4.25歳の秋(1)
高校を卒業して、私は地元の看護専門学校に入学し、そのまま地元の病院に就職した。
いくつかの秋を越えて、私は二十五歳になった。
相変わらず実家にいて、家事は全部お母さん任せ。だって昼勤、夜勤があって毎日クタクタなんだもん。
いま担当しているのは小児科。子供の相手ってめちゃくちゃ大変だしさー。
「香澄。あなたねー、少しは家事を覚えなさい!」
休みの日の午前11時過ぎ。リビングのソファでゴロゴロする私に向かって、お母さんが忙しなく掃除機をかけながら声を荒げる。
「昨日は本当に忙しくて大変だったんだから。ちょっとゆっくりさせてよー」
「お嫁の貰い手がなくても知らないわよ。彼氏はいないの?」
「いたら休日にゴロゴロしてないよ、もう」
これ以上の砲撃は精神的に厳しいので、むっくりと起き上がる。
そう言えば最近、オシャレもサボっちゃってるなあ。洋服もここ二年ほど新調してない。
思い切って買い物に行こうかな。
「私があなたの年にはもうあなたを生んでたわよ」
「ったく、二言目にはそれだ。今はそんな時代じゃないんですぅ。だいたい、お父さんとは見合い結婚でしょ?」
「恋愛結婚よ!」
「あれ、そうだっけ? 伯母ちゃんのツテで紹介してもらったっていう話じゃなかった?」
「それでも、ちゃんと恋愛してから結婚したんだから恋愛結婚よ。見合い結婚っていうのはね、こう四角い写真が釣書と共に送られてきてね……」
「その辺の違いはどーでもいい」
「だから圭司さんとはそういうんじゃないのよ。少しずつ距離を縮めていったんだから。まずはね……」
「またお父さんの話ー? もう聞き飽きたよ」
圭司さんというのはお父さんのこと。
棚橋くみこ、これがお母さんの名前。そして私、棚橋香澄。
お母さんは自分の名前が平仮名だったのが本当に嫌だったらしい。だから私にはちゃんと漢字の名前をつけたのよ、と威張っていた。
みんなイニシャルがT・Kでお揃いなの、といつまでも少女のようなお母さんが象徴しているように、私たち三人家族はとても仲良しだ。
そして特に、お母さんはお父さんにベタ惚れだ。未だに恋人のようにお父さんを名前で呼ぶ。
伯母ちゃんはお母さんの五つ年上。その同級生がお父さんで、伯母ちゃんが高校生でお母さんが小学生の頃、一度仲良しグループで家に遊びに来たことがあるらしい。
お母さんにとっては憧れのお兄さん。それ以来まったく会うことはなかったけど、大人になってから伯母ちゃんとお父さんが再会して、そして元カノと別れたばかりと聞いた伯母ちゃんが妹に紹介して……みたいな流れだそう。
そのあとの話は何回も聞いてるしこれ以上はたまんないわ、とそそくさとリビングを逃げ出した。
自分の部屋に戻って、部屋着を脱ぐ。
そうだ、このネイビーのタートルに似合うボトムスを探そうかな。お気に入りのジャンパースカート、もうだいぶんくたびれてるし。
ちょっと贅沢してホテルのランチバイキングに行こうかな。一人の方が気兼ねなく食べれるし、ゆっくりできるし。
気分を上げるためにちゃんとした格好をして、髪も整えて、久しぶりにきちんとメイクもして。
秋の木枯らしが吹き抜ける外へと、飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます