40.ヘファイストスのギルドハウス
午前中はダンの依頼をこなして過ごした俺だが、午後からの予定もまたまだ空白だった。
ダンから頼まれていた装備はすべて作ってしまったし、いまのところほかの依頼もない。
……というわけなので、ダンに依頼の品を引き渡したら、自分が頼んでいた装備やアイテムを引き取って回ることに。
エミルもフラスコも自分の工房にいてくれたので、引き取りはスムーズに終わった。
「さて、準備はできたし、改めて若様に連絡してみましょうかね」
翠幻竜装備の前提条件として提示されていた、緑妖精の鍛冶道具も入手したし依頼を受ける分には問題ないだろう。
そう思って若様に連絡すると、依頼を頼む前にゼータサーバーに来てほしいということだった。
待ち合わせはゲート前ということだったので、早速移動してみる。
「お、来たね、仮面の。早いじゃないの」
「呼んだのはそっちだろう。で、一体なにがあったんだ?」
「なにがっていうかね。準備ができたんだよ、僕たちヘファイストスの城が!」
「ヘファイストスの城?」
一体なんのことだろう?
そう思って首をかしげていると、若様から追加の説明があった。
「そうそう、ヘファイストスの拠点、ギルドホームが完成したんだよ!」
「へぇ、完成したのか。……それってすごいのか?」
すでに拠点持ちの俺にとってはピンとこない。
そんな俺に、若様は熱く続ける。
「ギルド拠点、ここから見える大きなビルを一棟丸々買い取ったんだけどさ、これがすごいのよ」
「ここから見えるビル? どれだ?」
「ほら、あれあれ。あの左手の一番でっかいビル!」
若様が指さしたのは十階建てくらいの大きなビルだった。
確かに、あれが拠点ならばすごそうだ。
「へぇ。あの大きさのビルが拠点なのはすごいな」
「でっしょう? 購入費用も高かったけど、インパクトはバッチリっしょ」
「そうだな。……で、完成したってことは中身も準備できたのか?」
「その通り! いやー、内装が整うまで時間がかかったよ」
あの規模の建物を改装しようとすると、かなりの時間がかかりそうだ。
俺の小さな工房でさえ、半日かけていろいろセッティングしたんだから。
「それで、呼び出した理由はあれを見せるためか?」
「見せるため、というか中も案内しなくちゃだからね。仮面のもヘファイストスのメンバーだし」
「わかった。中身も興味があるし、早速案内してくれ」
「了解っす。では出発!」
若様に連れられて建物内に入ると、そこは吹き抜け式の巨大なエントランスになっていた。
天上から明かりが差し込んでいるので、最上階まで吹き抜けになっているのだろう。
「ここがエントランスホールだよん。で、向かって右手がヘファイストスの販売所、左手が生産設備の貸し出しスペースになってるよ。どっちから見たい?」
どうやら両方案内してくれる予定らしい。
さて、まずはどちらを見るべきか……。
「そうだな、販売所のほうを先に見せてもらえるか」
「了解。それじゃこっちに来てちょうだい」
先導されてたどり着いたのは、たくさんのアイテムが陳列された販売所だ。
並んでいるアイテム類は、文字通り多種多様としか言いようがない。
「どうよ、この販売量。ヘファイストスの皆から委託されているアイテムだぜ?」
「これは壮観だな。……ところで装備品は?」
「装備品は二階だよん。そっちも見てみる?」
「あー、いや、いいかな。二階も同じくらいなんだろ?」
「もっちろん。装備品だから、一階よりも派手だぜ?」
それは興味があるけど、また今度ひとりで来たときにでも確認してみよう。
「それじゃあ、もうひとつの貸し出しスペースとやらを見せてもらえるか?」
「がってん、承知。じゃあ一緒に来てくれ」
販売所を出たら対面側にある貸し出しスペースに移動する。
そこには、たくさんの生産設備が備え付けられた部屋が並んでいた。
「見てよ、このたくさんの設備。結構お金を使ったんだよ?」
「……確かに壮観だが。こんなに使うのか?」
「ここはヘファイストスだけじゃなく、一般プレイヤーにも貸し出す予定なんだぜ」
ヘファイストス専用じゃないのか。
それなら、納得かな。
「ヘファイストス以外にも貸し出すんだな。貸し出すってことは料金を取るのか?」
「うん、その予定だよ。ここにある設備は、そこそこいいものを用意しているからぼちぼちの料金をもらう予定。正式な金額はいま詰めているところ」
「そんなに需要があるのかねぇ?」
「んー、結構あるっぽいよ。掲示板なんかを見てると、『上位の設備がない』、って嘆いているプレイヤーが結構いるみたいだし」
「そうなんだな。……俺はさっさと工房を買ってしまったから、よくわからないけど」
「手の早いプレイヤーはそうなんだけどねぇ。後発組はそうもいかないようだよ」
なるほどな。
手頃な値段の場所は、すべて買い押さえられているんだろう。
「そういえば、ゼータサーバーでそういった感じのお手頃物件ってないのか?」
「それなんだけどねぇ。ゼータサーバーって、ギルド専用エリアらしいのよ。ギルド拠点以外で建物を買えないんだってさ」
なるほど、購入制限ありか。
それは大変そうだ。
「そうなると、まだまだ建物には余裕があるのか」
「だね。僕らのような生産系のギルドはいくつかできたようだけど、戦闘系のギルドは……ひとつかふたつ程度しかないんじゃないかな?」
ほう、そこまで大変なのか。
それはゲーム同好会の皆も苦労していることだろう。
「ちなみに、戦闘系クエストの情報ってもう出回ってるのか?」
「いんや、最初の部分しか出回ってないよん。まだ、どこも秘匿したいようだね」
「そうか。知り合いが戦闘系クエストに挑んでるから、少しでも手助けになればと思ったんだが」
「とりあえず
結局はそこに落ち着くのか。
まあ、仕方がないのだろうな。
「了解だ。もっとも、装備を作るための素材がなくっちゃ始まらないんだけど」
「だよねぇ。素材は僕らのほうでもある程度用意しているから、なにかほしいのがあったら言っておくれよ」
「わかった。それで、案内してくれる設備はこんなところか?」
いろいろ見せてもらったけど、これ以上見て回るような設備もないだろう。
ほかに見せてもらう場所がないか確認して、装備依頼の件に移りたいところだ。
「まあ、そう慌てないでおくれよ。仮面のには最上階にある会議室も案内しておきたいんだからさ」
「会議室? なにか打ち合わせすることでもあるのか?」
「いまはないけどねぇ。ヘファイストスのメンバーには、いちおう案内してるんだ。というわけで、最上階に出発だ」
若様に連れられるまま、エレベーターに乗り込む。
若様曰く、このエレベーターはヘファイストスのメンバーにしか使えないらしい。
そんなエレベーターに乗って最上階にたどり着くと、目の前には大きな扉があった。
「ここが大会議室だよん。下の階にはもっと小さな会議室があるね」
「そっか。で、中も見ていけばいいのか?」
「そうしてもらえるとありがたいかな。では、どうぞ」
促されて扉を開けると、そこは集会所の大会議室にも劣らない広さを持った部屋だった。
部屋の中には誰もいないかと思っていたが、部屋の奥で誰かがなにかをしていた。
そこにいたのは……。
「あれ、大旦那。なにしてるの?」
「うん? エイトに若様か。丁度いいところに来た。話を聞いていってくれ」
うん、よくわからないけど、騒動の予感かな。
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