#76 : Blue Moon

 十数年ぶりに再会した従姉妹のみこねえには、婚約者がいました。

 なんと、びっくりすることに。

 外国人で、女性でしたけど。


 *


「やっぱ東京って進んどるなあ……」


 東京は、毎日お祭りでもやってるのかと思うほどに盛況でした。故郷の松山は50万人が暮らすそこそこ大きな地方都市ですが、ウチの居候を快く受け入れてくれたみこ姉たちの暮らす世田谷区は、松山の7分の1の面積に、2倍近い人がひしめき合っています。

 要は世田谷は、故郷の14倍くらい人を見かける街なのです。

 おつかいを頼まれたスーパーに行くまでの道にも、ちょっと寄り道した駅前の商業ビルにも、就活対策の本を買いに行ったTSUTAYAにも、どこもかしこも人、人、人。

 外出自粛は? ソーシャルなんとかは? と首を傾げてしまいそうになりますが、きっとこれは14倍、人を見かけるせい。

 憧れの都会は、こんな田舎者を受け入れてくれるのかと不安になります。

 けど、みこ姉がたまに連れてくる友達の皆さんは、ちょっと……いえだいぶ変わってるけどみんな素敵で優しい人たちです。

 だからウチもはやく、東京暮らしに慣れたい。東京で友達を作りたい。思う存分東京を満喫して、14倍の一員になりたい。

 まあ、そのためには仕事が必要なのですが。


「ただいまー」

「ご苦労さまです、葵生ちゃん。冷凍庫のアイス食べていいですよ」

「わーい」


 居候を始めたウチの一番の疑問は、この人。みこ姉の友達――というか婚約者のシャンディさん。

 どこからどう見ても外国人なのに、びっくりするほど日本語が上手い金髪の綺麗な女性。みこ姉とふたり並んで街なんて歩いたら、通行人もお店の人も、野良猫も鳥もアスファルトに咲く花さえも片っ端から振り向くほどのお似合いのカップル。

 いやその、カップルということなんですけど。


「あれ、みこ姉は?」

「以前の職場の同僚さんと打ち合わせだそうです」

「こと姉のマネージャーさん?」

「別の方じゃないかしら。凛子さんならそう言うと思いますもの」


 ご褒美のハーゲンダッツを味わうウチへいつものように微笑みかけてから、シャンディさんは文庫本に視線を落としました。

 いつも笑顔な理由は、みこ姉との同棲生活が毎日幸せだからなのでしょうか。

 だったらやっぱりふたりはカップル。

 ということは、ウチはルームシェアだと思っていたふたりの家に上がり込んだおじゃま虫ということになるのでは?

 うーん、おじゃま虫はよくない。

 だけど、出ていってもお金がないから住む場所はない。

 松山には帰りたくないし、お母さんから「帰ってきちゃダメ」と言われてしまった。


「どうしよう……」

「ええ。ハーゲンダッツに慣れると、他のバニラを愉しめなくなりますものね?」

「あ、ううん。違うんよ。アイスやなくて、ウチここ居ていいんかなあって」

「あらあら」


 文庫本から視線を上げたシャンディさんは笑っていました。


「どうしてそう思ったのかしら?」


 そして見つめられて、質問されます。シャンディさんはいつも、目を見て話す人です。みこ姉と3人で晩ご飯を食べているときも、ソファでテレビを見ているときも、ずっとシャンディさんはみこ姉を見ています。もちろんみこ姉もシャンディさんを見つめています。主役のはずのご飯やテレビが脇役に甘んじていて可哀想になるほど。端から見れば、カップルみたいにアツアツです。

 そう、、なのです。


「なんとなく?」

「訊きたい事があるって顔に書いてありますよ?」


 実のところどうなのか、訊いてみたいのが人の世の常。だけど、訊くのは失礼かもだし、訊いて答えが分かったところで話を広げる自信はありません。ウチは自分が経験したことしか分からないのです。通信簿には12年連続で「想像力がない」と書かれていましたので、それはもう筋金入りの想像力ゼロ人間です。

 そんな想像力ゼロ人間が、分かるためにはどうするか。答えはひとつ。


 分からなければ、人に訊く!


