9.モンスター狩り
「さて、フィールドに出たわけだが。ブレンって言ったっけ。このゲームのフィールド設定は覚えているか?」
「ええと、モンスターのレベル帯、フィールドの地形、入手アイテムの傾向、この三つを選ぶんでしたよね?」
「正解だ。今回はレベル帯が3~5、草原フィールド、アイテム傾向なし、この三つを選んでいる」
「なるほど。アイテム傾向なしの理由はなんですか?」
「アイテム傾向を選んじまうと、モンスターが少し強くなるんだよ。だから、基本的にアイテム傾向はなしがおすすめだ」
ブレンに対してダンによる、このゲームのシステム説明が行われている。
フィールド
「……というわけで、鉄製装備で戦えるようになるレベル15帯に入るまではアイテム傾向はなしが無難なんだよ」
「よくわかりました、説明ありがとうございます」
「おう。……そういえば、ダンナはその辺のこと大丈夫?」
「ああ、知ってるぞ。俺の場合、フィールドに出るときは採取が目的だから、アイテム傾向をいろいろいじるけど」
「……戦闘になったりしないんですかい?」
「これがあるから平気」
俺がインベントリから取り出した装備、それは……。
「……影蜥蜴のローブっすか。そんな装備よく手に入れましたね?」
「職人仲間から買った。出回るところには出回ってるんだよ」
「なるほど。納得です」
「……なあ、エイト。その装備って強いのか?」
事情を把握できていないブレンが聞いてくる。
説明くらいならしておいてもいいか。
「このローブは、着ている間モンスターから発見されないようになるローブなんだよ。だから、これを着ていれば安全に採取や採掘ができるんだ」
「へぇ。それじゃあ、それを着てモンスターと戦えば狩り放題?」
「そんな訳あるか。こっちから手を出したら気付かれるよ。手を出した相手だけじゃなく、周囲のモンスターにもな」
「あと、そのローブだが、市場にはまず出回らないんだよ。たまに出回っても恐ろしく高価で買えたもんじゃないぜ」
「そんな貴重なアイテムなのか……」
「ダンナがそいつを持ってるなら、基本は大丈夫そっすね。……それにしてもダンナ、珍しい武器を持ってますね」
ダンは俺が装備している武器を珍しそうに見ている。
実際、俺の顧客にこの武器を使うプレイヤーはいないし、扱いにくいことでも有名だから珍しいだろうな。
「うん? 『刀』ってそんなに珍しい武器なんすか?」
そう、俺のメイン武器は『刀』だ。
刀にもいろいろと種類はあるが、俺が扱うのは打刀。
一番、基本的な刀である。
「ああ、ブレンは知らないよな。……このゲームでも開始当初は刀を使ってるプレイヤーはそれなりにいたんだよ。ただ、なぁ……」
「刀は剣の一種じゃなくて別のスキルツリーだったんだよ。しかも使い方にクセがあるから」
「あー、なんとなくわかった。刀をまともに扱えるプレイヤーが残らなかったんだな」
「そういうことだ。……で、ダンナって刀を扱えるですかい?」
「エイトなら大丈夫ですよ。リアルでも刀を使えますし」
「へぇ。意外だな」
「ほっとけ。……さあ、モンスターが来たみたいだぞ」
見通しのいい草原フィールドなので、モンスターが近寄ってくればすぐにわかる。
近寄ってきたモンスターは……。
「ホーンラビットか。あれなら楽勝だろう」
「……さっきはあれに負けたんすけどね」
「レベルが適正じゃないからだ。いまなら装備も一新したんだし、負けないはずだから頑張れ」
「ダンナも一匹倒してみたらどうです? 全部で三匹いますし」
「……まあ、いいか。ところで、ホーンラビットって数え方『匹』でいいのかね?」
「さあ? さ、きますぜ」
突進してきたホーンラビットは、その勢いのまま額の角を突き出してきた。
ターゲットにされているブレンは難なく躱し、ブ両手剣を豪快に叩きつけて一匹目を倒す。
対して俺は……。
「ふっ!」
刀の抜き打ち……居合いでホーンラビットを切り裂く。
これで、俺のほうも問題なく倒せたわけだ。
その間にブレンは最後の一匹も倒していた。
「お見事。ブレンもダンナも問題なさそうですね」
「ありがとうございます。……つか、こんなに弱かったんすね」
「そりゃあ、このゲーム最弱のモンスターだからな。ダンナもあんな綺麗に戦えるんでしたら、もっとフィールドに出ればいいのに」
「あー、エイトにはちょっと苦手なことがありまして……」
「ダンナの苦手なこと?」
「見てもらうほうが早いか。……エイト、行くぞ」
