39.生産者談義

「へぇ。それじゃあ、昨日の夜は桜竜と戦い続けてたわけだ」


 桜竜との戦いに明け暮れた翌日。

 桜竜の陣羽織を作ってもらうため、エミルの工房を訪れていた。


「そうなんだよ、エミル。たまには戦闘もいいけど、さすがに疲れた」

「だろうねぇ。……さて、それじゃ、桜竜の陣羽織作ってくるよ」

「任せた。午後には取りに来るよ」


 桜竜装備はいずれもユニーク扱いではないので、そこまで時間はかからない。

 かといって、午前中にもう一回訪れるのも面倒だったり。


「さて、このあとはどうしようかな」


 ゲーム同好会の皆は、次のクエストに挑んでいるはずだ。

 昨日、クエストアイテムの欠片を集め終わったあとに、俺がアイテム合成をしたのだから間違いないだろう。

 ……それとも、クエストは午後からで、午前中は自由行動かだな。

 どちらにしても、俺には直接関係ないので、特にやることはないわけで。


「……暇だ。想定以上に暇だ」


 せっかくの大型連休、ゲームを存分に楽しみたいのだが……急いでやることもない。

 普段であれば装備作成に精を出すのだが、こういうときに限って依頼を受けてなかったりするのだ。


「……若様に言えば依頼を持ってきてくれるかな?」


 シータサーバーの街並みを眺めながら、フレンドチャットを使って若様に連絡してみる。


『若様、いま暇か?』

『おや、仮面の。珍しいね。暇だけどどしたん?』

『やることがないんだけど、俺ができる依頼とかなにかないか?』

『うーん、依頼かぁ……ないわけじゃないんだけど、仮面のってもう緑妖精の生産道具揃えてる?』

『いや、まだだな。ひょっとして、翠幻竜の装備か?』


 いまの段階で緑妖精の生産道具が必要そうなのは、翠幻竜くらいしか思いつかない。

 すでに依頼がきているのかな?


『正解。いくつか依頼があるんだけど、受け入れ態勢が整っていないからって待ってもらってるんだよねー』

『大旦那とかでも作れないのか?』

『大旦那も道具作成中でっす。というわけで、仮面のも緑妖精の生産道具を早く作ってもらえると助かるなー』


 そういうことなら急ぐとしよう。

 フラスコの手が空いていれば、午後にはなんとかなるだろうし。


『わかった。フラスコに相談してみる』

『頼んだよー。属性道具を持ってる上位生産職、いま現在不足しているからさ』

『了解。またな』


 若様との会話を終えフラスコに連絡すると、すぐにでも作ってくれるらしい。

 幸い、緑妖精素材は大量に持っているため、この際すべての緑妖精製生産道具を発注する。

 フラスコの工房によって素材を預け、鍛冶道具だけはなるはやでお願いした。

 午後にはできるという話なので、また受け取りにくることに。


「さて、道具の依頼も終わったが……結局暇だな」


 やることがないのは結局変わらず、その辺をぶらつくことに。

 ……といっても、シータサーバーから出歩くつもりはないんだけど。


「ゲート付近の露店通りも品揃えが変わってきてるなぁ。昔は初心者向けばかりだったのに、いまは中級者向けも売ってるよ」


 それだけ素材アイテムの流通が活発になったのだろう。

 市場という自動売買システムに頼らず、直接アイテムを売るプレイヤーたちも変わってきているらしい。

 俺も、市場は素材の購入くらいしかしないんだけど。


「……ふむ、見て回るところはこんなものか。やっぱり、やることがないと暇だなぁ」


 緑妖精の素材はあるんだから、緑妖精装備を片っ端から作ってもいい。

 ただ、なにかあったときに素材が足りなくなるのは避けたいから、あまり無駄遣いもなあ。


「お、エイトのダンナ。工房以外にいるとは珍しいな」


 ゲート付近でのんびりしていたら、声をかけられた。

 この声は、ダンだな。


「ダンか。いや、やることがなくて歩き回っていたんだよ」

「ダンナが休日に暇とか珍しい。依頼はないのか?」

「ないわけじゃないらしいけど、いまは保留中。緑妖精の生産道具が完成してからかな」

「緑妖精……ああ、翠幻竜の装備か」


 おや、ダンもそっちの流れになるのか。

 俺の知らない話を知っているのかも。


「ふむ、その話し方だと事情を知ってるのか?」

「あまり詳しいことは知らないけどな。なんでも、今日の未明に翠幻竜の討伐に成功したパーティがいるらしい。たぶん、そいつらが依頼を出してるんだろうなぁ、と」

「なるほど。……俺が言うのもなんだけど、翠幻竜、ずいぶん早く討伐されたな」

「紅幻竜のおかげで、いろいろなアイテムが出回るようになったからな。翠幻竜でも、いままでは見向きもされなかったアイテムが役に立ったとかどうとか」

「へえ、なにが役に立ったんだ?」

「そこまでは俺も。攻略パーティが情報をあまり出してないので」


 まあ、そうだよな。

 最初のうちは、情報をあまり出さないでアイテムを独占したがるだろう。


「だいたいの見当はついてるんですがね。使ったアイテム」

「そうなのか。なにを使ったんだ?」

「ヘビーアーマー、って名前だったかな? ノックバックや吹き飛ばしを無効化するアイテム。それを使ったらしいぞ」


 ヘビーアーマーか……確か、そんなアイテムもあったかも。

 うちにも在庫があった気がするな。


「ふむ。ということは、今後それが流行する可能性もあるのか」

「おや、ダンナも作るのか?」

「あー、いや。俺は作らないな」


 これ以上、お金を集めても仕方がないし。


「俺らもまずは風属性装備を集めているところなんですけどね。……そうだ、ダンナ。緑妖精の装備、作ってもらえるか?」

「ああ、緑妖精でよければ喜んで作るぞ。それじゃ、俺の工房に行くか」

「頼んだ。まずは、防具をよろしく」


 ダンを伴い、自分の工房へと帰ることに。

 ダンから全身装備一式を受注したので、夜までは時間がかかりそうだ。

 いつも通り完成したら連絡することにして、俺は作業場へと向かう。


「さあ、楽しい楽しいアイテム作製の時間だ。よろしく頼むぞ、テンモク」

「ゴォー!」

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