32.ヘファイストス結成_1

「や、きたね、仮面の」


 いつの間にかできていたゼータサーバー。

 その集会所前では、若様――若丸=一本道――が待っていた。


「ああ、若様か。ゼータサーバーなんていつできたんだ?」

「そりゃあ、今回のアップデートでだよ。そんなことより、大会議室に行ってくれ。僕はほかの皆を案内しなくちゃだからね」

「わかった。会議室ってことは打ち合わせか?」

「細かいことは大旦那に聞いてくれ。それじゃ、よろしく!」


 若様に背中を押されながら集会所に入っていく。

 若様に指定されたとおり大会議室に移動すると、すでにそれなりの人数が席に着いていた。

 最前列と向き合うように並べられた机に陣取っているのは、大旦那――ゴウワ=スオウ――だ。


「おう、きたか、エイト。適当な席に座ってくれ」

「はいよ。……それで、今日の議題は?」

「ギルド結成についてだ。詳しいことは人数が集まってから説明する。もうしばらく待ってくれ」

「了解。説明よろしくな」


 大旦那との短い会話を終え、適当に空いてる席に着く。

 そして、三十分ほど待ったところで若様が会議室に入ってきて大旦那の隣りに座った。

 それを合図に大旦那が挨拶を始める。


「皆、よくきてくれた。僭越ながら、今回もとりまとめ役は俺、ゴウワ=スオウがさせてもらう」

「同じく、サポートは若丸=一本道でお送りしまーす。さて、今日の議題は、こちら!」

「今日の議題は、本日のアップデートで実装されたギルド結成についてだ。ギルドの利点は、次の通りになる」


 大旦那と若様の説明によると、ギルドを結成すると専用のチャットシステムが開放されるらしい。

 それによって仲間同士のコミュニケーションが図りやすくなると言うこと一点。

 次に、ギルド全体で共有する倉庫が使えるようになる。

 これは、取り出し可能なプレイヤーを制限することも可能なので、素材や完成品の受け渡しにも使えるとのこと。

 ほかにも、ギルド専用クエストを受けることができるようになったり、ギルド加入者のみ受けられる特典があったりなど利点の説明があった。


「そして、利点の最後だが、ギルド共有の拠点を持つことが可能になる。ギルド拠点を購入すれば、まだ拠点を持っていないプレイヤーにも安く拠点を提供したり、ギルドに所属しているプレイヤーが同じショップでアイテムを販売できるようになる」

「質問だ、大旦那。それっていま持っている拠点を引き払うことになるのか?」

「個人ですでに拠点を持っているならば、それを引き払う必要はない。ただ、ギルド拠点に部屋を用意する意味もないと思うがな」

「わかった。説明感謝する」


 そこからいくつかの質問と回答が繰り返され、質問が途切れたところで若様が話の続きを喋り始めた。


「えー、ここまでがギルド結成の利点なんだけど。利点があれば欠点があるんだよね、勿論。それで欠点なんだけど……」


 若様は一度ためを作って話を続ける。


「まずはギルド結成のためのクエストをクリアしなくちゃいけないんだよねぇ。で、そのクエストは戦闘系と生産系に分かれていて、僕らが受けるのは当然生産系クエストなわけだけど」

「クエスト内容は俺が説明しよう。生産系クエストは、いくつかのアイテムを納品することと、一定の金額を納めること、このふたつで成り立っている」

「まあ、そういうわけかな。それで、皆にお願いしたいのは、納品するアイテムを持っていたら売ってほしいことと、ここにいるみんなで資金を出しあってクエストをクリアしたいってわけ」

「さすがに強制はできないが、負担の軽減のためにもなるべく全員から資金を集めたい。勿論、俺や若丸も資金提供は行う。皆も無理のない範囲で資金の協力をお願いしたい」


 話の内容的には筋が通っている。

 生産系のほうはアイテム納品とお金を支払うだけなので、金銭を全員から徴収するというのはクエストに参加するという意味になるだろう。

 問題は、その金額だが。


「大旦那、クエストクリアにはどれくらいの金額が必要なんだ?」

「クエストクリアには二千万Gが必要だ。ただ、それはクエストクリアに必要な金額というだけで、集めたい金額には足りていない」

「ほかにも、なにかに使うのか?」

「ギルド拠点の購入費用も集めたい。購入予定の建物は、このゼータサーバーのゲート前にある最大規模の建物だ。購入にかかる費用はこちらも二千万G、それに各種設備を整えるのに一千万程度とみている」


