第4話 密告者

しかし、そんなことを告白されても私にはどうしようもなかった。


勿論バスにはトイレは無かったし、ハイウェイに乗ったばかりで

次のトイレ休憩はまだまだ先だったからだ。


「やばい?先生に言おうか?」

結構、焦って尋ねた。


「いや、言わんといて。」

蚊の消え入るような声で、彼は弱々しく訴えた。


そうなのだ。

小学生にとって『うんこ』という行為は、

イスラム教徒が豚肉を食するに等しいタブーだったのだ。



しかし、彼の様子を見ていると、

そんな事を言っている場合では、なさそうなのがわかった。


「このままでは『ウンコマン』が『おもらしマン』にレベルアップして

いくだけだ!」


そう考えた私は、彼の抑止を振り切り、先生に

「安川君がうんこしたいって言ってます。」と伝えた。


わざわざ先生に接近して、小声で伝えたのは、

私なりの彼の名誉への気遣いであった。



だが、当の安川君には私の行動は、

古代ローマ皇帝カエサルシーザーの名言

「ブルータス・・・お前もか!?」とばかりに、

裏切りの行動に思えたに違いない。




つづく


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