28.完成、紅玉妖精装備

カクヨムコンに参加するためカクヨム版のみ先行公開しています

本日2話公開の2話目

前話をお読みでない方はそちらからどうぞ


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 紅玉妖精装備を作り始めて一週間が経過した。

 紅妖精装備――というか、紅玉妖精装備――は、ひとつひとつに時間がかかるため、全員分の装備を作り終えるのに一週間かかってしまった。

 とりあえず、皆の分の装備を優先して作り、最後に自分の装備を作ったのだが……非常に疲れた。

 慎重に作業をしなくちゃいけないのに、ひとつ作るのに合計二~三時間かかってしまうのだから。

 装備の引き渡しが終わったら、今日くらいはゆっくり休みたいなぁ。

 また、サーバー内最速討伐報酬の紅妖精装備だが、それぞれが高く売れそうな装備を選んで市場に売りに出した。

 俺もだけど、それなりにいい金額になったみたいだ。

 あと、紅妖精討伐のMIP報酬は火耐性効果のあるアクセサリーだったので、アイテムボックスにしまってある。

 複数回周回した結果、全員分集まったし。


「エイト君! 装備の受け取りにきたよ!」


 工房のほうから元気な声が響いてくる。

 いつも通り、レイは元気だな。


「わかった、これからそっちに行く」


 俺は完成した最後の納品物を持って、作業場から工房へと向かった。

 工房では、ゲーム同好会の皆が勢揃いしていた。

 フォレスト先輩にブルー先輩、ソード先輩、ブレン、レイ。

 今日も五人でどこかに行ってきた帰りなのかね?


「ようこそ、俺の工房へ。……最後の納品ですね。それでは、ソード先輩、こちらになります」

「おう、サンキューな」


 結局、最後まで残ったのは、ソード先輩のハードレザーブーツだった。

 昨日のうちに渡せればよかったんだが……結局、間に合わなかった。

 もう少し作業場が広くなれば……というか、設備更新ができればもっと効率的に作業ができるかもしれないのだが。


「ふむ、これで全員の装備更新が終わった訳だな」

「そのようですね。新しい装備の使い心地はどうです?」

「すこぶる快適だよ。攻撃力も高くなったし、アイテムの固有スキルも強くなった。文句なしだな」

「そうだねー。私も前より頑丈になってよかったよー」

「私も強くなれたよ! もう、紅妖精にだって負けないんだから!」


 女性陣には非常に好評なようだ。

 さて、男性陣にはどうなんだろうね?


