GW《ゴールデンウィーク》は桜と翠の風に乗り

29.春来たりなば

「あー、昨日の夜は疲れた……」

「さすがに俺も同感だ。それで、頼まれてた装備ってできたのか?」


 ようやく春らしい暖かさがやってきた四月の終わり。

 おれは、友人である和也と一緒に登校していた。

 話題は、勿論《Braves Beat》のことである。


「嵐竜のイヤリングか? あれならもう作って渡したぞ。ユニークアイテムじゃないから作るの簡単だし」

「そうなのか。でも、ユニークアイテムじゃなくてもアイテムの固有スキルってあるんだな」

「一部のボス装備には、な。……実を言えば、嵐竜装備もユニーク装備に格上げできるんだが」


 高レベルボスの生産装備をユニーク装備にすることは可能なのである。

 その中にはストームドラゴンも含まれていた。


「……それって、葉月さんには話したのか?」

「まだ話してないよ。昨日は時間がなかったし」

「それもそうか。でも、早めに話しておいたほうがいいと思うぞ?」


 葉月さん――ゲーム内ではレイ――は装備コレクターでもあるので、この手の話には食いついてくるだろう。

 昨日はあれ以上時間をかけたくなかったので黙っていたけど、あとでちゃんと話をしておかないと。


「わかってる。今日は《Braves Beat》にログインできないし、のんびりさせてもらいますか」

「そうだな。放課後はゲーム同好会によって帰ろうぜ」

「だな。あー、物作りできないのは残念だけど、ゆっくり休める」

「そういや、この前作ってたプラモデルはどうしたよ?」

「とっくに完成してるよ」


 そんなことを話しながら、学校に到着。

 自分たちの教室へ向かう途中、葉月さんと出くわした。


「あ、おはよう、琉斗君、和也君。昨日はイヤリングありがとね!」


 廊下でいきなり大声を出すものだから、周りの注目を集めてしまう。

 それもイヤリングをプレゼントしたなんて、なかなかの爆弾発言をだ。


「おはよう、葉月さん。声がでかいって。ゲームの中とは言え、イヤリングを喜んでくれたなら幸いだよ。なあ、琉斗?」

「ああ、そうだな。さすがに、あんな大声を出されると驚くけど……」


 いまの発言がゲーム内での話だとわかり、こちらへの興味を失っていく周囲の生徒たち。

 和也のフォローがなかったら、余計な噂が流れてたかもしれない。


「あ、ゴメンね。でも、イヤリングありがとう。結構、遅くまでかかっちゃったけど大丈夫だった?」

「俺のほうは大丈夫だったぜ。いつもあのくらいの時間まで起きてるしな。ただ、琉斗はなぁ……」

「俺は普段、あの時間には寝てるから……今日は眠い」

「あはは……ゴメンね?」


 可愛らしく、話をごまかそうとする葉月さん。

 そんなに怒ってないからいいのだけど。


「とりあえず、それはもういいよ。……今日の放課後は同好会に顔を出すけど、葉月さんはどうする?」

「私も行くよ。早く帰ってもゲームできないしね」

「じゃあ、決まりだな。三人で行こうぜ」

「おー!」


 今日も葉月さんは本当に元気だ。

 俺にも、あの元気と行動力をわけてほしい。


「さて、そろそろ教室に行かないとやべぇ。早く行こうぜ」

「もうそんな時間か。急ごう」

「うん、そうだね。早く行こう」


 立ち話をしている間に時間は過ぎ、教室に着いたのは結構ギリギリの時間である。

 それ以外では特に何事もなく、一日の授業を終え放課後を迎えたのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「ようこそ、ゲーム同好会へ。今日は《Braves Beat》にログインできないから、木場君も一緒か」


 ゲーム同好会の部室に着くと、三海先輩の少し棘のある言葉に迎えられた。


「はい。でも、その言い方だと普段はきていないように聞こえますけど?」

「実際、君は滅多にこないだろう? 特にここ最近はきていなかった気がするが」

「……そうでしたっけ?」

「うむ、きていなかったぞ。ユニーク装備の依頼が忙しい、と聞いていたが」


 そういえば、そんな感じだったかも。

 毎日、真っ直ぐ家に帰っては同好会の皆や依頼のユニーク装備を作ってた気もする。


「まあ、ゲーム同好会はそんなものだがね。さあ、入りたまえ」

「おじゃましまーす」

「お邪魔します」

「邪魔しまっす」


 部室にいたのは三海先輩に雨山先輩、絢斗先輩の三人だけだったようだ。

 相変わらず、この同好会は人が少ないね。

 ……滅多に顔を出さない俺が言えた義理じゃないけど。


「お、きたな、三人とも。……ところで、朝、葉月がイヤリングをプレゼントされたって騒いでいたらしいんだが」


 どうやら、絢斗先輩の耳には入っていたらしい。

 あれだけ大声で叫べば当然か。


「ゲームの話ですよ、絢斗先輩。嵐竜のイヤリングですって」


 ここは和也がフォローしてくれた。

 ナイス、和也。


「……だよなぁ。葉月、ゲームのこととはいえもう少し静かにしておけよ。余計な噂が出回るぞ?」

「えー? でも、プレゼントしてもらったのは一緒だよ?」

「……プレゼントというか、葉月さんが素材を集めて俺が作った、それだけなんだけどな」

「えー。素材の剥ぎ取りだって琉斗君のおかげじゃない。プレゼントみたいなものでしょ?」


 俺が否定しても、あくまでプレゼントと言い張る葉月さん。

 さて、どうしたものか……。


「うーん、葉月ちゃんも絢斗先輩も木場君も落ち着いて、ね?」


 助け船を出してくれたのは雨山先輩だった。


「イヤリングを作るための素材を入手できたのは木場君のおかげだけど、素材の入手は皆でやったことでしょ? プレゼントかどうかなんて些細なことだと思うけどなー」

「……それもそうですね。あまりこだわるのはやめましょうか」

「うーん、まあ、いいけど」


 俺たちが納得したことを受けて雨山先輩もにっこり笑う。

 この騒動はこれで終わりかな?


「さて、話は終わったかな? それでは、今日の本題に移ろうか」

「本題? ですか?」

「うん? 木場君はわかってきたわけではないののかな?」

「いや、なんとなく同好会に顔を出しただけですが……」


 俺としては、放課後の時間つぶしと挨拶を兼ねてきただけなんだけど。


「……それもよかろう。で、本題というのはだ、全員で《Braves Beat》のアップデート内容を確認しようではないか!」

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