49.ギルドハウス完成

二ヶ月ちょっとの休載申し訳ありませんでした<(_ _)>

本日よりボチボチ再開していきます。


そして、第二章はこれが最終話というね……

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 GWゴールデンウィークの連休が明けて一週間、《Braves Beat》内もおおよそ普段の落ち着きを取り戻していた。

 連休期間が休みではなかった、一部のプレイヤーなどが休みな分、昼間も賑わいを見せているらしいが。


「それじゃあ、仮面のもついに生産設備を充実させたと」

「さすがに今の設備じゃ厳しくなってきたからなぁ」

「いいんじゃない? こっちとしても、上位の依頼を頼みやすくなって助かるし」


 今は、珍しく俺の工房に遊びに来ている若様と雑談中だ。

 若様との雑談で話したとおり、俺の工房の生産設備はGW前に比べてグレードアップしてある。

 それも、一気に三段階ほどグレードアップだ。

 手持ちの現金でも十分に足りたけど、『ヘファイストス』で貸し出しをやっているらしいので、そこからいくらか借り受けた。

 貸し出された金額は、今後受ける依頼の報酬から一部天引きされるそうな。


「それにしても、仮面の。三段階もグレードアップするとか、今までどんだけ低ランク設備だったのさ」

「言うな。工房を購入したときのままだったんだよ」

「……それって、初期ランクの設備だったってことじゃんよ?」

「残念ながら、二ランク目の設備だな」

「……どっちも大差ないじゃん」


 まあ、確かに。

 初期設備が十万くらいで買えるのに対して、次のランクは三十万くらいで買える。

 設備の質も金額相応なので、初心者が扱うには十分に満足できるものだが、普通に考えて鍛冶マスターが扱うような設備じゃない。


「でも、それだけの設備を更新したってことは、室内も結構改装したんじゃない? 鍛冶工房とか断熱室か高ランクの断熱結界が必要っしょ」

「断熱結界のほうが高かったから断熱室を新設したよ。設備をいろいろ新調したことに比べれば、改築はそんなにかからなかったな」

「そんなこと言っても、今の建物の広さじゃいろいろいっぱいいっぱいじゃない? そろそろ新しいところに引っ越せば? 仲介もするよん?」


 建物の広さなぁ。

 確かに普通なら問題になるんだけど。


「隣の建物も買って、ひとつの工房に改築したからその心配はないな。断熱室とかも作ったけど、前より空きスペースが増えた感じだ」

「それは増えるだろうね。仮面のは相変わらず、引きこもりっぱなしかぁ」

「俺がわざわざ人目に付く場所に引っ越すとでも?」

「思ってない思ってない」

「だろ」


 正直、依頼は『ヘファイストス』から回してもらうものだけで十分足りている。

 と言うか、最近はそっちから回ってくるものだけの対応でも、結構てんてこ舞いだ。


「そういえば、俺のところ以外に回してるユニーク装備の依頼はどうしてるんだ? かなりの依頼が来てるんだろ?」

「そうそう。聞いてくれよぅ、仮面の。これ以上は無理だって言ってるのに、依頼をねじ込んでこようとする客が多くってさぁ。今だって、依頼数の多い紅幻竜や翠幻竜は一週間以上待ちだってのに」

「それはご苦労なこって。俺のほうでもいくつか引き受けるか?」

「それしちゃうと収拾がつかなくなるからだめ。仮面のはドラゴンクラスのユニーク生産だけヨロ」

「了解」


 確かに、俺のところにまで割り振ったら、ドラゴンクラスの装備が滞る可能性あるしなぁ。

 こっちも、数日待ちの状態らしいし。


「……そういえば、仮面の。お友達たちのギルドハウスってもう行ったの?」

「お友達のギルドハウス?」

「あれ? 聞いてないの?」

「ギルドハウスがどうこうという話しか聞いてないが?」


 お互い疑問符が飛び交う会話になってしまっているが、実際、俺は何もわからないし仕方がなかろう。

 俺の様子を見て、若様が答えてくれた。


「仮面ののお友達……フォレストちゃんたちなんだけど、僕らへの貸しを使ってギルドハウスを買ったんだよね。いや、あの程度で貸しを返せたと思ってないから、貸しは残ってるんだけど。それが、六日程前だから、そっちにも話がいってるのかなーと」

