は大魔剣士の息子だという例の長髪野郎だ。

 ヤツも彼女に小さくうなずいた。


 くそ、イラッとする。



   ◇



「シューゼ、前へ」


 五十二番目の人物が呼ばれた。

 例の大魔剣士の息子だった。


 一歩前に出る。その一歩がなんとなく気取った感じだった。

 右手を胸に当て、聖山を見据える。


 聖山は夥しい数の小さな光に飾られた。

 それはもう眩しすぎるくらいだった。光はそれぞれ剣の形に化していった。


 いったい何本あるのだろう?

 これぞ大魔剣士の息子の実力か。


 ラーゴ副局長は魔剣を数えるのに、かなり時間がかかっている。

 やがて数え終えると、元の位置に戻った。


「三百四十四本だ。さがれ」


 なんてこった。その数値は異常だ!


 予行の始まる前、偉そうな老人が話してたっけ。今年は聖山に全部で三百四十八本もの魔剣が集まったとか。つまりそこから四本を除いたすべての魔剣が、ヤツを迎えようとしていることになる。


 ヤツはこれらの魔剣を選び放題なのだ。

 悔しいがノーチェに相応しい男とは、やはり彼のような者なのだろう……。



   ◇



 六十一番目となった。


「リグ、前へ」


 やっとオレの名が呼ばれた。

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