第三章 夏休みは藍・黄・イベント

50.ある六月の夜

新章開始です。

とりあえず、しばらくは隔日更新くらいのペースでやっていきたいと思います。

ストックがたまりすぎたら毎日更新に、逆に減りすぎたら週3とかにします。


お付き合い、よろしくお願いします。


////


「エイト君、暇だよー」

「暇と言われてもな……」


 無事中間テストも終わり、俺の順位は上位十人の中に入っていた。

 ブレンのやつは赤点は免れたものの平均点は下回り、毎日晩ご飯までは勉強時間ということにされたそうだ。

 目の前で暇だといっているレイは中の上くらいの成績らしい。

 なお、ここは俺の工房である。


「そんなに暇だったら、もうすぐ実装予定の……」

「青妖精と藍幻竜」

「そう、そいつらを倒すための準備をしたらどうだ?」

「準備と言われてもなぁ……多分、これまでのパターンだと、青妖精を倒して装備を集めてから藍幻竜を倒すことになりそうだよね。それなら、今から準備することってほぼないかな」

「……そっか。ふむ、そうなると……俺も思いつかないなぁ」


 俺は生産メインだし、レイは戦闘メインのプレイヤーだ。

 どうしても、双方かみ合うような話というのは少ないんだよな。


「うーむ。俺としても素材は足りているし、狩ってきてほしいモンスターもいないからな」

「今日はフォレスト先輩たちもいないからねー。私ひとりでできることって何かあるかなー?」


 なるほど、誰もいなかったのか。

 まあ、誰かいればギルドハウスのほうで時間を潰すだろう。


「できることか……鍛冶、は無理だろうし、料理でもやってみるか? 高ランクを狙わなきゃ何とでもなるぞ」

「料理かー。基本的にブルー先輩の分野なんだよね。私の場合、リアルでも料理って苦手だし」


 料理が苦手か。

 苦手意識があるとなかなか上達しないよな、何事も。

 俺の戦闘みたいに。


「うーん、そうなると。俺が今作ってるオリジナル装備でも見学していくか? まだ調整段階なんだが」

「オリジナル装備? なにそれ?」

「ユニーク装備は特定の素材から作られる特殊装備。オリジナル装備はシステム上登録されていないレシピから作る、文字通りのオリジナルな装備だな。作るプレイヤーの個性が問われる装備だ」

「なんだかよくわからないけど面白そう! それで、どんな装備を作ったの?」

「まあ、それは見てのお楽しみで。とりあえずベータサーバーに移動してフィールドに出よう」

「オッケー。どんな装備なのか楽しみー」


 なんだかハードルが上がっている気がするけど、気にしないでおこう。

 ベータサーバーから初心者向けのフィールドに出て、適当に辺りを散策する。

 すると、今回の目標にちょうどいいモンスターと遭遇する。

 スライムだ。


「エイト君、あれと戦うの?」

「ああ。今回の装備は、小さくて素早く動き回る相手だと苦手でね。ほとんど移動しないスライムが最良の目標なんだ」

「……私苦手なんだよね、スライム系のモンスターって。ぶよぶよしてて気持ち悪いし」


 料理素材に『スライムゼリー』や『スライムゼラチン』があることは黙っておいたほうが良さそうだ。

 ともかく、目の前のスライム相手に今回の目玉であるオリジナル装備を取り出す。

 それは……。


「……何、それ?」

「ボウガンだな。一言でボウガンといってもいろいろ種類があるんだけど、武器種のくくりではボウガンだ」


 俺が取り出したボウガンは、自分の身長ほどもある巨大なボウガン。

 スライムに向けて構えると、ボウガン下部に備え付けてあった機構が展開し、地面に脚として突き立つ。


「おお、なんだかすごい」

「装備としてかなり大型化しているから、威力は申し分ないんだけどな。取り回しの問題がありすぎて」

「そっか。それで、試し撃ちがスライムなんだね」

「そういうこと。さて、照準よし。ファイア!」


 トリガーを引くと、風切り音を立てて三発の弾丸が発射される。

 もっとも、スライムは一発目の弾丸が当たった時点で死んでおり、残りの二発はそのままスライムの後方にあった岩に当たったが。


「威力は……もう少し上げたいな。あと、取り回しがもう少しなんとかなるように改善しないと。特に上下方向への照準が最悪だ」

「そうなの?」

「触ってみればわかるぞ、ほら」

「じゃあ、ちょっと失礼して……うわ、本当に上とか下は狙いにくい」

「だろ? 改善案はあるから、それを試してみなくちゃだな」


 まあ、今日の段階での試し撃ちとしては問題ないレベルか。

 後は……すべての弾を撃ちきったときのリロードを試してみよう。


「レイ、ちょっと試してみたいことがあるから代わってくれ」

「はーい」

「さて、狙いはあの岩でいいか」


 さっきのスライムの後ろにあった岩に向けて再びトリガーを引く。

 今回も気持ちのいい風切り音が連続で聞こえ、岩に弾丸が突き刺さっていく。

 それを数回繰り返すと、ボウガンのマガジンに込めてあった弾丸が尽きてリロード表示が出た。


「さて、リロードだけど……TP五千か。想定通りだけど、これももう少し減らしたいな」

「エイト君、ボウガンってリロードするときにTPを消費するの?」

「ああ、そうだけど……弓を使ったことがあるのか?」

「フォレスト先輩に頼んで何度か。弓だと、攻撃するたびにTPが減ってたよね」

「ああ、そうだな。そこが弓とボウガンの一番の差だな」


 弓は攻撃するごとに一定のTPを消費する。

 一方、ボウガンはリロード時にTPをまとめて消費する。

 TPは攻撃以外にも使用するので、どちらがお得かとは言えないが、状況に応じた判断ができないとTP不足を起こすだろう。


「一回のリロードで五千って多いの?」

「普通のボウガンなら、五発分のリロードで千くらいだからかなり多めだぞ」

「……どうしてそんな武器を作ろうと思ったの?」

「やっぱり、一撃の攻撃力がある装備って憧れるだろう?」

「うーん、それはそうかも」

「まあ、そういうことだ」


 試し撃ちが終わったので、工房に戻り軽食を食べたら解散となった。

 最後に、レイが「自分にもオリジナル武器を作って!」と言ってきたが「なにか案を持ってきたらな」ということにしておいた。

 オリジナル装備で一番難しいのはどんなものを作るかっていうアイディアなんだよな。

 今回作っているボウガンだって、全部ドラゴン素材を使ったアホみたいに威力を重視したボウガンだし。

 さて、晩ご飯を食べたら、ボウガンの完成に向けていろいろと調整をしようっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る