45.翠幻竜グリューンヴィンド_2

「近くで見ると、さらに大きさがわかりますね」


 戦闘を始めるため、翠幻竜グリューンヴィンドのそばまで来たけど……やっぱりでっかいな。

 紅幻竜や嵐竜のときも思ったけど、ドラゴンってこんな感じのモンスターばかりだ。


「そんなものだろう、ドラゴン種は。さて、ブルー。準備はいいかね?」

「うん、いつでも始められるよー」

「では始めよう。ブルーよろしく頼む」

「はーい。シールドチャージ!」


 ブルー先輩が盾を構えて突進する。

 その勢いのまま翠幻竜に体当たりをして、戦闘が始まった。


「いっくよー、ヘヴィアンカー!」


 翠幻竜の正面に陣取ったブルー先輩が、聞いたことのないスキルを発動させた。

 あれはなんだろう?


「フォレスト先輩、ブルー先輩がいま使ったスキルって?」

「ああ、ヘヴィアンカーか。あれはアンカーストーンの上位版のようなスキルだよ。ある程度移動してしまうと効果が切れるが、ダメージ軽減やノックバック無効などの恩恵があるそうだ。今回のような一切移動しない戦闘では非常に有効だ」

「……そうなんですね。俺たちも移動しましょうか」

「うむ。まあ、私たちは、ある程度近い位置に陣取ることになるがな」


 フォレスト先輩の解説を聞いたあとは、各自がばらけて翠幻竜の側面や背後に回り込み、攻撃を開始する。

 俺は回復薬を投げつける関係上、ブルー先輩を視認できる右側面に貼り付いた。


「さて、それじゃ始めるか。まずは連閃からだな、一閃、二葉、三斬華!」


 ダメージ効率のいい連閃を叩きこみながら、時々ブルー先輩にHPポーションを投げたり回復魔法を使ったりする。

 スキル【ポーションスロー】のおかげで、ポーションはぶつかる前に霧状に変わり回復効果を発揮してくれた。

 そんな感じでダメージを与えつつ回復をしていると、視界の端に竜巻が巻き起る。

 あれが、ランダム発生の竜巻とやらか……巻き込まれたら面倒そう。


「あ、忘れないうちにアンカーストーンを使っておかないと」


 ほかの皆は戦闘開始すぐに使っていたみたいだけど、俺は忘れていた。

 ……この辺のうっかりミスが、後々響いてくるんだろうな。


「さて、次は……うん、翼を畳んだ?」


 翠幻竜は開いていた翼を畳み、勢いよく広げた。

 それによって突風が巻き起こり、全員がダメージを受ける。

 ……これがスタン効果のある攻撃か。

 アンカーストーンを使っていたからノックバックは無効化できたけど、少しの間痺れて動けなくなっていた。

 幸いダメージ量はそんなに多くないから、各自回復をしていたので問題ない。


「これが翠幻竜の攻撃パターンか。注意すべきは、羽を広げたときの突風かな?」


 状況を分析していると、自分の足下で草が舞い上がる演出が起こった。

 これが、竜巻の予兆エフェクトかな?

 素早くそのエフェクト範囲から抜けると、数秒後に竜巻が巻き起こる。

 ……こんなのに巻き込まれたら、痛いなんてもんじゃなさそう。

 竜巻の範囲から逃げると、フォレスト先輩の近くに来てしまったらしく、声をかけてきてくれた。


「ふむ、竜巻は無事に回避できたようだな。その調子でよろしく頼むぞ」

「わかりました。できる限り……そろそろ回復薬を投げておこう」

「……エイトの回復薬は効果量もそこそこ高いのだし、もう少し間を置いてもいいと思うぞ?」

「回復はこまめにやっておいたほうがいいでしょう? さっきみたいにスタンすることもありますし」

「ふむ、まあいいだろう。回復薬のストックには気を付けてくれよ」


 俺の言葉を受けて、フォレスト先輩は少し考えたようだが否定するつもりはないらしい。


「わかってますよ。ストックは大量に用意していますので心配なく」

「ならいい。……っと、また竜巻予兆か。逃げるぞ、エイト」


 竜巻の効果範囲から逃げ出し、再び翠幻竜のそばに移動、攻撃をしながら回復というパターンを再開した。

 途中、翠幻竜が咆吼攻撃をしてくるなど多少の変化はあったが、残りHPを40%まで無難に減らすことができた。


「さあ、ここからが本番だぞ! 皆、気を引き締めていけ!」


 フォレスト先輩が号令をかける。

 それとほぼ同時に翠幻竜が飛び上がり、空中で雄叫びをあげる。

 すると、草原の中に竜巻が発生して、俺たちのいた一角だけが切り取られて空中に舞いあげられた。


「おおう、これはなかなか凝った演出だな!」

「高所恐怖症の人は大変そうだねー。私は平気だけど」

「フォレスト先輩、これって落下したらどうなるんすか?」

「落下した場合、下の竜巻に巻き上げられてまた復帰するから心配ない。ダメージは受けるがな」


 どうやら即死とかではないらしい。

 空中を飛んでいた翠幻竜も巻き上げられた大地に着地し、第二ラウンドの幕が開ける。

 この状態になるとあちらの攻撃も激しさを増し、威力の高いドラゴンブレスを多用するようになり、スピンアタックも頻繁に行うようになった。

 そのため、全員回復が忙しくなり、ダメージ効率が多少落ちてしまう。

 ……俺?