 確実です。分からないときはとにかく人に訊けばいいのです。想像力ゼロ人間なんて不名誉なあだ名がついたウチ、黒須葵生のもうひとつの名が、質問魔。分からないならとにかく訊いて訊いて訊き倒せと一族郎党口酸っぱく言われて育ちました。それから中学校の先生も言っていました、「分からないことを分からないままにしておくな」と。

 先生の言葉はしっかりと覚えています。ありがとうございます、なんとか先生。


 そこへきて、一番の分からないこと。それが、みこ姉とシャンディさんの関係。

 みこ姉はともかく、シャンディさんは謎だらけです。

 年齢とか名前とか――シャンディは本名じゃないらしい――、どこの国の人なのかとか、思いつく限りみこ姉に尋ねてみても返ってくるのは曖昧な言葉。ごまかしてる風でもないし、ごまかす必要もないはずなので、きっとみこ姉は本当にシャンディさんの個人情報を知りません。

 ということはやっぱり、カップルじゃないのかもしれない?

 だって恋人や婚約者なら、年齢とか名前とか知ってて当然でしょう。誕生日を知らないとプレゼントも贈れないし、年齢を知らないとケーキにロウソクを立てられません。大問題です。いいかげんな数のロウソクを立てると怒られるのです。ウチでおばさん――みこ姉とこと姉のお母さん――の誕生日を祝ってあげたときの悲しそうな顔は今でも忘れません、気をつけないと。

 だからいろいろ質問したい。

 質問はしたいのですが。


「ふふ。あたしに見とれちゃいました?」


 シャンディさんの笑顔は、優しいようでいて怖いのです。

 うんうん唸って、ウチは結局日和りました。お母さん、ダメな娘でごめんなさい。


「あ! 何読んでたんか気になって! シャンディさんはやっぱり難しそうな本読むん?」

「倍返しだ!」

「ぴぇっ!?」


 ほらやっぱり怖い!


「小説ですよ。ただ、読んでいるのは作者は同じでも、町工場でロケット作る話ですけれど」


 表紙には、月に向かって飛んでいくロケットのイラストが描かれていました。ドラマのセリフの「倍返しだ!」が迫真の演技で驚いてしまいましたけど、シャンディさんも普通の本を読むみたいです。それとドラマも。

 どうやら今の倍返しは、冗談だったみたいです。むう、遊ばれてる。


「日本語読めるん?」

「ええ。他にも4ヶ国語」

「すごい! 住んでたことあるん?」

「ええ、月に」

「月って、夜空に浮かんどる月……?」

「そうですよー。出身は月の王国シルバー・ミレニアムです」

「ど、どうやって地球に来たん……?」

「UFOで。オートバックスに売っちゃいましたけど」

「都会のオートバックスってUFO買い取ってくれるん!?」

「型落ちだったので安かったんですよねー」


 シャンディさんは謎まみれです。

 五カ国語喋れて――何リンガルって言うんだろう――月からやって来た宇宙人。一瞬信じかけましたけど、さすがに月はウソです。それくらいウチでも分かります。


「じゃあ血液型は!?」

「あたし、けっこう真面目で几帳面なんですよね」

「分かった、A型!」

「自分を曲げないワガママなトコもあったりしてー」

「ほやったらB型……?」

「でも手を抜くトコは手を抜きがちです。あとマイペース」

「O型……?」

「そう言えば以前、美琴があたしをミステリアスだって」

「え、AB……?」

「答えは分かりました?」

「しゃ……シャンディさんって何者なん?」

「とってもかわいいバーテンダーです」

「たしかにかわいい……」

「見る目ありますね。アイスもう1個食べていいですよ」

「わーい! ……ハッ!?」


 ウチではシャンディさんの分析なんて無理でした。アイスに釣られるようではまず辿り着けません。

 もちろん、ウチも頑張って聞きだそうとはしているのです。

 だけど、こと姉にLINEしても既読スルーだし、名刺に書いてあったマネージャーさんに電話しても「あの女は無理!」の一言。前やってきたにこにこ笑ってる人からは「みこシャ尊い!」って熱弁されただけでした。みこ姉の周りは普通じゃない人たちだから、仕方がないのかもしれません。


「もう質問遊戯ゲームはお終いかしら?」


 シャンディさんは楽しそうに笑っていますが、謎は深まる一方です。

 もしもふたりがカップルなのだとしたら、いったいみこ姉はどうやってシャンディさんと付き合ったのでしょう。というかシャンディさんはみこ姉のどこを好きになったんでしょう。

 やっぱり顔? それとも優しいところ? すらっとした身体?