ブレンは足下にあった握りこぶしよりも小さい程度の石を拾い、俺のほうに投げてきた。
ブレンの意図を探り当てた俺は、その石を切ろうとして……失敗して刀が空を切る。
「……は?」
「エイトって動いている的とかボールとかを、道具でなにかするのが苦手なんすよ。野球とかもボールを投げるのは得意なのに、バッティングは壊滅的で……」
「うっさいぞ、ブレン。野球ができないからといって困るものでもないし」
「まあ、そうだけどよ。お前は極端すぎるんだよ」
ブレンにいろいろ言われるが、すべて事実なので反論できない。
どうしてこんなにできないんだかなぁ。
「うーん、ダンナ。野球以外の球技はできるんですかい?」
「サッカーとかバスケならそれなりにできるぞ。バレーもそこそこ」
「確かに。エイトができないことって、ボール以外の道具を使うものばっかりだしな」
「ってことは、ボールが来たときに目をつぶってるわけでもなさそうですね。……なんで、できないんすか?」
「それがわかれば直してるよ」
「それもそうか。……とりあえず、いまはおいときましょうか」
俺のことはどうでもいいんだよ。
メインはブレンなんだから。
「さて、モンスターを無事倒せたわけだが……経験値は入ったか?」
「はい。【両手剣】スキルと【鎧】スキルに経験値が入りました」
「それならよし。その調子でスキルレベルを上げていくんだ。このゲームじゃ、プレイヤーレベルはないから、スキルレベルがすべてだからな」
「はい。よっしゃ、どんどんモンスターを倒すぜ!」
気合いを入れ直したブレンは、モンスターを探してどんどん先に進んでいった。
さて、俺はどうしようか。
「……ブレンの前では黙ってましたが、ダンナの装備、かなりの高品質品ですよね?」
「ああ、やっぱりわかるプレイヤーにはわかるか」
「そりゃわかりますよ。装備制限がかからないように軽装で固めてますけど、全身上級素材ばっかじゃないですか」
ダンの指摘通り、俺の装備は知り合いに作ってもらった上位装備だ。
どの程度上位なのかといえば、ダンの装備よりも高品質な素材を使っている。
「……やっぱ、職人は横の繋がりが強いっすね」
「どの職人でも、単体じゃ機能しないからな」
俺は鍛冶職人だけど、耐熱装備を作ってくれる服職人や鍛冶道具を作ってくれる道具職人がいないと厳しい。
ユニーク装備を作ろうと思ったらなおさらだ。
「……さて、ブレンのことは任せていいか? 少し採取をしてきたい」
「わかりました。基本はしっかり叩きこんでおきますよ」
「任せた。それじゃあ、またあとで」
モンスター狩りを楽しんでいるブレンはダンに任せて、俺は薬草や鉱石などを集めることに。
初級フィールドだからあまり期待できないけど、多少はアイテムが手に入るだろう。
さて、影蜥蜴のローブを着て行きますか。
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「おう、エイト。戻ってきたのか」
「ああ、いま戻った。そっちは……上々のようだな」
「おうよ、バッチリだ!」
一時間ほど採取をして戻ってきたら、ブレンが狩ったモンスターに解体ナイフを突き立てているところだった。
ちなみに、解体ナイフも銅製のいいやつを渡してある。
「ダンナ、ブレンの教育はバッチリですぜ」
「ああ、ダンさんにいろいろ教えてもらえたし、スキルレベルも軒並み5を超えたぞ」
「それはよかった。それじゃあ、あとはひとりでも大丈夫か?」
「まあ、なんとかなるだろ。ダンさんともフレンド登録したしな」
ほう、そうなのか。
それはちょっと意外だったぞ。
「本人のやる気がすごいですからね。まあ、先行投資ってヤツですよ」
「ならいいんだが。それじゃあ、俺は帰っても大丈夫か? そろそろ晩ご飯の時間だ」
「え、マジか。……俺もログアウトしなくちゃ」
「まあ、基本は教えたし大丈夫だろ。それじゃ、解体を済ませちまうぞ」
「はい!」
あのふたり、なんだかんだで気は合いそうだな。
……さて、帰るか。
「それじゃ、俺はこれで。またなにかあったら工房に来てくれ」
「ちょっと待て、エイト。フレンド登録が済んでないぞ」
「あ、忘れてた」
ブレンとフレンド登録を終わらせ、今度こそ街に戻る。
工房まで戻ったら、ログアウトして晩ご飯だな。
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