42.第二の試練
「でねー。第二の試練は悪魔型のボスなんだけど、これが全然倒せないんだよ。攻撃してもHPがなかなか減ってくれなくてさ」
晩ご飯も食べ終わって夜のログイン。
昼間の時間、ひたすらボスに挑んでいたらしいゲーム同好会面々が、装備を修理するためにやってきていた。
ほかのメンバーは休憩室で休んでいるが、レイだけは作業部屋まで付いてきていろいろ話をしてくれている。
作業に集中できなくなるわけでもないので、適当に聞いているのだが。
「それで、結局第二の試練はクリアできたのか?」
「まだだよ。試練をクリアする前に、イベントアイテムが尽きちゃったから、それをまた集めに行ってたの」
イベントアイテム――確か『第二の試練の鍵』だったか――はかなりの数を渡してあったはずなので、それでクリアできなかったというのはよっぽどのことなんだろう。
そのあともレイの愚痴を聞きながら装備の修理を進め、全員分の修理を終えた。
修理が終わったら、作業部屋から休憩室に移動して装備を引き渡して完了だ。
「ふむ、さすがだな。これだけの数の修理を、すぐにやってくれるのだから」
「おだててもなにもでませんよ、フォレスト先輩。それで、イベントアイテムを集め直したと聞きましたが」
「うむ、レイから聞いたのか。済まないが、また合成をお願いできるか?」
「わかりました、すぐにやってきます」
というわけで、イベントアイテムの合成のため作業部屋にとんぼ返りだ。
サクサク合成を進めた結果、全部で五個のクエスト用キーアイテムが完成した。
休憩室に戻ると、全員で掲示板を確認しているようだ。
「合成終わりましたよ。なにを確認しているんですか?」
「ああ、終わったか。第二の試練の情報を確認していたんだよ」
ソード先輩曰く、第二の試練の攻略情報が掲示板に公開されていたらしい。
もっとも、公開された時間を確認すると、今日の夕方過ぎだったので、その頃にはクエスト用アイテムが尽きていたのは変わりないらしいんだけど。
「これがわかれば、かなり有利にクエストが進められるねー」
「そっすね。しかし、HPが減らないと思ったら、物理攻撃と属性攻撃を切り替えなくちゃダメだなんてなぁ……」
「しかし、ネタが割れればなんとでもなる。これならば、今日のクリアも夢ではないぞ」
どうやらクリアするために必要な情報は集まったらしい。
全員におかわりのドリンクを用意してから、ひとつ尋ねる。
「それで、このあとはどうするんですか? また、第二の試練とやらに挑戦です?」
「うむ、その予定だ。……でだ、よければエイトもこないかね? 戦力として期待しているのだが」
うーん、戦闘系クエストか……。
正直、あまり乗り気になれないんだけど。
「どうしましょうかね……。依頼は落ち着いてますけど、戦闘系コンテンツで俺が役に立てますか?」
「大丈夫だろう。確か、【ポーションスロー】も覚えたのだったな。後方から回復アイテムを使ってくれるだけでもありがたいのだよ」
「……そういえば、あのスキルの効果ってどんな感じなんですか?」
「回復系アイテムを味方に投げつけることで、そのアイテムの効果を発揮させるスキルだな。本来、口に含まなければ効果を発揮しないようなアイテムでも、味方に当たれば効果を発揮するようになる」
「つまり、治癒の飴玉みたいなアイテムでも投げつけられると」
「その通りだ。それを使って回復に専念してもらうだけでも構わない。手伝ってはもらえないか?」
回復だけでもいいのか。
それなら、役に立てる……かも?
「そういうことでしたら。それで、準備して行くアイテムは回復アイテム一式で構いませんか?」
「いや、ほかにも属性ありの武器と無属性の武器を用意してほしい。大丈夫かな?」
「それなら大丈夫です。ほかの皆は大丈夫なんです?」
「あー、スマン、エイト。俺の分の無属性武器って用意できね?」
「ブレンか……両手剣でいいのか?」
「おうよ。実は、レベル45以上で通用する装備って、紅玉幻竜装備しかなくて……」
そういえば、ブレンの装備って、俺が渡したのを除けばそれしかないような?