 でも直接尋ねたところで絶対に交わされる気がします。


「あー……やっぱ訊けん……」

「思ったことが口に出てますよ」


 やってしまいました。こうなればもう破れかぶれです。昔の人も言いました、「旅の恥はかき捨て」。ここは直接疑問をぶつけるっきゃありません。


「みこ姉とシャンディさんは、カップルなん……?」


 シャンディさんは動揺する素振りもみせず、いつものかわいい笑顔のまま言いました。


「そうですよ」


 ソウデスヨ? え?

 自分のことは訊かれてもはぐらかすのに、そこはいいんだ……?


「え……?」

「それで、葵生ちゃんはどう思いました?」


 今度はシャンディさんからの逆質問です。

 みこ姉とシャンディさんがカップル。それをどう思うか訊かれています。どう思うかなんて言われても、ウチの頭に浮かぶのはふたりが並んで街中を歩いているイメージだけ。


「ふたりとも綺麗やからお似合いやなあって」

「今日の晩ご飯はお寿司にしましょう」

「わーい! ……やなくて! なんで!? なんでその……」

「女同士で?」

「そうやけど……」


 結局、質問を先読みされてしまいました。シャンディさんはウチより数段賢いです。この間、IQが20以上離れていると会話が成立しないなんて話をどこかで訊いたことがあります。遊びで測ったウチのIQが110ちょいだったので、シャンディさんはそれ以上なのかもしれません。

 シャンディさんは開きっぱなしだった文庫本を閉じて、黙ってウチの目を見つめてきました。すごい眼力です。こんな美人に見つめられたら、ウチでさえドキリとしてしまいます。


「たしかにあたしと美琴は、普通ではないですね」

「そうなんよ。普通やないから、なんでなんやろって思って」

「だけどあたしにはこれが普通です。もちろん、葵生ちゃんが思っているような恋愛も普通ですよ」


 ガーンと、故郷・松山の近所にあった石手寺の鐘が鳴ったような衝撃です。普通の定義が揺らぎます。

 ウチの考える普通と言えば、恋愛していずれは結婚して、働くなり専業主婦なりで子育てをしながら生きていくような感じです。もちろんウチにはそんな男性過去を遡ってもいませんし、恋人になってくれそうな仕事もありません。子どもは産みたいですけれど、なぜ産みたいと思うのかも分からない。これが本能というヤツなのでしょうか。それとも、それが普通だから?


「普通ってなんなん?」

「そうですねえ。今の世の中だと……人それぞれに目盛りが違う、ものさしでしょうか」

「ほへー」


 IQが違いすぎて何を言っているのか分かりません。

 だってものさしの目盛りが人それぞれに違ったら、まるで何も測れないのですから。


「たとえばあたしはお酒が大好き。中でも《シャンディ・ガフ》はいくらでも飲めます」

「ウチはお酒、たまにしか飲まんよ。それに1杯飲んだら眠くなるし」

「では葵生ちゃんには何か、好きなものがありますか?」

「うーん……。強いて言えば……苔」

「苔?」

「ウチ、道ばたの苔見るの好きなんよ。頑張ってるなあと思って」

「ふふ、素敵な趣味ですね。あたしはまるで興味ありませんけど」

「え!? 苔かわいいんよ!?」

「それですよ、ものさしって」


 苔がものさし? ウチの苔には目盛りがついているのでしょうか。


「みんな好きなものが違うし、好きの度合いも違います。そして、どれだけ好きか比べることもできません。恋愛における普通も同じこと。人それぞれに好きを向ける相手も方法も違うんです。ものさしは最低、ひとりにひとつ」