「俺も快適だと思うぞ。本音を言えば、もう少し攻撃力がほしいが……」

「さすがにそれは無理ですよ、ソード先輩。片手剣は使いやすさに特化しているので……」

「いや、わかっちゃいるんだよ、わかっちゃ。でも、もう少し攻撃力がほしくなるんだよ、コイツを見てると」

「え、俺っすか!?」


 コイツ呼ばわりされたブレンが素っ頓狂な声をあげる。


「それで、ブレンは使ってみてどうなんだ?」

「おう、俺も絶好調だぜ。ザコなんて一振りで倒せるくらいだからな!」


 どの程度強くなったのかは知らないけど、ブレンも調子がいいみたいでなにより。


「それで、今日はどこに行ってきたんだ?」

「ストームドラゴン! この前PKと戦った時に見た、エイト君の装備がほしくて!」


 あの時見せた装備か。

 ってことは……。


「嵐竜のイヤリングを作りたかったのか?」

「そう、それ! なんだか作りがとってもカッコよかったから!」


 レイはカッコイイ装備もカワイイ装備もどちらも好みらしい。

 そして、装備コレクターの側面もあるらしく、この一週間で合間の時間にいろいろな装備を作って渡した。

 勿論、代金は受け取ってね。


「それで、勝てたのか?」

「辛勝、だな。ギリギリ勝てたのだが……」

「やっぱり素材の品質が低いんだよねー」


 フォレスト先輩とブルー先輩が見せてくれた素材は、どれも低品質なものばかりだった。


「解体ナイフは高品質なものを渡してますから、単純なスキル不足ですね」

「だよなぁ。これは【解体】スキルのトレーニングを積まないといけないな」


 フォレスト先輩が、やれやれと言わんばかりの表情で告げる。


「【解体】スキルは戦闘職なら確実に使いますからね。鍛えておかないと後々苦労しますよ?」

「現在進行形で苦労しているから、思い知っているよ。品質B以上の素材入手がなかなか埋まらん」

「ああ、それ。剥ぎ取り対象のレベルが指定されていないなら、初心者向けフィールドのザコから剥ぎ取れば一瞬で埋まりますよ。ボスも同じことができます」

「……先駆者の言葉は偉大だなぁ」

「私たちじゃあ思いつかなかったものねー」


 疲れた様子の先輩方をねぎらい、レイとの話を再開する。


「で、どうするんだ?」

「嵐竜のイヤリングがほしいんだけど、素材が足りないかな?」


 イヤリングか……。

 あれ、なぁ……。


「素材の数も足りていないが、それ以上の問題が素材品質の低さだな」

「やっぱり、素材の品質が低いと完成品の品質も下がる?」

「いや、それ以前の問題で、嵐竜のイヤリングは品質B以上の素材じゃないと作れないんだよな」

「そんなぁ……」

「というわけで、【解体】スキルのトレーニングを先に済ませてこい。以上だ」


 俺の台詞を受け、レイが轟沈する。

 ゲーム同好会の皆のためにも【解体】スキルのレベルアップは必須だ。

 そんなことを考えていると、レイが復活して俺に質問を投げかけてきた。


「エイト君はどうやって【解体】スキルのレベルを上げたの? 工房からほとんど出歩いてないんだよね?」


 まあ、ごもっともな質問だな。


「そこは知り合いに頼んでモンスターを持ち込んでもらったんだよ。俺は【解体】スキルが上がる、持ち込んでくれた相手は良品質の素材が手に入る。いいことだらけだ」

「なんだか、ずるいなぁ」

「職人の知恵というヤツだ。いまでも持ち込み解体はしているし」


 俺の【解体】スキルは、レベルマックスになっているのでこれ以上のトレーニングは必要ない。

 それでも、素材持ち込みがあれば、手数料をもらってではあるが解体しているのだから文句を言われる筋合いはないな。


「むぅ。それじゃあ、この嵐竜素材からなにか作れない?」

「……さすがに、一戦分の素材じゃあなあ。せめて、あと二~三戦はしてこないと」

「むぅ」


 素材が足りないのではなにも作れない。

 生産職は、素材があってなんぼだからな。


「よし、それじゃあ、エイト君も一緒にストームドラゴンを倒しに行こう!」

「悪いが、却下だ。若様経由のユニーク装備作成依頼が入っているからな」

「そんなぁ……」


 レイには悪いけど、作成依頼が入っているのは事実だから仕方がない。

 さすがに、ヘファイストスの作業を滞らせるのはちょっとね。


「じゃあ、明日とかはどう? いまが無理でも、また今度なら」

「……そもそも、俺の戦闘レベルでドラゴン戦に参加できるのか?」


 馴染みの客から聞いた話でしかないけど、ドラゴン戦はエンドコンテンツでレベル50必須と聞いている。

 さすがに、俺の戦闘レベルは50もないぞ。


「ふむ、いまの戦闘レベルはいくつなんだい?」

「えーと、46ですね」


 フォレスト先輩に戦闘レベルを聞かれたので、正直に答える。

 しかし、それがよくなかったのかもしれない。


「ストームドラゴンは、戦闘レベル45から参加可能だ。なので、特に問題はないぞ」

「やったぁ! 一緒に行こうよ、エイト君!」

「……わかったよ。明日の夜はなんとか時間を作る」

「約束だよ! それじゃあ、私は【解体】スキルを鍛えてくる!」


 約束を取り付けたレイは、嵐のように工房から出て行った。

 そのあとを追って、フォレスト先輩たちも工房を後にする。

 最後に残っていたソード先輩が、「妹が迷惑をかけて済まない」と謝ってきたので、気にしていない、と答えておいた。


 実際、この工房にレイが訪ねてきてから俺の環境は変わってきた。

 主にレイに引っ張り回されている気がするけど、それも悪くないと思える自分がいる。

 なにはともあれ、《Braves Beat》を楽しめているのだからよしとするか。


「……さて、明日の夜に出かけられるよう、依頼を片付けていくか」


 職人街シータサーバーの外れにある工房。

 ここが俺の居場所だ。

 さて、今日も装備を作ろう。

 明日のためにね。




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~あとがきのあとがき~



これにて第一章終了となります。

次話からは第二章が開始予定。

どうぞお楽しみに。


明日からは朝7時の一回更新のみになります。

また、カクヨム版はなろう版・ノベルアッププラス版に比べ先行公開しています。

そのため、ストックの量がかな少なめです。

ストックが尽きましたら毎日更新ができなくなりますがご了承ください。

(約二週間先行しているため、10話くらいストックの差があります)

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