「いや、俺には話がきていないな」

「そっかー。ひょっとして、内緒にしてたのかな?」

「どうだろうな? ここのところ、生産だ設備更新だで忙しかったし、ゲーム内では顔をあわせてなかったから仕方ないのかもな」


 気にはなるけど、そのうち教えてもらえるだろう。

 俺が忙しくしてるのは、リアルのほうで話しているのでわかっているだろうし。


「でも、設備更新をしてた日って暇だったんじゃない? 設備更新とか改築って、決定してからリアルタイムで十時間以上何もできないっしょ?」

「……その日は設備更新の設定だけしたら、さっさとログアウトして勉強して寝たから」

「この優等生が!」


 勉強だっておろそかにできないんだから仕方がないじゃないか。

 そんなことを若様と話していたら、フレンドチャットがかかってきた。

 相手は……レイか。


『こんばんは、エイト君。今、暇?』

『暇といえば暇かな。工房で雑談しているだけだし』

『よかった。私たちのギルドハウスが完成したから遊びに来てよ!』

『わかった。場所は?』

『えっと、位置データを送るね……これで大丈夫?』


 送られてきた位置データは大通りから少し離れた場所にある建物だった。

 外に出かけるにしても、不便さはない場所だな。


『わかった。これから向かうよ』

『うん。待ってるねー』


 レイとのフレンドチャットが終わったら、若様に事情を説明せねば。


「若様、これからさっき話に出てたギルドのギルドハウスに行ってくるよ」

「お、ついに完成したんだ。面白そうだし、僕も行っていい?」

「ついてきてもそんなに面白いものはないと思うがな」

「まあまあ。よそのギルドハウスなんて、めったに見る機会がないんだからいいじゃない」

「そういうものかね」

「そういうものだよ。さあ、行こう行こう」

「わかったよ。っていうか、若様、場所は知ってるのか?」

「ギルドハウスを買ったときに僕も一緒だったからねー。場所は知ってるよん」


 なるほど、それなら俺より詳しそうだ。

 道案内は若様に任せて、俺は後をついて行くことにしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「さて、ここが買った建物なんだけど……結構きれいになってるね」

「そうなのか。確かに周りの建物に比べるとかなりきれいだけど」

「僕らのクランだって結構外見に手を加えたんだぜ? さあ、中に入ろう」

「ああ、そうだな」


 目的の建物に入ると、一階は休憩スペースのようになっているらしく、俺以外のギルドメンバーがそろってお茶を楽しんでいた。


「あ、エイト君! と、若様、でしたよね?」

「そうそう。若様だよん。仮面のと話をしてたら、ここが完成したって聞いたから遊びに来ちゃった」

「そうなんですね。あまりおもてなしはできませんが、どうぞ」

「ほーい、それじゃお邪魔しますっと」

「それじゃ、俺もお邪魔するよ」


 いくつかテーブルがあったが、今回は若様と同じテーブルに座ることにした。

『リーブズメモリー』のみんなと同じテーブルにも座れたけど、若様をひとりで座らせるのもあれだしな。


「うむ、よくきたな、エイト。若様もいい場所の建物を買ってくれて助かった。我々だけでは、とても資金が足りなかったからな」

「いいよいいよ。購入資金って言っても、改築費用込みで二百万っしょ。その程度の稼ぎって、僕らのギルドじゃすぐだしねぇ。っていうか、仮面のだって一週間もあれば稼げちゃうよん」