「でも、普通に恋愛しとる人いっぱい居るよ?」

「それは葵生ちゃんから見た普通。本人たちにはまた別の普通があるんです」


 難しい話です。賢いシャンディさんが何を伝えたいのかはよく分かりません。それになんとなく、今のウチでは分かったと思ったところで何も分かってないような気もします。

 分からなかったら、人に訊く。それを実践しようと思っても、何をどう質問すればいいのかも分かりません。


「分からん……」

「分からなくてもいいんですよ。生きているうちに、ものさしは増えていきますから」

「よう分からんけど、なんか深い……」


 まるで分かりませんでした。だけど、今はまだ分からないだけかもしれません。

 これから生活していけば、ものさしは増えていくそうです。いろんなものさしが集まれば、どうなるのでしょう。三角定規を使って75度とか120度みたいな、微妙で曖昧な角度を測れるようになるのでしょうか。未だによく分からない、1メートルと1フィートと1尺の違いを事細かに説明できるようになるのでしょうか。

 だとしたら、少しだけ希望が持てる気がします。

 普通で平凡、取り柄もろくにないウチでも、多くのものさしがあれば東京に馴染めるのかもしれません。


「シャンディさん、いくつなん?」

「17歳JKでーす。マジまんじー」

「それは絶対ウソやけん」


 やっぱりシャンディさんは普通じゃありません。何考えてるかまるで分からないのです。

 ウチにはいつまで経っても、シャンディさんを測るものさしは手に入れられないでしょう。


 だけど、もしかしたら。

 みこ姉はシャンディさんを測るものさしを持っているのかもしれません。シャンディさんの言うように、生きているうちにきっと手に入れたものなのです。もちろんシャンディさんも、ウチなんかよりもちゃんと測れる、みこ姉用のものさしを持っているのでしょう。

 それって――


「なんだかええね、お互いのものさしを持ち合えるなんて」

「あらあら。葵生ちゃんもやっぱり黒須家の女なんですね」

「どういうこと?」

「不意に爆弾を投げてくるところです」


 シャンディさんはほんのり紅くなって笑っていました。

 その顔色は、反応は。ウチが想像する普通の恋愛――男の子に恋をしたときの女の子――と何も変わりませんでした。男の子が好きだからとか女の子が好きだからなんて区別したところで、恋する気持ちに差はないのでしょう。

 だったら、好きならそれでいいのかもしれません。

 昔の人も言いました、「人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られて死んじまえ」と。一度、乗馬体験をしましたが、あの超スピードでパカパカ走る筋肉モリモリの後ろ足に蹴られたら、スマブラばりに吹き飛んでしまうんじゃないでしょうか。馬には蹴られたくないものです。あ、あと就活の面接も蹴られたくない。


「あ、ウチ馬に蹴られる……」


 そうだった! ふたりがカップルってことは、ウチはおじゃま虫なんだったー!


「葵生ちゃんは面白いですね。何を考えているのか手に取るように分かるところとか」

「え?」

「あたしたちの同棲を邪魔している、って思っているんじゃないかしら?」

「シャンディさんエスパーなん!?」

「ええ、どうぞお構いなく。うちを出るのは、自立して余裕ができてからでいいですから」

「エスパーで天使なん!?」

「それとバーテンダーで、仮面のお姫様です。王子様のキスで呪いも解けましたけれど」

「もしかして、ホントにどっかの王国のお姫様……?」

「ですから月の王国、シルバー・ミレニアムだと」

「どこなんそれ……?」

「ごめんね素直じゃなくて。まあ、あたしも直撃世代ではないですけど」

「うん……?」


 幻の月の王国、シルバー・ミレニアム。いったいどんな場所なんでしょう。分からないことだらけで思考回路はショート寸前です。

 はじめてじっくり話して質問もしたけれど、シャンディさんの謎は余計に膨らむばかりでした。ウチにはもうお手上げです。普通だけど普通じゃない、エスパーで天使でバーテンダー。どこかの王国のお姫様で、ついでに王子様に呪いを解いてもらっているだなんて、うちのものさしでは測りきれません。


