17 seventeen ice

360words (あいだ れい)

『17 seventeen ice』

鼻を突くような独特の塩素の香り。ある夏の日の思い出。中学生の夏。俺は、みさきと一緒に市民プールに来ていた。まぶしい日差しから逃れるように、プールは客でごった返していた。昨日はあまり混んでいなかったはずだ。俺とみさきは、一度プールの中に入ったものの、人の流れに押し負けてすぐに上がることにした。市民プールの受付のところでみさきを待っていると、すぐにみさきは、着替えを終えてやってきた。いつもはポニーテールのみさきが、お団子にまとめていた。毛先の方を見ると、まだ少し湿っており、少しだけしか入ってないとはいえ、体は濡れていたらしい。いつものラフなTシャツ短パン姿。だが今は、いつもはポニーテールによって隠されている、純白のうなじがあらわになっていた。湿ったうなじ。なんなんだ、この湧き上がる感情は。未知の感情に体の支配を奪われたような感覚だった。俺は、みさきの言葉を話半分で聞いていた。こっそりうなじを見ていた罰が当たったのだろう。俺は、自販機のアイスクリームをみさきに奢らされていた。解せぬ。市民プールの建物の外。自販機たちによって、ちょうど日陰になっているところ。目の前にはジュースの自販機。そしてアイスクリームの自販機が大きな音を立てながら、一生懸命アイスクリームを冷やしつづけてていた。自販機の中には人が入っている、なんて嘘を信じていたのはいつまでだっただろう。そんなことを考えながら、みさきと二人。ベンチに並んで座って、アイスクリームを食べる。ふと空を見上げる。「大人になったら私たち、どうなるんだろ……?」みさきが唐突に言った。「少なくとも、アイスを並んでは食えないだろうな」俺は返す言葉が出てこず、適当な言葉でしか返せなかった。「……あのさ、今年でさ! 一緒に花火大会行ったりするの、やめない?」

 蝉の声。反響。

 今年も夏は、通り過ぎようとしている。俺らの夏は、ここに置いて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

17 seventeen ice 360words (あいだ れい) @aidarei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