「自分でも武器を調達しておけよ、ブレン……」
「いや、申し訳ない。でも、高レベルの武器ってたけーし、なかなか売ってないんだよ」
「そういや、そうだったな。……ほれ、ブラックワイバーン製の両手剣だ。お値段は……これくらいで」
「よし、その金額なら支払える! サンキュ」
「ふむ、これで準備万端かな。では、ゲートまで移動するぞ」
ブレンが無属性武器を手に入れたことで、全員の準備が完了したらしい。
俺たちは全員揃ってゲートに向かい、第二の試練へと挑むことになった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「さて、第二の試練の攻略方法だが、武器の切替が重要らしい」
ボス戦の開始前に、フォレスト先輩が解説を始めてくれる。
「最初はどの攻撃でも通用するが、最初の全体攻撃以降は異なるらしいのだ」
「えーっと、具体的にお願いできますか?」
「そうだな。ある程度のダメージを与えると、ボスが全体攻撃をしてくる。そのあとは無属性の攻撃しか通じなくなるらしい」
「なるほど。つまり、武器を切り替えなくちゃいけないと」
「うむ。それで、そのあとは一定時間ごとに全体攻撃をしかけてくるのだが、その都度、有効な攻撃が属性ありと無属性で切り替わるらしいのだ」
「……面倒なギミックですね」
装備を切り替えるには、ショートカットを設定しておかなくてはならない。
で、切替は思考制御になるため、タイミングを間違えないようにしなくてはダメだ。
「今後、そういうギミックを持った敵も出現するということだろう。今回はダメージを与えられないだけだが、ダメージを吸収するボスなども出てきそうだ」
「……本当に面倒ですね」
「そうか? むしろ私は楽しみだぞ?」
この辺は、戦闘メインのプレイヤーとそうじゃないプレイヤーの差かな?
ともかく、装備をショートカットに設定していつでも切り替えられるようにしておく。
「それで、ほかに注意することってありますか?」
「……そうだな。敵の翼が開いているときは属性攻撃が有効、閉じているときは無属性攻撃が有効らしい。あとは……タンクの受けるダメージが多めだから、回復のタイミングを間違えないことか」
「了解です。厄介な攻撃とかは?」
「このボスは特にないらしい。タンクのいる方向に向けての範囲攻撃はあるらしいのだが……タンクと同じ方向に陣取っていなければ、そもそも当たらないからな」
「ですね。それでは、戦闘開始です?」
「ああ、戦闘開始だ! ブルー、よろしく頼むぞ!」
「はーい。それでは、始めるよー」
ブルー先輩がボスに突っ込んでいき、戦闘が開始される。
ボスはそこそこ巨大な悪魔型なので、戦う分には楽である。
最初の忠告通り、ブルー先輩のダメージ量が多いので、こまめにポーションを投げて回復するくらいで、特に注意する部分はなかった。
「お、最初の全体攻撃がくるぞ! 全員注意しろよ!」
ソード先輩が、全体攻撃に備えるように注意を促す。
……もっとも、タンクであるブルー先輩以外はダメージを一切受けてないんだけど。
「っ! この全体攻撃、ダメージが半端じゃないですね!」
「そういうことだ。回復をケチっていると、すぐに全滅するぞ」
たった一回の全体攻撃で、HPの四割ちょっとを持っていかれた。
すぐさま、ヒーリングミストを使って全員を回復するが、この攻撃を何回も食らっているとじり貧になりそうだ。
「さあ、装備の確認だ! 全員、無属性武器で攻撃だぞ!」
フォレスト先輩のかけ声に応じ、装備をそれぞれ切り替える。
俺もだけど、全員が紅玉幻竜武器を装備していたからな。
無属性武器に切り替えて、ダメージが与えられることを確認したら、スキルも使った攻撃へと切り替える。
そして、次の全体攻撃が来たら、今度は属性武器に切り替え、攻撃を続行する。
そんなことを繰り返していると、五回目の全体攻撃のあとで、ボスを倒す事ができた。
「……意外とあっさり倒せるボスでしたね」
「攻略法がわかっていれば、だな。ちなみに、全体攻撃九回目は即死攻撃だ」
「時間をかけすぎてもダメってことですね」
「そうなるな。……クエストもクリアになったし、エイトの工房に戻るか。また装備を消耗してしまったからな」
「いいですよ。帰りましょうか」
ゲーム同好会の皆は、クエストクリアの確認をして俺の工房へ再度くることになった。
一回の戦闘ではそんなに耐久値も減っていないが、それはそれだろう。
この日は装備の修理が終わったあと、少し雑談をしてゲーム終了となった。
《Braves Beat》で雑談ってあまりしたことがないから、ちょっと新鮮だったかも
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