「なんだか女優さんみたいやなあ。いろんな顔があって、シャンディさんのことぜんぜん分からん……」

「主演女優賞獲れます?」

「うん、ウチがあげる! それと、今後ともみこ姉をよろしくお願いします」

「ふふ、お願いされます」


 ずっと緊張していたけど、やっと笑えた気がしました。

 シャンディさんは謎多き美人で、ちょっと怖いところもありますが、やさしい人だと思います。この人になら、みこ姉を託しても安心です。従姉妹としてポンっと太鼓判を押したい気分です。迷惑かけちゃダメだよ、みこ姉。


「女優と言えば、琴音さんはあの後大丈夫だったのかしら? 葵生ちゃんは何か聞いています?」

「ええと……マネージャーさんが真っ青な顔になってたやつ?」


 昨日のことです。就活失敗のふて寝から目を覚ましたら、リビングにこと姉とマネージャーさん、それと、この世の終わりが来ても笑ってそうな明るい女の人が勢揃いしていました。何やら質問しあってお酒を飲む、シャンディさんの言う遊戯だということ以外はよく分かりません。

 そう言えば、こと姉はマネージャーさんのことが好きだとかどうだとか言っていたような。

 うーん、やっぱりものさしが足りない。


「それがね、こと姉にLINEしても既読スルーされるんよ。ひどない?」

「面倒臭がってるんでしょうね」

「『マネージャーさん大丈夫?』って送ってるだけなんよ? スタンプ1個でもよーない?」

「ああいえ、LINEの返事が面倒臭いのではなく」

「ほえ?」


 何か勘違いしてしまったのでしょうか。こと姉は面倒臭がりですからLINEの返事をしたがらないのは想像がつきますが、別に理由があるということなのかもしれません。考えてみようと思いましたが、「お気になさらず」と言われたので考えるのを辞めました。シャンディさんが言うなら気にしません。


「琴音さんに負けず劣らず、凛子さんも繊細な方ですからね」

「ふむ……」


 とりあえず意味深に唸ってみましたが、当然何も分かりません。普通のウチには辿り着けない真実ばかりです。


「あ、ひふみさんからLINEや」

「琴音さんの隣人の犀川さん?」

「そうなんよ。テレビ局見学行ったとき、交換してもらってー」


 実はこと姉と再開してテレビ局見学へ行ったあの日、ウチは密かに犀川ひふみさんとLINEを交換していました。表向きはお借りしたお金をいつでも返せるようにと教えてもらうことにしたのですが、実際は芸能人と連絡してみたかっただけです。こと姉は既読スルーばかりするので芸能人には入りません。それに身内だし。

 そんなひふみさんから届いたメッセージを開いて、ウチは声を上げてしまいました。


「ま、マネージャーさん辞めたん!?」

「あら」


 シャンディさんと一緒に確認したメッセージは、こんな感じでした。


 ――琴音と大げんかして、凛子さんが家を出てった。マネージャーも辞めるって。


「ど、どうしよう……!?」


 ウチはもうパニックです。


「芸能人からのLINEって何返せばいいんかな……!?」

「そうですねえ……」


 シャンディさんは静かに唸ると、突如立ち上がって言いました。


「あたし、ちょっと出掛けてきますね。お留守番を頼めるかしら?」

「こと姉のトコ行くん!? だったらウチも!」

「いーえ、琴音さんは放置です。あの人がそうしたいでしょうから」

「え、え? ちょっと……メイクは!?」


 着の身着のまま、メイクもなしでバッグだけ持って。

 出掛ける準備をあり得ない速さで整えると、シャンディさんは玄関先で微笑んでいました。


「大丈夫ですよ。あたしかわいいので」

「たしかにかわいい……」

「お土産にグランスタのワッフルサンド買ってきますね」

「わーい。って、グランスタってどこ……?」


 分からないことは人に訊く。改め、グーグル先生に訊く。

 ちょちょいと検索してみると、グランスタの正体が分かりました。


「東京駅地下街……? なんでだろ……」


 謎は深まる一方です。

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