52.オリジナル防具ってないの?
「エイト君、ボウガン作ってるんだってー?」
「今日はブルー先輩ですか。ええ、もう少しで次のテストですね」
フォレスト先輩がやってきてからさらに一週間ほど、今度はブルー先輩がやってきた。
ブルー先輩がやってくるとは、思ってもみなかったな。
「フォレスト先輩もレイちゃんも、どんな武器を作ってもらおうかって頭を悩ませてるよー? いくら考えてもありきたりな武器になっちゃうってー」
「でしょうね。バランスがいいからこそ、普通に使える武器なんですよ。そうじゃないなら、もっとオリジナル装備が出回っているはずなんですから」
身も蓋もないことを言ってしまえば、オリジナル装備が出回っていない最大の理由は、作る必要がないからだ。
わざわざ性能が不安定なオリジナル装備にしなくても、既存レシピの装備で十分に攻撃力も防御力も足りる。
見た目が変えたければ、そこから改造することで多少は変えることも可能なわけだし。
「でも、エイト君はそれだと足りないからオリジナル装備を作っているんだよねー?」
「ですね。一度はオリジナル装備を作ってみたかったというのもありますが」
「そうなんだね。それで、目標のものは完成しそうー?」
「大丈夫ですよ。おおよそ目標に近いものはできています。後はテストしてみて微調整ですかね」
「そうなんだー。それなら、これからテストに行く? 私、タンクだから壁ならできるよー?」
ブルー先輩がタンクをしてくれるなら、多少強い相手でもテストできるな。
ただ、問題がひとつあって……。
「残念ながら、まだ部品が完成してないんですよね。あと数日程度かかる見通しです」
「あれ、そうなんだー。もしかして、お邪魔だったかなー?」
「大丈夫ですよ。休憩中だったので」
今作っているパーツまで完成させることができれば、初期型としては問題ないだろう。
この先、改良を重ねていけばいいわけだし。
「そうなんだねー。ところで、オリジナル防具って、やっぱり強いのは難しいの?」
やっぱりこの話題は出るか。
「難しいというか、コストの問題ですかね。強い防具を作るには、それなり以上の素材を使う必要があって、そうなると素材費用だけでも馬鹿にならない額がかかるっていう」
「そっかー。それに、作業費とかデザイン代とかがかかるんだよねー?」
「そうなりますね。オリジナル装備は細かい見た目も作り込めますから。特に防具だと大事でしょうね」
「だよね。私も強くても見た目がよくない防具はいやだなー」
ブルー先輩にも年相応のお悩みはあるわけだ。
「そうなると、幻竜装備はお眼鏡にかなう装備ってことでしょうか」
「うーん、これはこれで派手だとは思うけど……悪くはない感じかなー」
つまり及第点ってところと言うことか。
……幻竜装備、派手だからなー。
「ちなみに、どういう防具がお好みなんですか? 俺もあまりデザインは得意じゃないんですけど」
「え、うーん……あまりガシャガシャした全身鎧みたいなのは得意じゃないかなー?」
「それって、基本的な全身鎧、すべてにダメ出ししてますよ?」
全身鎧って、その名の通り全身が金属鎧に覆われたものだ。
見た目からして金属の塊なのが全身鎧である。
それを全否定というのは……な。
「うーん、そうなんだよねー。だから、紅妖精装備が手に入るまではずっと我慢してたんだよー。紅妖精の後は、我慢しなくてもよくなったけど」
「確かにそうですね。となると、次の青妖精とかも倒しに行くんですね」
「もちろんだよー。ギルドの皆とは倒しに行くってことで話がまとまってるよー。いつ行くのかまではまだ決まってないけどー」
「そうなんですね。てっきり、実装当日に行くのだとばかり思ってましたが」
「ブレン君が行けるか微妙なんだよねぇ……最近、勉強漬けで疲れているみたいだから。なので、実装した週の週末に行こうか、って話になってるよー」
週末ね、覚えておこう。
多分、レイにもあとで誘われるだろうし。
「了解です。覚えておきます」
「うん、そうしてー。エイト君も生産のほう、忙しそうだし無理そうなら断ってくれてもいいからねー?」
「一日くらいなら大丈夫ですよ……多分。それより、オリジナル防具の話に戻りましょうか」
「あ、そうだったねー。デザインはあまりゴツゴツしてないのなら大丈夫だよー」
ゴツゴツしていないデザインか……。
全身鎧でそれは、結構難しい注文なんだけどね。
「ほかにはー……あまり派手目じゃないほうがうれしいけど、それくらいかなー?」
「ふむ、わかりました。とはいっても、オリジナル防具を作る機会があるかどうかはわかりませんが」
「だよねー。ちなみに、オリジナル防具を作るとしたら、どんな素材で作るのー?」
「うーん、普通だと鉱石メインの構成が全身鎧の基本なんですが、ゴツゴツするのがいやってなると、素材そのものを見直して……竜骨や竜皮メインですかねぇ、レベル50クラスの全身鎧ってなると」
「お値段どれくらいになるのかなー?」
「うーん、安く見積もっても百数十万? 多分、二百万は超えますね」
「……だよねー」
「念のため言っておきますけど、本来なら紅玉幻竜や翠玉幻竜の全身鎧も百万超えてますからね?」
「うん、知ってるよー。ありがとうね、エイト君」
竜の骨や皮で作る全身鎧か。
それはそれで面白そうだけど、判定がハードレザーアーマーにならないかが疑問だな。
……うん、待てよ。
それなら、あれで作るっていうのも……。
「エイト君、どうかしたー?」
「ああ、いえ。ちょっと考え事を。そういえば、先輩たちは色竜って倒せます?」
「色竜ってカラードラゴンのことだよねー? 赤竜とか青竜とか」
「ええ、そいつらです。倒したこととかあります?」
「何回かあるよー。ドロップ素材もいくつか持ってるけど、品質が悪いからエイト君は使わないと思う」
ふむ、色竜を倒すことはできるのか。
なら、大丈夫そうだな。
「今度、色竜の討伐を手伝ってもらうことがあるかもしれません。そのときはよろしくお願いします」
「え、いいけど、エイト君が討伐に行くの?」
「はい。色竜討伐のために、戦闘系スキルも鍛えておきましたので」
この前、若様たち『ヘファイストス』の戦闘部隊に頼んで、戦闘スキルのパワーレベリングをやってもらった。
小さい敵に攻撃を当てるのは相変わらず苦手だけど、高レベルの敵って大体でっかいから問題なし。
「了解したよー。フォレスト先輩たちにも伝えておくねー」
「お願いします。多分、夏休みに入ってからだと思いますが」
「はーい。それじゃあ、私、そろそろ帰るねー。ジュースごちそうさまー」
「お粗末様でした」
さて、それじゃあ、ボウガンの詰めの作業と作製依頼の対応、やるとしますか。
夏休みはまだ一ヶ月以上先だけど、忙しくなる前にめどだけはつけておきたいからな。
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