51.オリジナル武器を作るには
「聞いたぞ、エイト。何やら面白いものを作っているそうじゃないか」
「面白いものですか……ああ、オリジナルボウガンかな」
ボウガンの試射から数日後、俺の工房を今度はフォレスト先輩が訪ねてきた。
「何でも瞬間火力を追求したボウガンらしいじゃないか。そんな武器をいつ作ったんだね」
「いつと言われても……テストが終わったくらいから材料を集め始めて、形にし始めたのが最近ですかね」
「最近という割には、試射まで行っていたようだが?」
「オリジナル武器ですからね。理論すらできていないものを作る以上、ある程度形にできたら試してみますよ」
実際問題、レイと試射に行ったときはボウガンとして組み上がったばかりだった。
あのときは、とりあえず目標に向けて形作っただけだったので、いろいろと調整が必要だったのだが。
「しかし、そんな簡単にオリジナル武器というのは作れるものなのかね。言葉だけ聞くと大変そうだが」
「そうでもないですよ。鍛冶スキルが45くらいあれば、オリジナル装備の開発は可能です。可能というだけで、既存品の上位品を作れるとは限らないんですが」
「そういうものなのかね」
「そういうものなんですよ。だから、オリジナル装備と言えば、もっぱらデザイン重視の装備品のことを指しますね。デザインだけだったら、そこまで苦労しませんから」
デザインだけをよくするのはそこまで難しくはない。
やすい素材を使っても問題がないわけだし、バランスだって考える必要はあまりないのだから。
ただ、性能はやはりお察しなのだけどね。
「ほほう。それなら、私も頼んでみようか。おしゃれ着というのも気になっていたのだ」
「布装備のオリジナル装備でしたら、エミルにお願いします。あいつはデザイン面も優秀なので」
「ふむ、考えておこう。だが、防御力などは既存品に劣るのだろう?」
「コストを考えなければ防御面も見劣りしないものを作ってくれますよ、エミルなら。ただ、素材にドラゴンだのワイバーンだのを使うので素材費だけでもかなり高くなりますけど」
「なるほど、了解した。このゲームにも重ね着設定ができればいいのだがなぁ」
「そのうちできるようになるんじゃないですか? 紅玉幻竜にせよ翠玉幻竜にせよ、きれいでかっこいいですが派手で苦手ってプレイヤーも多いですし」
「うむ、確かにな」
紅玉幻竜装備や翠玉幻竜装備はその性質上、必ず高品質装備である。
それゆえ、エフェクトのキラキラが激しく、元の装備自体が派手目なのもあって今では街中が非常にキラキラしている。
運営側としては、エフェクトのON・OFF機能をもうすぐ実装予定と発表しているので、それが実装されればある程度緩和されるだろう。
「それでだ、私としてはオリジナル武器もほしいのだが、何か作ってはもらえないかね?」
「そう言われましてもね……何かアイディアがあって、それを作るための素材があれば喜んで作りますよ?」
ぶっちゃけ、オリジナル装備の作成ってやつは非常に楽しいのだ。
どんな装備を作る場合でも、ある程度の基本は体が覚えている……というか、自動で作ることができる。
そこから先、どのようなカスタマイズをほどこしていくかが大事なのだ。
「アイディアか、もちろんあるぞ。エイトが今作っているような、一撃必殺を目的とした弓が私もほしい!」
フォレスト先輩の出してきたアイディアに、俺はしらけた顔を向けてしまう。
……一撃必殺、その響きはかっこいいし気持ちはわかるんだけどねぇ。
「フォレスト先輩、弓とボウガンの立ち回りの違いってわかります?」
「ふむ? そういえば、あまり深く考えたことがなかったな。昔はボウガンも使っていたがしっくりこなくて弓一本に乗り換えたのだが」
なるほど、フォレスト先輩は感覚派か。
それなら仕方がないな。
少し解説しておこう。
「ええとですね、ボウガンと弓の立ち回りですが、最大の差はTP消費の差にあります」
「ああ、それは知っている。ボウガンはリロード時にまとめて、弓は一矢ごとに消費だったな」
「はい。その性質上、取り回しも変わってくるんです」
「そうなのか? ボウガンを使っていた頃は、弓と同じように使っていたが」
初心者向けのボウガンならそうだろう。
弓とボウガンで、TPの総消費量はそんなに変わらないのだから。
だが、レベル50まで到達したプレイヤーが扱うような装備だと変わってくる。
「ちなみに、フォレスト先輩。今装備している弓で、攻撃一回あたりのTP消費はいくらですか?」
「一回か? 二百だな。というか、弓のTP消費なんて二百か二百五十だろう」
「そうですね、標準的な弓ならその範囲です。破竜弓とかいう巨大弓だと変わってきますけど、一般的な弓だとそんなものです」
「破竜弓か、面白そうだな」
「今度作ってあげますから破竜弓の話は今は置いておいてください。では、ボウガンでリロードするときのTPはどれくらいだと思います?」
「ボウガンのマガジンは五発ほどのはずだから、千から千二百くらいじゃないのか」
うん、まあ、そう答えるだろうね。
でも、実際は違うんだよな。
「レベル50クラスのボウガンだと使うマガジンで差があります。通常弾のマガジンだと一リロード時二千ほど、強化弾のマガジンだと四発で四千ほどですね」
「そんなにTPを使うのか!?」
「そんなに使うんですよ。なので、高位のボウガン使いはTP回復薬を携帯するのが必須ですね」
もちろん、それに頼っているようじゃ二流どころか三流らしいんだけど。
「ボウガンは一発あたりのTP消費が高い分、弓に比べて一撃の威力が高くなっています。一回引き金を引くと複数の矢が飛んでいくというのもありますが」
「なるほど。だが、そうなると、スキルを使う場合はどうなるのだ? ただでさえ高いTP消費が上乗せされるのだろう?」
「そうですね。だから、ボウガン使いはスキルの使用を極力控えるらしいです。通常攻撃でダメージを与えながらクリティカルポイントを探って、クリティカルポイントに高火力のスキルを一撃でたたき込む。そういうスキル回しが主流、らしいですよ。又聞きですけど」
なお、情報源は若様。
他にも、TP消費の少ない連射弾を使いつつ消費の少ないスキルを使ってダメージを稼ぐやり方があるらしいけど、そっちまで説明する必要はないだろう。
俺も完全に理解できているわけではないし。
「なるほどな。小回りのきく弓と一撃必殺のボウガンか。あまり意識をしていなかったが、そんな違いがあったとはな」
「そうですね。細かいところを見ていくと、近接武器もいろいろ差があるそうですが……それは置いておきましょうか。俺も詳しく知らないですし」
「だな。しかし、そうなると、一撃必殺の弓は難しいか……」
「……諦めてなかったんですね」
「ロマン武器というのは、皆憧れるだろう?」
その気持ちはわからないでもないので、答えは保留にさせてもらった。
一撃必殺な威力を持った弓、と言うのが割と矛盾しているので作成できる気がしないのだが。
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