 大旦那の発言に周囲がざわつく。

 さすがに、合計五千万は俺たちでも厳しい……。


「了解した、大旦那。俺は二百万出そう」

「私は百万で」

「俺も百万だ」

「ゴメン、あたしは五十万かな」


 ……この調子なら厳しくないか。

 五十人以上の人間がここに集まっているわけで、その全員が百万を出せば五千万以上集まる。

 さて、俺も出す金額を言うとするか。


「大旦那、俺は二百万だな」

「お、さすがだねー、仮面の。でも、仮面のところにはあまりユニーク生産を割り振ってなかったけど、大丈夫?」

「これでも貯蓄はかなりあるんだ。二百万程度なら問題ない」

「助かる、エイト。ほかの皆もよろしく頼む」


 その後もギルド資金の申し出は留まるところを知らず、最終的に集まった金額は。


「……六千万か。正直、多すぎるな」

「……僕もここまで集まるとかビックリだ。今日来ていないメンバーにも、資金の提供は呼びかけるつもりだったんだけど、必要ないかねぇ?」

「いや、その呼びかけは必要だろう。公平さを失わないためにもな」

「……でも、そんなにお金を集めてどうするのさ、大旦那」

「……それはこれから考える」


 想定よりも多い金額が集まって少々腰が引けているふたり。

 かなり珍しい光景ではある。


「さて、資金は集まったし、今度はアイテムの購入だな」

「資金は想定以上に集まっちゃったから、買い取りは遠慮しなくていいからね、みんなー」


 クエスト達成のもうひとつの条件、納品アイテムの発表だ。

 納品しなければいけないアイテムは、基本的に各生産スキルのレベル40以上が必要なアイテム、かつ誰かが生産したアイテムじゃなくちゃいけないようだ。

 発表されるアイテムの中には……と言うか、半分程度はユニークアイテムだったりするわけで、普通なら集めるのに苦労するが……。


「そのアイテムなら、私持ってるよ」

「俺も錬金術アイテムなら用意できるな」

「俺も俺も。木工品なら任せとけ」


 まあ、ここにいるのはヘファイストスだ。

 まだまだスキルを上げている途中のメンバーも多いが、三割近くはいずれかの生産スキルをカンストさせている職人集団である。

 ぶっちゃけ、生産廃人のたまり場で用意できないアイテムがあれば、それは素材が足りないアイテムとなるだろう。


「あとは、鍛冶系武器と金属防具か。どちらも品質A+以上のユニーク装備なんだよな」

「ユニーク装備ってのが面倒だねぇ。誰か、用意できる人いない?」


 どうやら、鍛冶武器と金属防具が集まらなかったらしい。

 でも、それってさっき作ってた装備でいけるんじゃないかな?


「大旦那、若様。それって赤妖精装備で大丈夫か?」

「おっ、仮面の。ひょっとして、提供できる装備があったり?」

「あったりするな。アップデートを確認するために作った、ブロードソードとブレストプレートがある」

「それは助かる。いま持ってきているか?」

「済まないけど、店売り設定をしてきたから、工房に戻らなくちゃだな」

「了解した。このあと、受け取りにいこう」


 こうして、すべての条件がクリアできた。

 この会議は終了となり、それぞれが大旦那や若様にお金やアイテムを渡して帰っていく。

 俺もまたその中に加わり、お金を渡して自分の工房へと帰ってきた。


 工房に戻ったら、赤妖精装備の販売設定を解除して回収しておく。

 ついでなので、完成した紅玉幻竜装備をダンに渡すために連絡を入れる。

 完成予定は明日の予定だったけど、早い分には問題ないだろう。

 ダンもすぐに来ると言うことなので装備の用意だけして、工房で待っていることに


「ダンナ、お待たせ! 紅幻竜装備を受け取りにきたぜ!」


 先にきたのはダンだった。

 連絡を入れてから十分程度しか経っていないのだがね。


「早かったな。狩りに行ってなかったのか?」

「いやー、今日は募集が少なくて。できれば紅幻竜をもっと狩って、全身の装備を更新したいんだけど」

「それもそうか。……それじゃあ、強化した装備を返すぞ」

「オッケーだ。……って、ダンナ? 紅幻竜じゃなくて紅玉幻竜になってるけど?」


 まあ、そこは驚くよな。


「条件は不明だが、紅幻竜装備を作るときに特定の条件で紅玉幻竜装備になるらしい。大人しく受け取っておけ」

「よくわからないが、了解だ。手間賃はどうする?」

「とりあえず、ゼロで受け渡しができるか試してもらえるか?」

「わかった。……受け取りできたな」

「そのようだ。素材を全部持ち込んでもらえば、手間賃なしで受け渡し可能か」


 そこの検証も、どこかでしたいな。

 ……若様たちにぶん投げてもいいか。


「さすがにこれだけの性能の装備を無償で受け取れねーよ。どれくらいのお金を払えばいい?」

「……そうだな。三十万でどうだ?」

「安すぎると思うんだが、ダンナ」

「まあ、実験に付き合ってもらったお礼だ。大人しく、そういうことにしておけ」

「わかったよ。じゃあ、これだ」

「毎度どうも。素材が集まったら、ほかの装備も強化してやるよ。あまり値引きはできないけど」

「そのときはたのんます。じゃ、俺はこれで」

「ああ、またな」


 取引を終え、ダンが去っていこうとしたところ、扉が開いた。

 入ってきたのは大旦那と若様だ。


「お、取引中だったかな?」

「丁度終わったところだよ」

「そういうこって。それじゃ、失礼」


 大旦那と若様が道を譲り、ダンが帰っていった。

 入れ替わりにやってきた、大旦那たちと取引しないとな。

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