分水嶺④【完結】

 片方の水流に体を委ねると、分水嶺のイメージも、自分が比喩的世界で両足を水に浸していたことも、いつもすぐに忘れてしまう。


 しかししばらくすると、しばらくというのは明日のことだったり一か月後のことだったりするのだが、僕はまた分水嶺の上に立つことになる。

 僕はあたりを見回す。どうやらまた義と不義の分水嶺のようだ。友人の彼女に関することに限らず、僕の周りには義も不義も掃いて捨てるほど転がっている。


 今回は困ったことに、どちらが義でどちらが不義か測りかねた。右と左、どちらも同じくらいの傾斜を持ち、悪意を感じるほどつるつるしている。義か不義かは、右か左か、という区別と対して変わらない気がしてきた。

 僕の右は、あなたから見たら左。


 ばかばかしい。僕は半ばやけくそになって、とにかく僕から見て右に体を倒した。分水嶺から離れる。一瞬の葛藤。終わり。


 広い海に出られる気配は今のところない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

分水嶺 みねね @minenenewriting

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