「……まあ、そうだろうが、同じギルドメンバーとして、ひとりにばかり負担させるわけにもいかないからな」

「別に貸し付けってことでもよかったんですけど、先輩」

「それはそれで申し訳ないからな。それで、どうだね、このホームは」

「いや、いいんじゃないかな。きれいにまとまってて。僕はこういうの好きだよん」

「俺もいいと思いますけど。ガチの戦闘系ギルドってわけじゃないですし、のんびりできる空間って大事だと思いますよ」

「そうか。それならよかったのだが」


 実際、一階のこの部屋だけだけど、きれいに整頓されているし、花とか額縁とかが飾ってあって落ち着ける空間になっている。

 俺の工房は実用性しか求めていないし、『ヘファイストス』も似たようなものだからな。


「そういえば、一階は休憩スペース? みたいな感じのようですけど、ほかの階はどうなっているんですか?」


 この質問に答えてくれたのはブルー先輩だった。


「一階はこの休憩スペースと生産部屋だよー。もっとも、調理台しか置いてないけどー」

「……まあ、ほかは追々そろえるさ。料理以外の生産スキルを使えるのはエイトだけだし、エイトは生産設備を更新したばかりでここで活動する気などないだろう?」

「まあ、そうですね」

「そういうわけだ。なので、生産部屋というよりは調理室だな」


 なるほど。

 今飲んでるお茶もそこで作ったのかな。


「説明を続けるねー。二階は遊戯室だよー。ビリヤードとかダーツを置いてあるの。遊戯室以外は空きスペースになってるねー」

「空きスペースだが、何かいい案はないか? 遊ばせておくのももったいないが、これといって案もなくてな」


 空きスペースか……。

 あれってもう作ったのかな?


「ギルドの共有倉庫ってもう作りましたか? あると便利ですよ」

「共有倉庫か……便利だとは聞いてるがそれほどか?」

「便利だよん。小規模なギルドなら個人用の倉庫スペースも確保出来るだろうし、お互いに時間が合わないときでもアイテムを受け渡しできたりするからねぇ。六人程度のギルドなら、小部屋ひとつを使った倉庫でも十分だから、用意しておくといいよ」


 俺の提案に若様も援護してくれる。

 共有倉庫があれば、俺からアイテムを渡すときが楽になるからな。

 素材を受け取るのも楽になるし。


「ふむ、そういうことなら考えよう。ほかには何かあるか?」

「急ぎで用意しておくほうがいいのはそれくらいかなぁ? 後は、リペアシステムとかあるけど、あれクッソ高いんだよねぇ」

「リペアシステム? 何それ、若様」


 初めて聞く設備名に、全員が若様へと視線を集中する。


「ギルド内で登録した生産職の生産スキルレベルに応じた修理ができるようになる、って設備だよん。ただ、この設備自体が百万とかする上に、設備を使うたびに修理費用がそれなりにかかるらしいんだよねぇ……」

「百万は厳しいな……」

「だからやめておいたほうがいいよっと。だから共有倉庫くらいかなー」

「わかった。アドバイス、ありがとう」

「いいっていいって。これくらい、サービスサービス」


 追加する設備も決まったので、次の説明に移るらしい。

 とは言っても、三階で最後らしいが。


「三階は各個人のお部屋だよー。もちろん、エイト君も持つ権利があるけど……」

「俺は工房があるんでパスですね」

「だよねー」


 これでギルドハウスの説明は終了らしい。

 若様も見学が終わったので帰って行ったし、ほかのメンバーもそれぞれ自分の用事で出かけていった。

 残ったのは俺とブルー先輩、それからレイだ。


「さて、ギルドハウスもできたわけだが、エイトはこの先どうするかね?」

「俺は今までどおり、自分の工房でアイテム作りに励みますよ。さすがにここで生産は厳しいでしょう?」

「そうだな。ちなみに、今エイトが使っている生産設備を一式そろえる場合、どれくらいの費用がかかるかな?」

「そうですね……建物の改築とかも必要ですし、数百万は必要です」

「……生産って、お金がかかるんだね」

「出て行くお金も多いが、入ってくるお金も多いからな。特に、他のプレイヤーが作れないようなアイテムを作れれば一攫千金も夢じゃない」


 うん、これは事実だ。

 もっとも、そのためには、生産スキルのマスターが必要になってくるが。


「うーん、私じゃ、そこまで頑張れないかな」

「まあ、各自出来る事をやればいいさ。俺はあまり戦闘は得意じゃないし」

「それもそうだね。でも、たまには一緒に遊びに行こうね」

「……できるだけお手柔らかにな」

「レイ、遊びに行くのもいいが、中間テストがもうすぐなのも忘れるなよ」

「……フォレスト先輩、今は忘れさせてください」


 中間テストか。

 ブレンのやつにも勉強させないとな。

 あいつに付き合ってたら大変だし、いつも通りまとめたテキストでも渡しておくか。

 ゲームの話題から試験の話題にすり替わったが、今日も一日のんびりと過ごすのであった。

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