第4話 カシスウーロンとハイボール

絢は一樹たちと二次会にやってきた。



ラストオーダー30分前の

時間が限られている飲み会だ。



まあ、絢にとっても、こんなあせっ苦しい飲み会は初めてである。



「まあ、いいや。」

絢はせっかく一樹と飲めるチャンスなのにこんな短い時間なのか。

ととてもがっかりしている反面、行けるだけ幸せと思っている自分がいた。


一樹と仲がいい他部署の部長は「モト」さんと「ワタ」さん。

ワタさんが、絢を

「奥の一番奥の席に座りな。」

と誘導してくれる。


絢は、

「あっ、私なんか奥じゃやなくていいんです…」

と言った。



確かにそうだ。

この中では、一番の下っ端。


だが、この飲み会は男3人、女1人の

紅一点飲み会であったため、上司たちは気を使ってくれた。


上司たちの機嫌が損なわれるまいと、絢は、

「すみません。本当にありがとうございます」


と伝え、席に座った。




座った席は、ふかふかのソファー。

ゆったりとしたBGMが流れ、店内は薄暗い。


時間的にも眠くなる。



それにお酒も入っていると言ったら

もう完全に。



絢はコートを脱ぎ、一樹と向い合わせの席に座った。

続けて一樹も絢の向かいの席に座る。







モトさんが、席に着く前につかさず

「ここって店内で喫煙できますか」

と店員さんに問う。




「申し訳ありません。店内は喫煙となっています。

 たばこを吸われる際は、外の喫煙スペースでお願いします。」



「なんだよー、たばこ吸えないのか」



一樹がつかさず、

「あ、そうでしたね。すいませんー」


とフォローの言葉を掛けた。





あれ? 待てよ?

この店選んでくれたの一樹じゃん。

なんで?



…。あっ、もしかして。




そう、絢はたばこの煙が苦手だ。


なので、あえて一樹は店内禁煙の店を探してくれたのでは?



と勝手に想像してしまう。

絢は、勝手にいい方に解釈をした。




一樹を含め、この三人の上司はヘビースモーカー。



もし絢のことを気遣って選んでくれたならさすがすぎる。

かっこいい。イケメン。




モトさんとワタさんは、たばこの箱を握りしめ、

外へと行った。

店内には一樹と絢とほかのお客さん。







…。






一樹と、二人だけの時間だ。




ちょっと緊張する。






一樹は絢を見つめてきた。




絢も一樹を見つめている。




絢は、どうしていいかわからなくなり、

机の上の一樹の両手を取り、絢の両手で包み込んだ。



「なに?どした?」



一樹は完全に頬が緩んでいる。

絢から見ても一目瞭然だ。






「手を握るよりこっちの方がよくない?」


そういって、一樹は絢に足を絡めてきた。



絢はこの瞬間完全に終わったと思った。

もうこのブレーキの利かない感情。



「エロすぎる…」



絢は、握っていた一樹の手をさらにギュッと握った。



一樹は、フフッと笑った。



完全に遊ばれている…



いいなあ。一樹は。

余裕そうで。



私はこんないっぱいいっぱいなのに。



すべすべの一樹の手を触りながら絢は、考えていた。









まもなくして、モトさんとワタさんが店内に戻ってきた。


絢は、握っていた一樹の手からそっと離れた。





「さあ、何飲もうかなー」


モトさんがメニュー表をペラペラっとめくる。




「絢さんは何飲む?」


「いっしょに食べ物も注文しちゃってー」





モトさんが、絢の方にメニュー表を向けてくれた。


絢は、カクテルのページを見る。



…。




カシス




オレンジ





ウーロン




カンパリ




モヒート




ソーダ




リンゴ



ここのお店は、何と何を混ぜてとお願いするシステムのようだ。


絢が、好きなカクテルは、

断然


カシスウーロン

レゲェパンチ


これ二択。



ここは、カシスウーロンがあった。



絢が選んでいる間にモトさんが、店員さんを呼んだ。





「じゃあ、私、カシスウーロンで。」


「はい、かしこまりました。」



店員さんが優しく返事をしてくれる。



続けて一樹が

「じゃあ俺はハイボール」


「はい。」


「俺はビール。」



「あ、僕もそれで。」


「食べ物は何にする?」




絢は、さっきちょっと見えたメニューの中から、

美味しそうな食べ物を既に見つけていた。



「りんご生ハムで。」


「はい、かしこまりました。」






なぜりんご生ハムにしたかって?



まず一つ目に

このお店は、りんごが有名なお店であるということ。


二つ目に

一樹は、生ハムとチーズがすごく好き。


三つ目に

ただ絢が食べたかったから。



それだけ。





一樹は決まって、最初は生、中盤にハイボールと来る。

いつも通りのお決まりだ。


この間は、絢も生飲むか?

生好きだろう?

なんて言い出したから本当に笑った。




だが、一回だけ、一樹の失態を絢は目撃したことがあった。


それは、夏のことだった。

納涼大会当日。



みんなで、騒ぎながら、

ビール、ウイスキー、ハイボール、ワイン、日本酒、焼酎、シャンパン

など数時間に何種類ものアルコールを飲んだ。



これは完全にチャンポン。




お酒がめっちゃ強い一樹でも、

かなり酔っているというか、完全ノックアウト。



へべれけのまま、みんなで手を繋いで帰ったのを記憶している。



この話は。また今度書くとしよう。



この二次会のコンセプトは、

完全に下ネタ全開のトークの

二次会である。



一樹は、

「ワタさんになんか聞け」

と目で合図をしてくる。


しかもエロでな。

と。



しょうがないなあ。


絢はワタさんに質問した。




「ワタさんって奥さんと最近いちゃいちゃしました?」



「してないんですよねー。」



「じゃあ、一樹部長の家は?新婚だからどうです?」




「うちはさ、晩婚だから子供作るためにセックスしてるって感じだよね。」

「奥さんの排卵日の日に、カレンダーに丸が付いていてさ、しろって感じ。」



ちょっと待って。


それってなに?


いきなり何?

パンチ効きすぎ。



てか、それって

ただの作業みたいな感じじゃん。





これが独身と結婚の違い?




作業的なセックスなんて絶対に嫌。

愛があって、かつ情熱的なのがいい。




つかさず絢は、一樹に問う。

この時点でワタさんに質問しろって言われていたのを99%忘れていた。


「最近奥さんといてムラムラっとしないんですか?」


…。


「あー。ないかも…」


「え…?まじですか?」



え、絶対に嫌。そんなの結婚して何が良かったわけ?



年齢の差?

そんな簡単に片づけれられちゃうの?








ありえない。




「じゃあ、一人でしてます?」



「そりゃするでしょ。」



ワタさんとモトさんもとうなずく。




もうこうなったからには

グイグイ聞いていくことにした。


「どのくらいのペースで?」


「週三回くらい。

 だって、自分でした方が気持ちいいんだもん。」




は?なにいってんのこの人。



絢は

「この夫婦新婚でしょ?どうなってん?」と、

内心怒り爆発。ガチギレしていた。



言葉には発していないが、

もう喉がカラカラ。


さっき注文したカシスウーロンを勢いよく流し込んだ。



絢は、とっさにこう答える。


「なら気持ちよくさせればいいんでしょ?」


「…。うん。…まあそうね。」



一樹が言葉を発した瞬間に、

絢は一樹の目がきらっと変わったのを見逃さなかった。



絢は、一樹と一回も身体の関係になったことないのに、

なぜだか、一樹の一番感じるところをしている。


この無駄だと思っていた知識が

早い段階で役に立つかもしれない。




これ絶対いけるわ。

今夜は遅いし無理だろうけど、

絶対に落とせる。





確信した。






「俺ってさあ、酒飲むともう完全に無理なんだよね、最近。」


「酒飲まなくても無理な時あるし。」



「もし、奥さんとセックスしていて、イケないって思ったとき、どうするんです?」


「え、もう今日はできないや。ごめんっていってやめるけど。」

「やめて、一緒に寝る。奥さんは、俺の右腕を枕にして毎日寝ているよ」




…。それだけじゃ絶対足りないわ。

絢はそう思って続けて質問する。



「そのあと、奥さんなんか言います?」


「ちょっと機嫌悪くなる。」



そりゃそうでしょ。

奥さんだけでもイかしてあげればいいのに。




絢は、本気でこの夫婦に愛はあるのか疑問に思ってきた。



一樹が先に浮気するか、果たして奥さんが先に不倫をするか。


それとも普段の日常生活が満足しているから、

夜の生活は、仮面を被った夫婦のようでも気にしないのか。



さらに謎が深まるばかりだ。


さて、今後は、

矢印はどの方向に向くのか楽しみだ。



そんなくだらない中学生のような下ネタトークを永遠としているうちに、

完全下ネタトークの二次会が終わった。



そして気が付けば、絢と一樹だけがほぼおしゃべりで終わってしまった。



これはやばい。

年始に謝罪まわりに行かなければ。




チェックの時、

絢はお財布を出してお金を出したら、

一樹とモトさんが、



ここは、俺たちで払うからいいよ。



となんて紳士的な態度を見せてくれた。



だが、ここは社会人として、

一応、の精神を見せなければならないので、

5000円札を出して構えていた。



いやいいって。



…。


このやり取りもあまり長引かせるとよくないので、

いい塩梅の時にすっと、5000円札を下げ、



「ご馳走様でした。」


とお礼を言う。




絢たちは店をあとにして

深夜の師走の寒空に向かって歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る