46.翠幻竜から翠玉幻竜へ

「それじゃ、ダンナも夜遅くまで翠幻竜狩りをしてたってわけですかい」

「まあ、そうなるな。……さすがに疲れたぞ?」

「だよなぁ」


 翠幻竜を周回した翌日、皆から請け負った翠幻竜装備を作っているとダンがやってきた。

 どうやら、ダンも翠幻竜を倒してきたらしく、装備を依頼されたが……さすがにキャパシティオーバーなので断ったところだ。

 数日先でもいいってことになったので引き受けることになったけど。


「それで、やっぱり今回も装備名と見た目は変わったのか?」

「隠すことでもないしな。ああ、変わったぞ。翠幻竜から翠玉幻竜に置き換わった。見た目も変わっているが……見てみるか?」

「お、見せてくれるのか?」

「刀でよければ。どうだ?」

「構わないぜ。見せてくれよ」


 俺はインベントリから一振りの刀を取り出す。

 そして、鞘から刀身を引き抜いてダンに見せた。


「ほほう……鮮やかな緑色だな」

「レイピアや片手剣、両手剣も作ったけど同じ感じだったぞ。防具も、緑ベースの鮮やかな配色だった」

「まあ、緑妖精装備の時点で緑色でしたからねぇ。……いい参考になったよ」

「それは重畳。ダンの装備は……明後日かな、完成予定日」

「了解だ。ところで、ダンナ。ほかになにか面白い話はないのか?」


 面白い話……ねぇ。

 俺は情報屋じゃないから、あまり詳しくはないのだけど。


「うーん。その手の話は、若様に聞いたほうがいいと思うぞ。あっちは情報収集も割り当ての範囲だし」

「そっか。ダンナも面白い話は知らないか。……そうだ、ダンナ。ダンナってヘファイストス以外のギルドには入らないのか?」

「藪から棒だな。いちおう、いまのところは……ゲーム同好会のギルドができたら入るかな、程度か」

「ゲーム同好会って言うと、ブレンやその仲間たちか。ダンナ以外の生産職は誘わないんで?」

「繋がりがほとんどないしな。……ダンも誰かを誘うつもりだったのか?」

「いやいや。俺はギルド作りには興味がないんで。ダンナはどうなのかな、と思っただけだよ」


 ふむ、そういうことなら構わないか。

 誘われても、断るだろうけど。


「それにしても、翠幻竜も早々に倒されて、GWゴールデンウィークも残りわずかなんですよねぇ……」

「だな。あともう少しで連休も終わるなあ」

「もう少し休みがあってくれると嬉しいんですがね……休んでばかりいたら、それはそれで鈍っちまうが」

「そんなもんだろ。……さて、ほかに用事がないなら、俺は生産に戻るぞ?」

「わかった。俺ももう少し翠幻竜を倒してくることにしますわ」

「……そんなに倒してどうするのかねぇ」

「ま、素材の収集ってことで。それじゃ、装備よろしく」


 ダンを見送ったら、生産作業を再開する。

 昨日の夜遅くになったけど、フラスコに鍛冶道具だけアップグレードを頼んであるから、装備作成はサクサク進む。

 翠玉幻竜の生産道具は生産する装備の属性が風属性だった場合、作業時間を短縮してくれるので、本当に助かる。

 いまの時点でも、お試し代わりに強化した俺の刀やレイのレイピア、片手剣に両手剣、どれも生産に必要な時間が三十分くらいずつ短縮されている……ように思える。

 もっと短縮できればおいしいんだけど、そうもいかないようだ。

 フラスコにも緑妖精と翠幻竜の素材を渡しておいたから、あっちはあっちで生産道具を作っているだろう。


「さて、それじゃ、生産を再開……って、メール?」


 メールが届いたので確認してみると、フォレスト先輩からだった。

 内容としては、いま引き受けている装備の引き渡しまでどれくらいかかるか、ということだったが……急にどうしたのだろう?


「ふむ、フレンドチャットで詳しい話を聞いてみるか」


 そう思い立った俺は、フレンドチャットを使ってフォレスト先輩に連絡をとってみる。

 すると……。


『うむ、急かして済まないな。ただ、急ぎで装備が必要になったのだよ』

『急ぎ、ですか。なにがあったんです?』

『ああ、それがな、ギルド結成のための四番目の試練が、風属性を使ってくるボスだったのだよ。なので、急ぎで翠幻竜の装備が欲しくなったというわけだ』


 なるほど、状況は理解した。

 でも、なぁ。


『済みませんが、どんなに急いでも今日の夜ですよ? 頑張って作ってはいますけど、どうしても作業時間はかかるので』

『勿論、わかっているさ。なので、できる範囲で早く納品してほしいだけでな』


 この手のやりとりは割と日常的にあるし、珍しくもないかな。

 さて、それじゃ、どの程度まで短縮できるかな……。


『うーん、頑張って、午後十時くらいですかね。全員分の完成は』

『おお、それで構わないぞ。その時間になったら、皆で取りに行くよ』

『わかりました。ではのちほど』

『急かしてすまないな。では』


 さて、そういう事情なら仕方がない。

 特急作業で仕上げていきましょうか。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「いや、本当に急かしてすまなかったな」

「いいえ、大丈夫ですよ、この程度なら。もっと急ぎで納品しろ、って言われることもありますし」


 実際、この程度の納期短縮ならなんとかなる。

 生産道具による効率上昇もあって、午後九時半には全部できてたからな。


「……それで、やはり全員分が翠玉幻竜に変わったのか」

「ですね。品質もS+ですしこれ以上の完成度はないと思いますよ」

「……そうか。それならば仕方がないかな」


 フォレスト先輩は自分のコンパウンドボウを見つつ、諦めたような口調で言う。

 ……俺も思ったけど、翠玉幻竜装備って見た目が派手すぎるんだよな。

 派手なのが好きなレイやブレンには好評だけど。

 なお、ブルー先輩とソード先輩はどちらでもないそうな。


「……さて、それでは、第四の試練に挑んでくるが、エイトも同行しないかね?」

「遠慮しておきます。今日は神経を結構使ったので、もう寝ます」

「そうか、ならば仕方がないか。では、吉報を待っていてくれ」


 フォレスト先輩の号令で、皆が席を立ち工房から立ち去っていった。

 きっと、このあと皆は激戦が待っているのだろう。

 ……そんな事を考えつつ、俺は店仕舞いを始める。

 第四の試練とやらも気になるけど、正直、早く寝たいからね。


 なお、翌朝ログインしたときに確認したメールによると、無事に第四の試練をクリアできたらしい。

 次が最後の試練だってはりきっていたよ、レイが。

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