 もともと攻撃力は低かったし、大差ないよ。

 そうこうしながらダメージを重ねていると、翠幻竜が飛び上がり攻撃の届く範囲から外れてしまう。

 それと同時に、フィールドの中央に小さな竜巻が巻き起こった。


「む。全員、その竜巻に入るんだ!」


 フォレスト先輩が指揮をして、皆指示通りに行動を始める。

 ただ、俺の動き出しは少し遅かったようだ。

 皆が竜巻の効果で舞い上がる中、俺は竜巻に飛び込むことができず、飛来した翠幻竜の突撃を受けフィールド外に弾き飛ばされる。

 そして、ダメージを受けてフィールドに戻されたが……うん、即死した。


「大丈夫か、エイト。あの攻撃はすぐに動き出さないと、ああなるからな」


 竜巻に舞いあげられていたフォレスト先輩が、俺を蘇生しながら教えてくれた。


「……そういうことは先に教えておいてもらえると助かります」

「うむ、最初に言っておくと面白味がないからな。そのほうが楽しめるだろう?」

「俺は事前に教えておいてもらえたほうが楽しめます……」

「ふむ、了解した。善処しよう」


 あ、これはダメなヤツだ。

 ともかく、初見殺しの罠にはまったりしたが翠幻竜にはダメージを積み重ねて行く。

 途中、翠幻竜がフィールド外に移動して攻撃をしかけてくることはあったが、全員が総崩れになることはなく、無事に倒すことができた。

 ……俺が途中何回か死んだ以外、誰も死ななかったよ。


「ふむ、無事に倒すことができたな。攻略情報があればここまで簡単なのだな」

「そうなんですか? これなら誰でも安定して倒せそうですが」

「紅幻竜と一緒だよ。初討伐パーティが現れたあと、難易度低下があったそうだ。それに、今回は対策アイテムも完備していたからな。それがなければ、勝てなかっただろうよ」

「そうです?」

「ああ、そうだよ。アンカーストーンなしだと、何回も弾き飛ばされて攻撃どころではないからな。それに、後半戦は弾き飛ばされるとフィールド外に落下して追加ダメージを受ける。それも考慮すれば、今回は上手く行きすぎだよ」


 俺より詳しいフォレスト先輩が言うなら、きっとそうなんだろう。

 ……さて、ここまでは微妙な立場だったけど、ここからは俺の本領発揮だ。


「さあ、それじゃ、剥ぎ取りを始めますね。どれだけのアイテムが入手できるかな?」

「楽しそうだね、エイト君。私も、どんな装備ができるか楽しみだけど!」


 皆の視線を浴びながら、俺は解体ナイフを突き立てる。

 すると、翠幻竜素材がいくつか手に入った。

 それを数回繰り返して、剥ぎ取り完了だ。


「手に入った素材は……紅幻竜とほぼ一緒ですね」

「そのようだ。となると、作れる装備も似たようなものか?」

「そうですね……ソード先輩に関係するところだと、ブロードソードよりファルシオンのほうが攻撃力が高い、とかありましたが」

「ファルシオンか……俺は得意じゃないからパスだな」

「了解です。ほかの皆の装備は、ほぼ同性能ですね。微妙な差はありますけど」


 素材を入手したことで生産レシピと完成品の性能がわかった。

 紅幻竜とは差別化されているが、基本的に同様の装備類ができるようである。


「でも、一回の素材じゃ作れないんでしょ、エイト君」

「そうだな。装備を作ろうとすると、何回か周回しないと難しいなあ」

「ならば周回だな。エイト、時間は大丈夫か?」

「今日は大丈夫ですよ。こうなることは予測していましたから」

「ならば、周回だな! 私も新しい弓がほしいぞ」


 全員反対はなく、そのまま素材が揃うまで周回プレイとなった。

 結局、七周か八周したけど、全員の必要素材は集めることができたようで安心、安心。

 その日のうちにオーダーも受けたけど、さすがにいまから作る時間はないから、明日に回してもらったよ。

 ……いい加減に寝る時間だったからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る