31.アップデート内容の精査

 さて、長時間メンテナンスも明けたその日。

 学校から帰ったら早速Braves Beatにログインした。

 なお、学校は明日からGWゴールデンウィークなので、長期休みとなる。


「……見た目は変わったところがないな。アップデートしただけで見た目が変わったら大変か」


 ぱっと見、自分の姿アバターに変更点はない。

 次に、工房の店舗部分に行って売り物いろんな装備の価格設定をいじってみる。

 すると。


「うーん、確かに上限と下限の金額が設定されているな。これはいろいろめんどくさそうだ」


 それから、ユニーク素材も出品できるようになっていたので、こちらも試してみた。


「……ユニーク素材はかなり高値じゃないと取引できないな。この金額ってNPCに引き取ってもらったときの値段じゃなかったかな」


 ユニーク素材は一個一個の単価が高く、装備ひとつ分を揃えるにはかなりの金額が必要そうである。

 ユニーク装備の出品は……一度使用したものは出品できないのか。

 となると、新しく作って試してみるしかないようだな。


「ものは試しだ。汎用性の高いブレストプレートでも作ってみるか」


 素材自体は赤妖精素材が余っている。

 作製時間も調べたいし、一個作ってみるとしますか。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ふむ、ブレストプレート作製に必要な時間は一時間程度。アップデート前に比べると半分くらいか」


 思い立って実行した結果、だいたいの作製時間は把握できた。

 ブレストプレートとブロードソード、両方とも作製時間が半分ほどになっていた。

 紅妖精装備にアップグレードする時間は試してみないとだけど、基本半減していると嬉しい。


「で、販売金額だけど……。まあ、素材があれだけ高値なんだし、武器も半端な金額じゃないよねぇ」


 作った装備、どちらも数十万Gからしか設定できなくて、いっそ笑えた。

 使った素材を考えれば、その金額+手間賃でちょうどいいのかもだけど、初心者が手を出せる値段ではないようだ。


「あとは、誰かから作製依頼を受けた場合だな。……誰か、ちょうどいい相手はいないかな?」


 作製依頼は自分から自分に出すことはできない。

 したがって、誰かに依頼を出してもらわなきゃなんだが……。

 どこかに、素材持ち込みをしてくれるプレイヤーはいないかな?


「おーい、エイトのダンナ。いるかい」


 作業部屋でひとり悩んでいると、店舗部分のほうから声がした。

 この声は、ダンの声だ。


「ああ、いるぞ。どうしたんだ?」


 作業部屋を出て店舗の入口を開ける。

 そして、ダンを迎え入れた。


「ああ、ダンナ。今日のアップデート内容は確認済みか?」

「大半は確認してるよ。いま、生産回りを確認していたところだ」

「それなら丁度よかった。俺からの作製依頼を受けてもらえないか?」


 ……確かにタイミングがいい。

 狙ってたのではないかと疑いたくなるほどに。


「構わないぞ。それで、作ってほしいのはなんだ?」

「赤妖精の装備を紅幻竜の装備にグレードアップしてもらえるか?」


 うん、本当にちょうどいい。

 しかし、気になる単語が出てきたな。


「赤妖精装備のグレードアップは構わないけど……紅幻竜ってなんだ?」


 赤妖精のアップグレードは紅妖精のはずだけど。

 新しいモンスターでも追加されたのか?


「ああ、そこまで読んでなかったんだな。フランジャだけど、紅妖精から紅幻竜に名前が変わったんだよ。だから、いまは紅妖精装備じゃなく紅幻竜装備なんだよな」

「……なるほど、把握した」


 自分の持っている装備を確認したが、確かに紅玉妖精から紅玉幻竜に名前が変わっている。

 普段は生産用の装備しか身につけていないから、戦闘用装備を確認するのを忘れてた。


「それで、いつくらいまでにできそうなんだい?」

「そうだな……今回のアップデートでどのくらい時間が短縮されたかわからないし、明日の受け取りでいいか?」

「オッケーだ。それじゃあ、素材を渡すぜ。手間賃はどれだけ払えばいい? いまはかなりの金額で請け負ってるんだろ?」

「それなんだが、とりあえず現金の受け渡しなしでできるか確認してもいいか? アップデートで素材の受け渡しや装備の販売に金額制限ができてるから、素材持ち込みの生産にも制限がかかっているか試したい」

「了解だ、ダンナ。引き取るときに下限額が設定されてても、十分に支払える現金を持ってるから気にしないでくれ」


 そういうダンから素材一式を受け取る。

 このときには現金の受け渡しの必要はなかった。


「それじゃ、ダンナ。よろしくな」

「ああ、できたらいつも通り連絡するよ」


 帰っていくダンを見送り、依頼の作業に入る。

 ……作業を始めようとしたところで、晩ご飯の時間が近いことに気がついた。

 一旦ログアウトして、続きは寝る支度をしてからにしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 さて、寝る支度も調えて夜のログイン。

 晩ご飯にはギリギリ間に合ったが、もう少し余裕を持てと怒られてしまった。

 生産が楽しいので、つい時間を忘れてしまうんだよな。


「さて、紅幻竜……だったか? それへの強化作業時間は……一時間半くらいか。やっぱり半分程度だな」


 ダンから頼まれていた作業をこなしていたが、やはり作業時間はアップデート前の半分ほどだった。

 短い時間でたくさんの装備を作れるようになったのは嬉しい。

 なにより、スキルトレーニングがスイスイ進む。

 なお、当然のことながら


「鍛冶レベル50のトレーニング内容に『ユニーク装備の作製』が出てきたからな。可能な範囲でユニーク装備の生産も請け負わないと」


 幸い、必要になる作製数は少ないので、若様に言って仕事を回してもらえばすぐだろう。

 そうと決まれば、若様に連絡……と、メールが届いたな。

 それも若様から。


「なんてタイミングのいい。……なになに『ヘファイストス、全員集合。場所はメールの通り』……なんだこりゃ?」


 若様から届いた全員集合の呼び出しメール。

 さすがに無視するわけにもいかないし、指定の場所に向かおう。

 場所は……ゼータサーバーの集会所?

 ゼータサーバーなんてあったっけ。

 ともかく、ゲートから移動してみよう。

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